第13話 バイト先で
ゴールデンウィークの時にたくさん散財した俺は、お金を稼ぐべく連日バイト漬けの生活を送っていた。
俺が働いているのは、中華料理を専門とする店だ。
地元住民に人気があるため、平日の夜でもやって来る客の数は多い。
せっせとラーメンを作っているうちに、気づけば時刻は九時を過ぎていた。
「今日はいつもよりもお客さん多いですね」
オーダーを片付けて一息ついていると、キッチンの別の場所を担当している女の子が話しかけてきた。
彼女の名前は
別の高校の生徒で同い年なんだけど、この店にアルバイトとして入ってきたのは彼女のほうが後なので先輩後輩という関係になっている。
入ってきたばかりの彼女に俺が仕事内容を教えたのもあるが、同年代で意外と趣味が合うということで、それなりに仲良くしていた。
「だな。まあ、ゴールデンウィークの時と比べたら、圧倒的に少ないんだけど」
「あの時は大変でしたね」
少しの間、他愛のない話をしていた俺たちだが、すぐに話題は変わった。
「先輩にお勧めされたラノベ読みましたけど、めっちゃ面白かったですよ!」
「お、やっぱ天月もそう思うか」
「ええ。クライマックスで主人公が愛を叫ぶシーンなんて、すごく最高でしたよ!」
「あれはめちゃくちゃエモいよなぁ」
「エモいエモい」
ラノベ談義に花を咲かせつつ、時々入ってくるオーダーをそつなくこなしていく。
もう少しで上がる時間が近づいてきたというところで、楽しげに話していた天月が急に固まった。
引きつった表情で、俺の後方、それも上のほうを凝視している。
突然どうしたんだと思って後ろを見れば──。
「うわぁ!?」
天井からうっすらと体が透けている人間が生えていた。
年のころ十七くらいで、恨めしそうに俺たちのほうを見て……。
「……って、レナじゃねーか! お前は鍾乳石かなんかか!」
天井から逆さまに生えてるとか、それもう普通にホラーだから!
天月のほうを見れば、案の定ビックリして固まったままだった。
「あー、こいつは俺の知り合いで、レナっていう。見ての通り幽霊だ」
『ちなみに中級悪霊よ』
「ゆ、幽霊ってホントにいたんだ……。見るの初めてです……」
『その言い方だと、アンタも霊感はないみたいね。海斗と同じで、私と波長が合ったっぽいわね』
天月はレナに驚いたものの、俺の説明をすぐに呑み込んだようで。
すぐにいつもの態度に戻ってから、ニヤニヤした表情で聞いてくる。
「お二人って仲良さそうですけど、どのような関係なのですか?」
「ん? まあ、わけあって同居してる感じだ」
『仕方なく同居してあげているわ』
「世話される側が何を偉そうに」
いつものように軽いやり取りをすると、その様子を見ていた天月がからかうような表情を浮かべた。
なんか、嫌な予感がした。
「ふむふむ。先輩はこんな美少女と同棲していると。ラブコメ小説みたいなことしてるんですねー」
「『こんなやつのこと好きじゃないから!!』」
「息ピッタリで仲良しじゃないですか」
「『どこが!!』」
「そこが」
小悪魔的な天月に翻弄される俺たち。
完全に天月のペースに呑まれている。
俺は話題を変えようと思って、気になっていたことを尋ねた。
「なあ、レナ。なんでわざわざここに来たんだ?」
というか、方向音痴なのによく来れたな。
『ほら、ここ最近の海斗はバイトばっかりだったからさ。あまり海斗の作る料理食べれてないから、賄を作ってもらおうと思ったの』
「なるほど。先輩はいつも手料理を振舞っていると。メモメモ」
「メモしないで?」
天月がニヤニヤしながらお構いなく~と言ってくるので、俺はしぶしぶ話を戻す。
深掘りすると面倒なことになりそうだからな。
「賄を作れって、さすがに二人分は無理だぞ」
『海斗の物は私の物!』
「お前はどこぞのガキ大将か。まあ、憑依して食べるんなら問題ないな」
『ん。じゃあ、そう言うことで』
そうこうしているうちに十時を回ったので、俺と天月はそれぞれ自分の分の賄を作ってから上がった。
レナは上機嫌で俺たちの後ろをついてくる。
お盆に乗せた料理を休憩スペースまで運んだところで、改めて自己紹介することになった。
『
「私は
自己紹介が終わったところで、賄を食べながら雑談する。
初対面だけど馬があったようで、レナと天月はあっという間に仲良くなった。
この時の俺は知る
天月によって、俺だけじゃなくレナまでもが振り回されることになるとは。
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