第119話 ティーパーティ編 その5

 確かにそれはその通りだわ。

 アレクがリティシアを好きになって婚約した訳でもなければ、その逆でもない。


 完全に親の…特にお父様の親友である王様の力でしょうね。


 そうよ…それが例え事実であったとしても…こんな風に馬鹿にされて黙っているような私でもないわね。


 弱気な態度を見せてこの令嬢にアレクが奪われたりしたら大変だしね。

 勿論渡すつもりなんてないけどさ。


「そうですね。それは関係のない話ですわ。私と殿下は昔からずっと仲が良かったですから」


 流れるように大嘘をついてみるとヴィオラ嬢の表情が歪む。

 私の狼狽える姿が見たかったんでしょう?残念だったわね。


 貴女がどんな攻撃を仕掛けてきたとしても…軽く流してあげるわ。


「そ、そうですか…それは羨ましいことですわ。それなら殿下はリティシア嬢のことをそれはそれは大切にしているんでしょうね」


「そうですよ!ヴィオラ嬢は丁度パーティを欠席されていたので知らないと思いますが、毎年開かれるお城のパーティで、殿下はリティシア様のことが心配でその後を追いかけたんですから!」


 私が何かを発言するより前に、デイジー嬢が必要以上に大声でヴィオラ嬢に告げる。


 …デイジー嬢は私の味方であることを一切隠そうとはしないらしい。


「追いかけた…あの殿下が?」


 ヴィオラ嬢は、腕を組み怒りを顕にしたデイジー嬢を信じられないといった様子で見上げる。


「そうですよ!殿下にとってリティシア様は特別なんです!」


 デイジー嬢が更に声を張り上げるとヴィオラ嬢は不機嫌そうに眉を顰める。


 そして悪役令嬢に負けず劣らずの冷たい声を発した。


「ところで私は一度もデイジー嬢に話しかけていないんですけど…一体何のおつもりですか?」


「待って。ヴィオラ嬢、貴女の相手は私よ。彼女は関係ないわ」


 標的が変わったことを察した私は慌てて椅子から立ち上がる。


 ヴィオラ嬢は私の狙い通り、デイジー嬢ではなく、その冷たい視線を私に向けた。


「そうやって…自分があたかも正義であるかのように行動なさるんですね。そんなことをしてもリティシア嬢が今までやってきたことがなくなる訳ではありませんよ?」


 遠回しな表現を面倒に感じたのか、彼女はほぼ直接的に攻撃を仕掛けてくる。


 実際にやったのは私ではないが…リティシアがやったことには間違いがないので否定することができない。


「…分かってるわ。私の今までの言動がどれ程未熟であったかは私がよく分かってる。でも…今この状況で未熟なのは果たしてどちらかしら?」


「…そうですね。未熟なのは私の方かもしれません。ですが…私が言わなければ誰がリティシア嬢にお伝えするんですか?貴女は…殿下に相応しくないのだということを!」


 感情が高ぶり大声をあげるヴィオラ嬢を周囲の令嬢がなだめ始める。

 流石に止めなければまずいと感じたようだ。


「ヴィオラ嬢!」


「落ち着いて下さい、リティシア嬢に失礼ですよ!」


「本当は皆思ってるんでしょう?今更変わったところで過去は消えない。リティシア嬢は殿下に相応しい女性とは言えません!」


 ヴィオラ嬢の渾身の叫びに令嬢達のなだめる声が止まる。


 私もその気持ちがよく分かるし、なんならリティシアは相応しくないと思っているので否定が出来なかった。


 その通りよ。リティシアはアレクシスに相応しくない。そういうキャラクターなんだから。


 心配しなくてもいずれ婚約破棄を…。


 そう思った時、今まで黙りこくっていたマリーアイ嬢がゆっくりと口を開いた。


「過去より今です。ヴィオラ嬢。私はさっきそれをリティシア様に教えてもらいました」


「マリーアイ嬢…?」


「私も過去のリティシア様の噂を聞き、勝手に怖がっていました。ですが…今のリティシア様はそのようなお方ではありません。だって…冷たいお方がそのような澄んだ瞳をなさるはずありませんもの」


 私の目が…澄んでいる?

 そんな訳ないわ、だって私は悪役令嬢なのよ…?


「例え他のご令嬢が反対しようと、私はリティシア様と殿下の結婚に賛成致します。我が伯爵家も私の意思に従うでしょう」


「私も!私も賛成します!というか殿下に相応しい女性はリティシア様しかいません!」


 元気よく手を上げて主張したのはデイジー嬢、そして周囲の令嬢も控えめに手を上げ始める。


 よく見るとパーティで見たことのあるような顔だ。彼らは私が変わったことを知っているのだろう。


「私も…」


「私も賛成です。殿下が追いかけていく背中をこの目で見ましたもの」


「過去は…過去は変わらないのよ?なのにどうして…」


「ごめんなさい。私がしたことをこの場で謝罪させてもらうわ。今までは私が間違ってた。」


「今更謝ったところで…!」


「ヴィオラ嬢、殿下のことが好きなんですか?」


 私の言葉に、彼女の威勢が一気に弱まる。


「いや…その…」


「今まで私がしてきたことの全てを貴女に謝罪します。でも殿下は…彼だけは貴女に渡せない。それだけは分かって頂戴」


 ごめんなさい。主人公…ヒロイン以外には譲るつもりはないの。


 貴女は結ばれなくても、アレクの相手は憎くて憎くてたまらない私ではないわ。

 安心して。





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