第153話 脱出

騎士団は人々を逃がすことを優先したらしく、まだ奴隷売買に関わっていた全員を確保できていないようだ。


その結果、再び私達を狙う襲撃者が現れた。


今度はナイフを投げてきて攻撃してきたが、アレクシスが焦ることなく軽く躱してしまった為、私にも彼にも傷一つつかなかった。


…流石の身体能力ね。


男は服の内側を捲ると、そこには幾つものナイフが収納されており、それら全てを取り出したかと思うと同時にこちらに投げてくる。


アレクシスは冷静に飛んでくるナイフの動きを分析し、最小限の動きで躱すと、目の前に迫った一撃を足で勢いよく蹴り落とした。


これには流石に驚いたらしい襲撃者は、攻撃をやめ、少し後ずさりをする。


小説のモブキャラ如きが男主人公に傷をつけられる訳がないのよ。諦めなさい。


私は困惑する男に更に追い討ちをかけるように呪文を唱えると、男の髪が燃え上がる。今度は全身ではなく、わざと髪のみを燃やすように調整してみたのだ。


必死に炎を消そうとする男に私は悪魔の笑みを浮かべる。


「貴方の髪が燃え尽きる前に助けを求めた方がいいわよ?私を抱えてるこの人なら炎を消せるわ。さぁ、今すぐ土下座して助けを乞いなさい」


アレクシスを傷つけようとした罪は重いわ。それぐらいの苦しみは味わってもらわないとね。


暫く自分で炎を消そうと藻掻いていたが、普通には消えない炎であることをようやく察したらしい男は地面に膝をつき「申し訳ありませんでした!消してください!」と叫んだ。


どうやら自分の髪が徐々になくなっていく恐怖に耐えきれなかったらしい。


その光景にアレクシスが唖然としながらも、呪文を唱えて男の炎を消してあげていた。


盛大に燃えた後に大量の水を被った男は先程同様戦意を完全に喪失していた。


「私達って…最高に相性が良いわね」


水と炎という一見すれば相反する魔法で相性が悪いように思えるけど、使い方によっては最高だわ。


私達を殺そうとして襲ってくる敵が、私達の魔法によって簡単にひれ伏すんだから。小説の作者は二人の属性を真逆にすることで絶対に結ばれないということを表したかったんでしょうけど、使い方によっては凄く使えるわよ。


アレクシスを護る為にとってもよく使える能力だわ。


「相性が良い?」


「えぇ。そう思わない?私達が二人で力を合わせればどんな敵も蹴散らせるわ」


「あぁ、確かにそうだな。リティシアがいれば…どんな敵にも勝てる気がするよ」


アレクシスがそう言って微笑んだが、私はとても微笑み返す気になれず、視線を逸らしてしまった。


それがまた彼を傷つけることになってしまうかもしれないが…どうしてもそんな気分にはなれなかった。


私よりもっと相性が良いのは…イサベルだから。悪役と主人公が最高の相性だなんてあり得ないこと。


でも…それはいずれ分かることだし、わざわざ言わなくてもいいよね…。


その後は襲撃者が現れることはなかったのだが、もしかしたら怯えて出てこなかっただけかもしれない。


まぁ後から引きずり出せばいい話だから、今はさっさと脱出しないとね。


アレクシスは今まで全力疾走をしたり、襲撃者の攻撃を躱したりと結構な運動をしていたはずなのに全く疲れを見せない。


行く時に乗り越えてきた段差を軽々しく飛び降り、あまり私に衝撃が走らないように丁寧に進んでいった。私はアレクシスの優しさと体力にただただ驚かされるのみであった。


やがて行く時に降りてきた階段が見えてきたので、「あとは階段を登るだけだし、自分で行くわ」と伝えたのだが、彼は全く聞き入れてくれず、結局全て登りきった後に降ろされたのであった。


つまり私はアレクシスに抱きかかえられてからその後一歩も歩かずに出口まで辿り着いたということである。


恐るべし男主人公。楽だったけど凄く恥ずかしかったわ…。


外に出るとそこには騎士団が待ち構えていて、私達の姿を見るなりホッとした様子を見せていた。


「殿下、ご無事でしたか…!閉じ込められていた人々を安全な場所へお連れしていたので、我々は今から潜入しようと思っていたんです!団長は先に向かったはずですがお会いしましたか?」


「あぁ。俺達はグレンに助けてもらって逃げて来たんだ。途中で隠れてた奴らに襲われたけど」


「えっ!?」


「大丈夫、リティシアが助けてくれたから」


ほぼアレクシスのおかげなのによく言うわよ。私はちょっと燃やしただけよ。


私は彼から向けられる視線に耐えきれず、冷たくそっぽを向いた。

すると騎士が何を思ったか私を尊敬の眼差しで見つめてくる。


ちょっと、アレクシスの言葉を鵜呑みにしないで。活躍したのは彼よ。


「そうだったんですね、リティシア様…!リティシア様もご無事で本当に良かったです。お二人が中へ入っていった時は心臓が止まるかと思いましたよ。明らかにデートスポットではないですもんね…」


「分からないわよ。階段を降りたその先に私達だけの秘密の空間があるかもしれないじゃない」


「え?じゃぁもしかしてここはリティシア様の所有地で、我々の勘違い…」


「な訳ないでしょ。私に奴隷売買の趣味はないわよ」


「で、ですよね!」


こいつ今一瞬信じたわね…いくら悪役令嬢でもそんな事はしないわよ。

あのリティシアだって流石にそこまではしないと思うわ。


…でもこれが世間一般に思われているリティシアのイメージなんでしょうね…。


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