第123話 迫りくる脅威

遅くなり申し訳ございません。






「ではケイゼ、この後は頼むよ。相談役と同時に戦力としての役割も兼ねているんだからな」


「ああ、勿論判ってる。今回頼まれた任は全うしよう。……という訳で悪いがクライ、君たちには同行できない」


「流石に学園の研究棟暮らしで勘の鈍ったケイゼには、あまり無茶させるつもりはないから安心してくれ。遠距離からの攻撃、それも切り札として使わせて貰うだけだ」


「なんだと!? エディレーン! 別に私は鈍ってなんか――――」


 冒険者たちの指揮をとるエディレーンさんと護衛役として側に控えるケイゼ先生と別れ、俺たちは戦場に赴く。


 数々の魔法と最上級魔法によって荒らされた大地には生き残り散らばったスライムたち。

 通常のスライムはほとんどが倒された様子なものの、上位個体はまだ多く生き残っている。


 初級冒険者たちの多くはエディレーンさんの指示で互いにサポートし合いながら戦う。

 時に配置を変え、役割を変え、強い個体には数で当たる。


 エクレアの願いを受けて共に戦ってくれるイクスムさんと臨時のパーティーメンバーとしてアイカを加え戦う俺たちの前に、立ちはだかるのはスライムの上位個体たち。


 体色は赤、火属性のラージレッドスライム。

 体色は青、水属性のラージブルースライム。

 体色は白、光属性のラージホワイトスライム。


 いずれも属性ありなため討伐難度はC+。

 体長一・五m前後の不定形で流動的な身体をもつ魔物。


 入り乱れたスライムが魔法を駆使して襲いかかってくる。


「スライム上位個体三体! 数が多い! 魔法攻撃に気をつけろ! 【クォーツアロー3】!!」


 ラージレッドスライムの火球と真正面からぶつかり合う水晶の矢。

 ニールの警告と共に放たれた水晶魔法が戦いの合図となった。

 

「……【ブルームカッター・スピン3】」


 エクレアの三体のスライムを纏めて攻撃する回転する青い花片の刃。


「――――っ」


 対処したのはラージブルースライム。

 即座に水の分厚い壁を作りだすと花片の刃を受け止める。

 

(《ウォーターランパート》ほど強固ではなさそうだが、回転する刃が止まった。意外にも柔軟に妹様の魔法を受け止めるものだ)


(属性ありのラージスライムの扱う魔法は中級魔法級の威力があるらしいから警戒しないとな)


「確かスライムは斬撃には弱いんだよ、ねっ!」


 アイカが彼女の天成器ナハトアイレで斬りかかる。

 第一階梯では小刀だったそれはいまや第二階梯へ到達し大剣に姿を変えた。


 流動する身体をもつスライムには有効な斬撃を至近距離から繰りだす。


「わっ!? 眩しい、ナニコレ!?」


 ラージホワイトスライムが接近してきたアイカに一瞬だが全身を激しく発光して目を眩ませる。

 絶妙なタイミングで放たれた光はアイカの大剣の一撃を空振りさせ隙を生む。


[――――ッ!]


「不用心に飛び込むとは……。勇ましさと無謀を履き違えてはいけませんよ。【変形分離:魔掃二刀小太刀】」


「ごめんなさ〜い!!」


 イクスムさんがアイカのフォローに回ってくれた。

 ラージホワイトスライムが放った六本の光の矢を二刀の小太刀で次々と斬り落とす。


「打撃は効きにくくても、突き技はどうだ。行くぞ、べイオン! 【闘技:旋回貫き】!」


 イクスムさんが注意を引いてくれている間にラージホワイトスライムに肉薄したニールが渾身の闘技を放つ。


 ニールは普段は水晶魔法を主体に戦ってはいるが、接近戦が不得意な訳ではない。

 なにより俺も闘気の扱いについて習ったけど影の護衛であるフージッタさんに常日頃から闘気について教わっているためいくつかの闘技も使えるらしい。

 獣人特有の高い身体能力に加えて培った努力により、接近戦も遠距離戦もこなせる万能の戦士といってもいいだろう。


 棒の天成器べイオンさんで捻りを加えた突きを放つ闘技。

 ニールの放ったそれはラージホワイトスライムに三十cmほどの風穴を開け、流動する身体の一部を吹き飛ばす。


「!?」


「クソッ! 核は外れた!」


 ラージスライムの核は一つ。

 特別頑丈な部位だが、核さえ砕くか体外に摘出すればそれでスライムは倒せる。

 おしかった。


「っ!」


 ラージブルースライムが一際体表を蠢かせた。


 攻撃の予兆!


 突出していたニールを守るため前にでる。


 予感は的中した。

 ただ攻撃の規模が違う。

 光線魔法のような太い水のレーザーが俺たち全員に向けて一斉に放たれる。


「ラウルイリナ! 防御を!」


「ああ! オフィーリア!」


 ラウルイリナの城塞のような盾の天成器オフィーリアが、エクレアたちを一纏めに守ってくれた。

 こっちに向かってきた水のレーザーも盾で上手く弾けたし良かった、全員がなんとか耐えしのいだようだ。


(それにしても、オフィーリアは相変わらずの頑丈さだな。大分水魔法を受けたはずだがびくともしないし、まったく破損する様子もない。アラクネウィッチの魔法攻撃を簡単に受け止めていた時も思ったが相当な防御性能がある)


(ラウルイリナ自身は盾を構えて移動するのは闘気で身体能力を強化しないといけないといっていたから、動かせない訳ではないんだろうけど、それでも防御に特化した盾なのは間違いないな)






 属性スライムの上位個体三体ともなると苦戦を強いられる。

 それでも、息の合った仲間たちの連携を前にしては彼らが俺たちに敵うわけがない。


 ニールの水晶魔法は土属性の派生だけあって質量のある魔法だ。

 多少の火魔法や光魔法は物ともせずに進み、放つ闘技も相まって確実にスライムたちの身体を削る。


 ラウルイリナの剣技は始祖の剣によって威力を上乗せされていた。

 魔物素材で作られたという始祖の剣は彼女の淀みない剣技によって初級魔法程度の威力の魔法攻撃は容易く切り裂く。


 さらに、スライムたちの放つ大規模魔法攻撃も瞬時に起動できるオフィーリアによって問題なく防ぐことが可能だ。

 以前より視野が広くなったと感じる彼女は即座に仲間のフォローに向かってくれるため防御面でもかなり助かっている。


 複合魔法因子を扱えるエクレアは攻撃の切り札にもなり得る。

 素早い身のこなしから繰りだされる双剣の舞いに、高威力の魔法。

 複数の魔法因子で範囲と威力を変化させるエクレアはスライムたちを翻弄する。


 そんなエクレアの従者であるイクスムさんはなぜかアイカをサポートしつつ戦ってくれていた。

 アイカの多少無鉄砲なところがイクスムさんの琴線に触れたんだろうか、文句をいいつつも一つ一つの動作や行動を指導しながらすぐ近くでフォローしてくれる。

 お陰でアイカは伸び伸びと戦えているようで、少し不機嫌そうなイクスムさんにお礼をいいながらも積極的に戦いに参加している。

 学習速度が早いのか、スライムたちの魔法攻撃も難なく対処するようになってきており、イクスムさんですら呆れた顔をしていた。


 俺はというとスライムには案の定弓は有効ではなかった。

 不定形の身体は矢が刺さりはしても身体の奥深くまでは届かない。

 闘気で強化しても狭い範囲でしか威力が及ばず、ウェポンスライムと違い体内にある核の場所を見破り一点突破するのも難しい。


 そのため、斬撃を繰りだせる刃を備えた一刃の盾で防御しながら、手甲の状態に変形させたミストレアの杭を攻撃の要として戦っていた。

 

「止め……【ブルームニードル・ヘリックス】」


 ラージホワイトスライムの身体を螺旋を描く青バラの魔法が貫き穿つ。


「【クォーツスプレッド】……そこか! 【闘技:旋回貫き】!」


 至近距離から放たれた拡散魔法でラージブルースライムの体表全体を攻撃したニールは、その変化の様から核の場所を見極め狙い澄ました闘技を放つ。


「ミストレア! やるぞ!」


「「発射ッ!!!」」


 一撃の威力に優れる杭は闘気強化を施せばスライムの身体の大部分を一度に攻撃できる。

 放たれた杭はラージレッドスライムの身体を核ごと纏めて吹き飛ばした。






「戦い辛かったから苦戦したけど、流石にオレたちの敵じゃなかったな。割と楽勝だったんじゃないか?」

 

「ニール、油断するな。まだスライムは数多く残っている。少しでも数を減らして他の冒険者たちや騎士たちを助けないと」


「悪りぃ、悪りぃ」


「でもわたしたちかなりイケてたよね。連携も上手くいってたし。もしかして、この調子なら一攫千金も夢じゃないっ!?」


 戦果にはしゃぐニールとアイカ。

 そんな二人に溜め息こそついているものの、ラウルイリナもどこか嬉しそうだ。

 

 しかし、勝利の余韻に浸る間もなく新たな敵が現れる。


(接近してくる反応があるぞ! 警戒しろ!)


「敵だ! 皆、気をつけてくれ!」


 ミストレアの念話を受け周囲を見渡す。

 視線の先には一体のスライム。

 周囲を取り囲んで戦っていた騎士たちを弾き飛ばしたようで一心不乱にこちらに突進してくる。


「何アレ!? 気持ち悪〜い」


「触手、か? 身体から何本も生えているぞ」


 ラージスライムより大きく、マウンテンスライムよりは小さい二m前後の魔物。

 不定形の身体からはそれぞれ長さの異なる一mから三mほどのくねくねと動く触手が伸びている。


「テンタクルスライムですね。身体から伸びる触手は柔軟で強烈な打撃を放ち、自在で精密な動きを誇るラージスライムの上位個体の一つ。しかも、属性付き。体表が黒いですからあれはテンタクルブラックスライムのようです」


 艶かしく蠢く触手を伴ってさらなる強敵が俺たちの前に現れた。

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