第9話 塔で愛されて

「面倒なことになってきたわ」

 アンジュはメイドに連れられて、塔の最上階の部屋に連れてこられた。

 見たことも聞いたこともない、湖畔に立つ小さな塔なのだが、最上階は部屋がある。

 しかし、ゼストが言うように広いわけではなく、湖畔を望めて眺めが良いだけだった。

「どうして、こんなこと……」

「俺がアンジュを好きだから」

 ひくひくっと顔を引きつらせて、アンジュは振り向いた。

 ゼストが腕を組んで壁にもたれて立っている。

 気配も感じずに扉の前にいて、心臓が止まりそうだ。

「この塔のことは知らないね?」

「はい……」

「説明するとわりと歴史があるんだが、簡単にいえば、王の本気の証を示す場所」

「はい?」

 アンジュは目を瞬かせた。

「本気で好きになったのは君だけだよ。アーネストに好意を抱いたことはないし、ここに連れて来たこともない」

「い、いえっ! 結婚しているじゃないですか!」

「政略結婚のこと、知らないとは言わせない」

「ですが。自愛に満ちて、王に尽くしていると聞いています」

 アンジュを真剣な眼差しでゼストに行った。

 彼は寂し気に、視線を逸らす。

 そして小さくため息を吐くと「それを信じるのか?」と訊いてきた。

「どういう意味ですか?」

「そのままさ、自愛とか尽くすとか、そういう言葉はアンジュに似合うと思うが?」

「私?」

「そう、もう止めよう、この話は。ここは王の愛を受けられる部屋なんだ」

 アンジュは後ずさりしていると、ベッドに倒れ込んでしまった。

「気が付いているだろ? ここにはベッドしかないこと」

 ごくんと生唾を呑む。

 性格にはベッドとチェストだけ。

 そのチェストは飾りなのだと思ったのは、引き出しが開くことがなかったからだ。

「どうして……?」

 潤んだ瞳で見つめると、ゼストは微笑んだ。

「何度でも言おう。好きだから」

「なんで、私を」

「君しかいないから」

「だって、おかしい……」 

 そう言われた途端にキスをされる。

 以前された蕩けるようなキスではなく、少し強引に舌が侵入するようなキスだ。

 強引に舌を絡めとられて、息が弾んだ。

「待って……」

「待てない。アンジュのことを待っていられない」

「そ、んな」

 涙が出そうな思いになるが、じわじわと腹の奥が切なく疼いてしまう。 

 本当は好きになりかかっていることを自覚させられてしまうばかりだ。

 ただ、不倫だから自分もゼストのことも許せない。

 じゃあ、何もなく出会っていたら、許せた? と自問自答する。

(それを考えたら、答えが出なくなるのよ……)

「はぁ……はぁ……んんっ」

「キスだけでもイケそうだろう?」

「そんなわけない……」

 とろんとした顔でゼストに言ったが、口内を舐られて涎に塗れてしまうと恍惚とした。

 頭の中はゼストのことで満たされて、拒否する気持ちが薄れてしまう。

 やはり、自分も彼を好きなのだ。

(だめ……だめだっ。こんな人を好きになったら、不幸になるだけ。オーフィリア国の王よ)

「どうした? 蕩けた顔をしているが、俺のことを考えていないな?」

「ど、どうして分かったの?」

「甘えた声が聞こえてこない。集中しないから、感じてないんだろう?」

「ちがっ……ふぁっ……あっあっ……そこ、そんな……汚い……」

 ゼストから強引に足を広げられてドロワース越しに舐められる。

 するっと脱がされると、すぐに直に花芽に吸いつかれ、ぬちぬちと舌先で転がされた。

「あっ……あんっ! そこっやぁ……!」

「蜜がたっぷりだ。嘘だとすぐに分かる」

 違うと首を横に振るが、快感に溺れて声が出なかった。

 最近まで処女だったというのに、身体はもう悦楽を覚えてしまっている。 

 自分の身体が信じられないと、腰をひねり逃げようとするが、抑え込まれて舌を突き入れられた。同時に指先で内股を撫でまわされる。

「ひあぁっ!」

「良い反応だ。膣もひくひくしている。余計なことも考えないでいいだろう?」

「だめっ……だめぇ……」

「自分の身体の反応に素直になれ」

「え……?」

 内股をするすると摩られながら、その意味を必死に考えようとする。

 しかし、蜜壺に舌が這いまわって、すぐに理性は吹き飛んでしまった。

「あっんぁあ!」

「可愛い声が、たっぷり耳に響くぞ、アンジュ」

「はぁ……はぁ……」

 身体ががくがくと震えて、そのまま果てそうになっていた。

 腰ががくがくして、押し寄せる愉悦の波に飲み込まれる寸前だ。

いっそ貫いて、痛みと共に終わらせて欲しいと思ってしまう。

 とろんとした意識でアンジュはゼストに訴えた。

「もう貫いて」

「ん?」

「痛い思いをして、このことを……忘れさせて、欲しいの……」

「痛い? ああ……。本当に何も知らないな、アンジュは。いいよ。今から教えよう」

 スラックスをくつろげて、男根を引き抜くと前は見たこともなかった赤黒いそれが目の前に光った。

 そのまま蜜口にあてがわれると、ゆっくりと腰を落として侵入してくる。

「んんっ!」

 そのままぬるぬると腹の奥に入っているのに、痛みがほとんどない。

 それどころか、熱を直に感じて余計に身体がひくひくと震えている。

「や……や……身体が……変……」

「慣れてしまうと、繋がった方が快感が勝る。奥で更に快感を知ると、病みつきになって離れられなくなる。俺をどんどん好きなるしかない」

「ゼスト……さま……。こんなこと、しなくても……」

 アンジュは涙目で訴えた。

 膣内で熱が蠢き、時々ひくついている。

 文字通り、ゼストとひとつになっていてアンジュには信じられない思いなのだ。

 ただ、彼を好きだと気が付いたばかりで気持ちが追い付かない。

 しかも、その気持ちを伝えていないのに、ひとつになったことに、困惑がある。

 彼の望みは身体ではないか、そんな気がしてしまう。

「私でなくても、側室の姫が」

「どうしてそう思う?」

 熱を孕んだまま、アンジュは必死に抗っていた。

 好きだと伝える勇気は到底ないのだ。

 今ならまだ、側室のひとりとしていられるはずなのだから。

「だって、皆ゼスト様を想っております」

「そう思っているのは、初心なアンジュだけだ。ほら、動くぞ」

「えっ……や、やぁ……あ、おっ……奥……までっ」

 ずんとゆっくりと突かれて、アンジュは目を見開いた。

 今まで感じたことのない快感と彼の体温に浮かされそうになる。

 身体を揺さぶられて、胸が揺れそれをゼストが鷲掴みにして先端を捏ねた。

「あんっあんっ! そこっもう……」

「ここ、弱いんだろう?」

「そんなにされたら……おかしくなって……あんっ!」

「そう言われたら、見たいだろう? アンジュがよがり狂う様子を」

「だ、だめっ」

 とろとろに頭の中が蕩けて、身体がひりひりしていた。

 膣内の熱は膨らみ、ゆっくりとしたストロークを繰り返す。

 その度に背を仰け反ったり腰を引いたりして逃げるしかない。

 アンジュは喉をカラカラにして、喘いで声が枯れ始めた。

「だ……めっ……」

「そろそろ、俺も……辛いな」

 熱が腹の奥で膨らみ、内壁に擦られ始めた。

 抜き差しが早くなり、腰を思い切り使われると、アンジュは息しか出来なくなる。

 荒い息を吐きながら、たわわな胸を揺らしながらきゅっと腹の奥から膣まで絞まるのを感じた。

 その途端、ゼストが淫猥な声を上げ出す。

「アンジュ……アンジュ……好きだ。好きだ……」

(ゼスト様?)

 途端、腹の奥で熱が飛沫した。

「あっ!」

 初めて感じる熱に身体をひくつかせながら、倒れ込むゼストを抱きとめる。

「アンジュ……」

「ゼストさま」

「俺の傍にいてくれ。どうしてそんなに嫌がる?」

 ゼストの泣きそうな声にアンジュの心はきゅっと掴まれた。

「だって……だって……」

 本音なんて言ったら、死刑が待っている。

 この状況なら言い訳が出来そうだが、一言好意を認めることになれば、不倫が確実に成立してしまう。でもこの状況なら――。

「アンジュ。不倫が嫌なんだろう? でも、アーネストは俺を好きじゃない。ただ王妃でいたいだけだ。オーフィリア国の風土では、確かに不倫は死刑だ。でも、俺はそうさせないと誓ったはずだ。アーネストとも別れるのに時間がかかっている。俺との結婚にこだわって、根回しされている」

 ゼストの言葉にアンジュは疑いの気持ちを向けた。

 そうして騙された女性がきっといると思ってしまう。

 でも、盛大な大嘘を吐く人が、他国をも納得させる王だろうか。

「信じてくれ」

「まだ、少しだけ」

 アンジュは言っていた。

「ありがとう。俺のこと、好きになる日が必ず来るからな」

「それは……」

 本音なんて言えず、アンジュはただ頬を染めた。

 自分に覆いかぶさる王に、すでに好意があることを言えるわけがない。

 それは不倫だからというわけではなくて、初めて異性を好きになったからだ。

(初恋が不倫なんて……)

 アンジュはため息を吐きながら、ゼストとしばらくベッドの上で寝転がっていた。



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