第28話:葛原葛男と網走颯
俺・白雪・桜の三人が、集合場所である朝礼台の前に並ぶと――既にそこで待機していた男が、軽薄な笑みを張り付けながら、こちらへ向かってくる。
(……こいつが
白雪の調査書に顔写真があったので、一目見てすぐにわかった。
網走
癖の強い
「やぁ、逃げずによく来たね。その勇気だけは褒めてあげるよ――
明らかにこちらを見下した網走は、大きくバッと両手を広げる。
「ふふっ、凄い数だろう? せっかくの弾劾裁判だからね。みんなに見てもらおうと思ったんだ、キミの惨めな醜態をさ!」
どうやらこの大観衆は、俺を晒しモノにするため、わざわざこいつが呼び集めたものらしい。
まったく、いい性格をしているな……。
「おいおい葛原、黙ってばかりじゃ盛り上がらないぞ? この裁判は『ショー』なんだ! 何か面白いことでも言って、この場を温めてくれよ! ――ってごめんごめん、キミのような陰気な男には、ちょっと難しいお願いだったかな?」
網走が
「あ゛ー……それじゃ御要望にお応えしようか」
「おぉ、なんだいなんだい?」
「お前の妹、網走
「何故、妹のことを……っ。まさか、
「ただの世間話だ。それよりどうだ、温まったか?」
「くっ、ふざけた真似を……ッ」
網走は眉間に皺を寄せ、ギッとこちらを睨み付けた。
すると次の瞬間、桜が興奮気味に声をあげる。
「く、葛原選手、開幕早々になんというダーティプレイでしょうか!? 相手の心を揺さぶるいやらしい
「実況になった覚えはありませんが……。葛原くんは心理戦のエキスパート、口も立つし頭も回る。そして何より、やり方が陰湿極まりない。彼に
そんなこんなをしているうちに、本校舎から出てきた
「えー、おっほん……。定刻になったので、これより
彼女の張りのある声が、校庭に響き渡った。
「
先生はそう言って、簡単にルールを語った。
弾劾裁判は、三種の競技を実施し、先に二本獲った方の勝利。
第一種目は発起人が、第二種目は現職の生徒会役員が、それぞれの得意な競技を選択。
最終種目のみ、厳正なる抽選によって決定する。
特に変わったことはない、二本先取のシンプルな実力勝負だ。
「ではこれより、第一種目を
「もちろん、『400メートル走』――っと言いたいところですが、さすがにそれは
「よし、わかった。それではこれより、第一種目ハンドボール投げを実施する!」
それから俺たちは、陸上部が練習で使っている、砲丸投げのエリアへ移動した。
「さて、と……ボクが先手でいいかな?」
「お好きにどうぞ」
「ふふっ、では遠慮なく」
網走はハンドボールを握り、サークルの中で精神を集中。
そして――適度な助走と共に、勢いよく投げ放つ。
「ハァッ!」
ボールは斜め45度、ぐんぐんと飛距離を伸ばしていき――やがてボスンと落下。
「――52メートル!」
記録測定係が、大声で結果を報告した。
「ご、52……!? ハンド部の俺でも40そこそこだぞ……っ」
「ヤバッ! 網走くん、めちゃくちゃ
「さすがは
野次馬勢の反応を見て、
「ふふっ、まぁこんなものかな。――さて、次は葛原の番だ。オーディエンスに笑われないよう、精々頑張るといい」
「はいはい」
俺はサークルの中央に立ち、大きく腕を振りかぶり、それなりの力で投げる。
「そら……よっと!」
ボールはかなりの勢いで進み――遥か遠方でボスッと落下。
「――32メートル!」
記録係が読み上げ、
「ふむ、第一種目の勝者――
あっという間に0勝1敗。
次の勝負で負ければ、副会長追放。
早くも崖っぷちに追い込まれてしまった。
「く、葛原くん……っ」
「こらー! なんですか、今のダルそうな投球は!? もっと気合いを入れてください!」
「うるせー。気合いで飛距離が伸びるか」
高二男子の平均記録は、27メートルそこそこ。
32メートルは、それなりにいい結果だろうが。
「くくっ、葛原が副会長でいられるのも、後ほんの僅かな時間だけだね。――さぁ、次はそちらの番だ。もちろん、遠慮はいらないよ? キミが最も得意とする競技を選ぶがいい!(知力・体力・運動能力……どれ一つとして、こいつに負けるものはない!)」
「そうか。そんじゃ二戦目は――
俺はそう言って、右腕を軽くあげた。
「……なんだ、それは?」
「じゃんけん」
「じゃ、じゃんけんだと……!?(たった一度の貴重な選択権、それを勝つも負けるも2分の1――
網走は何故か固まっていた。
あれ、もしかして……じゃんけんのルール、知らない?
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