ぼくたちのメリークリスマス

中田もな

ぼくとユールのクリスマス

 昔の人がお祈りの言葉を覚えてから、千七百回目の冬を迎えた。ぼくは友だちのユールと一緒に、おそろいの真っ赤なマフラーを巻いて、ガス灯のついた大通りを歩いていた。ふわふわと落ちる白い雪が、ぼくたちの楽しい気分を盛り上げてくれる。

「見ろよ、ノエル! こうやってつかまえて、溶けない内にぱくっと食べるんだ!」

 ユールは右手で雪をつかまえて、口をもぐもぐと動かした。ぼくも両手をお皿の形にして、必死にユールのまねをした。

「ねぇねぇ、ユール! ぼくの雪、ぱくっと食べる前に、手の平の上で溶けちゃうよ!」

「まったく、ノエルは下手っぴだなぁ! ぼくなんか、こんなに上手くできるのに!」

 ぼくたちはしばらく雪をつかまえ合って、それから通りのお店でアイスクリームを買った。ぼくはスープを飲むのがいいと言ってみたが、ユールはアイスクリームがいいと言ってきかなかった。

「なぁなぁノエル、知ってるか? アイスクリームって、王さまの食べ物なんだぜ! お店のアイスクリームもおいしいけど、王さまの食べるアイスクリームは、もっともっとおいしいんだって!」

「王さまの食べるアイスクリームは、ぼくたちのものとは違うの?」

「違うもなにも、大違いさ! 甘くておいしいクリームが入っているんだから!」

 氷がしをなめながら、ぼくたちは公園にやって来た。ベンチの上のブリキ屋根から、つららがしゅしゅっと垂れている。

「つららを叩くと、楽器の音が出るんだぜ!」

 ユールは雪に落ちた小枝を拾うと、つららの根元をコンコンと叩いた。ぼくにはよく分からないけど、何かの歌のメロディーみたいだ。

「この歌、教会でよく歌うんだ。ぼくの好きな、クリスマスの歌!」

 ふんふんとメロディーを口ずさみながら、ユールはつららを叩く。ぼくはアイスクリームを全部食べきって、しばらくぼうっと雪をながめていた。

「ノエルはさ、どうして教会に行かないの? ぼくと一緒に、クリスマスのお祝いをしようよ!」

「行きたいけど、行けないよ。ぼくのお母さんが、町の教会に行ってはだめよって言うから」

「いったいなんで、そんなこと言うんだろ? 町の教会はとってもいいところだし、クリスマスのお祝いはとっても楽しいのに」

 ユールは不思議そうな顔をして、ぼくの方をちらりと見た。ユールはぼくの家と違って、楽しいクリスマスを過ごすらしい。

「……ぼくのお母さんは、クリスマスが嫌いなの。弟のナタルがクリスマスキャンディーをもらったときだって、顔を真っ赤にして怒ってた」

「ふーん、ヘンなの!」

 ユールは枝を捨てて、もう一度大きな声で言った。

「ノエルのおうち、ヘンなの!」

 ぼくはじっとだまったまま、とぼとぼと雪の上を歩いた。……ヘンなのって言われたのが、ちょっとだけ悲しかったから。

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