第110話 招待状
その後お母様とお父様のラブラブっぷりと親バカっぷりを散々見せつけられた後に私は最後の料理を口にする。
お花の形に切り取られたなんとも可愛らしいにんじんを口に放り込むと、私は立ち上がる。
「あらリティ、もういいの?お城でお昼食べそこねちゃったんでしょ?もっと食べたら?」
心配そうにお母様がこちらを見つめるので、私は安心させるように精一杯の笑みを見せる。
「いえ、もうお腹いっぱいです。お料理、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」
申し訳ないけどそんなに食べる気分でもないのよね…。
元の世界で小説をただのんびり読んでただけの時は幸せだったんだなぁ…あの時は自分が悪役に転生しちゃうなんてなーんにも知らずにさ…。
大好きなキャラクターだったアレクがいなければとっくにこんなところからは逃げ出してたわ。
いくら両親に愛されてるとはいえ死亡エンドが刻一刻と迫ってくるんだから、今頃全てを捨てて逃げてたはず。
でも目標があるからそうもいかない。
理由をつけてもう少しだけアレクと一緒にいたいだけでしょって言われたら否定は出来ないけど…それでもその時間くらい楽しんでもいいよね。
それはもう二度と…経験出来ないものなんだから。ちょっとくらい良い思いをしたって神様は許してくれるでしょ。
…まぁ私は神様を許さないけどね。
全く…どうせなら悪役じゃなくて主人公に転生させてよね…。
もう悪役に転生しちゃった以上どうしようもないし泣こうが喚こうが受け入れるしかないんだけどね。
私は心配そうに見つめる二人に再び笑いかけると「失礼します」と言って部屋を後にする。扉を閉めた後にお母様が呟いた言葉は、私には届かなかった。
「変ね…リティって…あんなになんでも一人で抱え込んじゃう子だったかしら?」
お母様とお父様は娘の去っていった扉を、暫くただ黙って見つめ続けたのであった。
私は部屋に戻ると、令嬢へ参加の意を伝える手紙を書き、それを執事に手渡す。彼は「確実にお届け致します」とだけ答え去っていった。
そして時は流れ、翌日になった。
早朝、私の家に招待状が届き、差出人は私の予想通りデイジー=シーランテ令嬢であった。
あれから私の分の招待状を一番初めに作り、私の返事を待たずして送ったようだ。返事の手紙は昨日送ったから恐らく今日か明日には届くだろう。
招待状は私の意思を尊重することを伝える手紙付きで送られてきており、読めば読む程私への思いが感じ取れた。
そもそもいきなり招待状を送らずに手紙でティーパーティの存在を知らせた時点でかなり丁寧よね。普通はいきなり招待状を送るものでしょうから。
その点も私が承諾した理由の一つでもあるのよね。
招待状によると、ティーパーティは二日後にシーランテ伯爵家にて開催されるらしい。
令嬢達と会話をする目的の場所に行くなんてリティシアに転生して以来初めてだ。
まぁ会う前から好感度は最悪だろうから仲良くなる等は一切期待はしていないのだが、とりあえず出席すればデイジー…嬢も納得してくれるだろう。
アーグレンは招待状が届いたのを確認した後に、殆どなかった彼の荷物を持って屋敷を去っていった。
ティーパーティに着いていけないことを最後まで悔やんでいたが別に命の危険のあるような場所に行く訳じゃないんだしそんなに心配する必要もないだろう。
むしろ彼がどうしてそこまでして着いて来てくれようとしているのかが謎だった。
…私の悪い噂を知っていて、それが令嬢達に悪い印象を与えていることを知っているからかもしれないが。
アーグレンがいようがいまいが私が行くことは決まっているんだし、特に気にはしていない。
いざという時私を護れるのは他でもない私自身なのだから。
私が派手に悪役っぷりを働いてアーグレンに嫌われるくらいならむしろいない方が助かるわ。
プラスに考えていきましょ。ただでさえマイナスな状況なんだからね。
それで…主人公は一体いつ出てくるの?
悪役が呑気にティーパーティをしている間、主人公は何をしているのかしら…?
早く会いたい気持ちもあれば、会いたくない気持ちも正直ある。
でも私のアレクを幸せにしよう計画に彼女は必須なので、ゆくゆくは会わなければならない。
小説通り良い子だといいんだけど…もし悪い子だったらどうしよう?
私が鞭でも持って調教するしかないかな…ってそれじゃホントにただの悪役ね。
もしかしたらティーパーティに主人公が現れるかも…?いやそれはないか。だって彼女は令嬢じゃなくてただの平民で、今は魔力すら発動していないだろうしね。会えるって期待するだけ無駄だわ。
それから…皇后と王様には割と嫌われてるんじゃないか説が浮上しているから…これ以上令嬢に嫌われる必要はないわよね。
平和に…平和に終わるかな?終わってほしいなぁ。これ以上私の悩みを増やさないでほしい。今凄く順調に物事が進んでるんだから。
主人公が現れればアレクは私のことなんて忘れるし、主人公も素敵な王子様と出会える。そうなれば周りの人も優しい王と皇后を末永く愛し、慕うことになるだろう。
きっと私を除いた全ての人が幸せになれる…だから、これ以上の面倒は本当にやめてほしい。
でも、明らかに面倒事なはずの令嬢の頼みは断れなかった。
何故かって?
…こんなに好かれてるのに断れる訳ないでしょ。私はそこまで根っからの悪役じゃないのよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます