第201話 信じてる
「そう。姉さんもよく知っている二人が僕の味方になるって言ってくれたんだ。だから僕は二人のためにも諦めたくない。兄さんに王位を渡しちゃ絶対にダメだ。」
二人とは…恐らくあの二人だろう。私の良きライバルでありながら憎き恋敵と…強く優しい私の想い人。
彼らなら無条件に弟の味方になるだろう。昔のリティシアならあり得ないことだが、私とツヴァイトの関係に首を突っ込んできた以上、否定はできない。
「……それでも私は反対よ。お兄様が今まで貴方に何をしてきたか、忘れた訳ではないでしょう?」
「勿論、忘れてないよ。でも僕は諦めない。僕を信じてくれる人がいる限り」
「…そう。なら好きにしなさい。申し訳ないけど……私は応援できないからね」
現状王に最も近い立場である兄に逆らうことは反逆に近い意味となる。だからこそツヴァイトもあの場ではっきり敵対心を露わにしなかったのだろう。
兄が王に向いているとは確かに言えないが、私がどうこういったところできっと何も変わらない。下手に動いて兄がツヴァイトの意思を悟り、殺されるくらいならば…私は黙って見守るしかないのである。
ツヴァイトは私の返事に寂しげに笑うと「大丈夫。姉さんは見守るだけでいいから」と答える。
このまだ幼く小さな子が狡猾な兄に勝つなど…果たしてあり得るのだろうか。私は彼の心がこれ以上傷つかないことを祈るばかりであった。
【リティシア】
アルターニャ王女が散々ケーキを食い尽くした後に満足して帰ってしまってから、使用人達による片付けが始まっていた。
王女だけに限らず一通り挨拶をしてさっさと帰る貴族もいたため、今残っている者は殆どいなかった。
そういえばデイジー嬢が一口ケーキを頬張ると、「このケーキ本当に美味しかったです!お持ち帰りしたいくらいです!」と私に感想を言ってきたので、お望み通り用意させると「いやっ、そういうつもりで言った訳ではありませんよ!?」と慌てていた。
…何故かその隣のマリーアイ嬢が一番慌てていた。
使用人達が片付けをする様を見て、イサベルとアレクが手伝おうとしたのだが「貴方達はお客様なんだからいいの」とどうにか引き留めた。
イサベルは使用人として来てるから仕方ないけどアレクに至っては意味分からないわよ。王子でしょ!?片付けのプロの使用人に任せるって選択肢はないの!?
「すみません公女様、アレクはいい意味で王子らしくないんです……」と苦笑してアーグレンが呟いていた。
私も王子らしくないのは最初から知ってたけどね……まぁそういうところが好きだしいいんだけどさ。
そして時は更に流れ、パーティの招待客の全員がそれぞれの家へと帰っていった。ちなみに何人かはケーキを気に入りお持ち帰りをしていた。
最後の最後に屋敷を去ることになったのはアレクであった。イサベルやアーグレンも加えて話をしていたら必然的に彼が最後になってしまったのである。
「殿下、お帰りの前にリティ様とお話をしてはいかがですか?私はアーグレン様とお話をして待っていますので!」
他のパーティ客同様に普通に見送ろうかと思ったのだが、イサベルの謎の提案により二人で話す時間が用意された。
アーグレンも彼女の提案に賛成らしく、何かあったらすぐに呼ぶことを前提に、二人で話すよう勧めてきた。
「いや、アレクは忙しいだろうしこれ以上引き留めるのは悪いわよ」と言ったのだが、「大丈夫、仕事はある程度終わってるしもしあっても明日やればいいだけだからリティが心配する必要はないよ」と間髪入れずに返されてしまい、否定する術がなくなってしまった。
すっかり暗くなってしまった屋敷の庭を二人で歩きながら私は話題を探す。「じゃぁまたね」しか用意していなかった私は想定外の出来事に明らかに動揺していた。
「……リティ、誕生日おめでとう」
いきなり沈黙を破ったかと思えば、彼はそんなことを口にする。驚いて横を見れば、目が合ってしまった。私はすぐに視線を外し、前に戻す。
「…私、貴方に酷いことばかりしたのに…よくそんなことが言えるわよね。貴方が私を許してくれたことがまだ信じられないわ」
私がアレクの立場だったら確実にリティシアを嫌っていたことだろう。素直にならない上に他人に強い口調で迷惑を掛ける人間など普通にお近づきになりたくないからだ。
「んー…許すというか初めから怒ってないからな」
「それがおかしいのよ。貴方はもっと怒るということを知るべきだわ。誰かの為にじゃなくて自分の為に怒るの。それは自分を守る上でとても大事なことなのよ」
「確かにそうだな。でもリティがしたことは別に怒るようなことでもなかったからそうしなかっただけだ。それに……全部俺の為だったって言われて怒るような人間がいると思うか?」
「それは…私がいいように言ってるだけかもしれないじゃない。適当に言い訳をしたって可能性もあるわ。」
「適当に?それはないな。」
「どうしてよ?」
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