第30話 騎士よりも先に

「護衛騎士…?そんなのいるかしら…」


 私の言葉に同様に目を見開いたお母様はこちらの肩を掴んでくる。ちょっと痛い…。


「いるわよ!リティ、今まで私に見合う騎士なんていないからって断ってきたけど…今回ばかりは私達の好意、受け取ってくれるわね?」


 私に見合う騎士がいないって…本気で思ってたのかしら。だとしたらリティシアの面倒を見れる優しい騎士様なんていないの間違いでしょうね。


「護衛騎士はもう少し考えさせてもらえるかしら…」


「分かったわ!ちゃんと考えるのよ!」


 あまりにも凄い剣幕で迫られ、私は曖昧な返事を返すのが精一杯であった。


 それにしても、護衛騎士なんて全く考えていなかった。そもそも令嬢に危機なんてそう訪れないだろうし必要ないとは思う。


 でもリティシアの両親なら…可愛い我が子に危険が及ぶ可能性を少しでも減らせるようにとつけたがるでしょうね。


 でもお母様、お父様。問題は私が護衛騎士をつけたいかどうかじゃなくて、悪役令嬢リティシアの護衛をしたいと思う騎士がいるかどうかなのよ。


「リリー、護衛騎士とは良い考えだな。そろそろリティにも固定の騎士がつくべきだ。リティはこんなにも可愛いのだから…万が一悪い虫がついては大変だからな。今のままだと、交代している間に何か起こったりしたら大変だ。」


「そうよね、アーゼル。貴方もそう思うわよね!?リティ、前向きに考えておいてね!私達も考えてみるわ。アーゼルの力を借りて王様にかけあって…王宮にいる騎士様を一人連れてこられないか聞いてみるわ」


「王宮!?そこまでする必要はありませんわ、私はどんな護衛騎士でも構わな…」


「ダメよ~、可愛いリティを護ってもらうんだもの。立派で、強くて優しくて、ついでにイケメンじゃなきゃ。」


 強さがあれば護衛騎士として充分な気がするけれど…。完全に他の要素はお母様の趣味よね。特にイケメンというところは。


 まさか王宮から連れてこようとするなんて…いくらお父様が親友とはいえ、王様がよっぽど私に好意的じゃないと大事な騎士を寄越しては来ないでしょうね。


 寄越すにしても一番最弱の騎士とかを連れてくるでしょう。万が一最強の騎士でも私に送ってしまって、国の戦力を減らした状態で他国に攻められでもしたら大変だもの。


 アレクシスは…どう思うかしら。城から私の護衛騎士を連れてくることに…賛成するのかな?


 どうにかお母様とお父様から逃れ、自分の部屋に戻ると、ふぅ、と深く息を吐く。


 あんな勢いで常に接せられたら私の体力がいくらあっても足りないわ…。護衛騎士とかよりも私はまず先に魔法を覚えなければならないから、この件は申し訳ないけど後回しね。


「奥様と旦那様も戻られて、屋敷も随分と明るくなりましたね!」


 ルナは私の髪飾りを名残惜しそうに外しながらも、嬉しそうに微笑んでくる。


 ルナ、明るくなるというのは限度があるのよ。あそこまで明るいとこちらが暗くならないと均衡が保たれなくなってしまうわ。


「それからお嬢様、こちらに置かれているジャケットはもしかして…」


 ルナはキラキラと眩しい眼差しを向けてくるが、その全てのキラキラを一つ一つ丁寧に跳ね返し、私は冷静に答える。


「あぁ、それはアレクシス殿下のものよ。断りきれなくて持ってきたの。洗おうと思って」


 私の言葉が予想外であったのか、ルナはきょとんとした表情を向ける。


「…昨晩使用人に洗濯させなかったのですか?」


「…夜遅くに仕事を増やすのは可哀想じゃないの」


 自分が借りたから自分で洗いたかったというのもあるけど、実はこういう理由も考えていたのだ。


「お嬢様…本当にお変わりになられましたね…嬉しそうに仕事を押し付けてきていたお嬢様はもうどこにもいませんね…」


「…その事は忘れなさい。でもルナ、私は貴女以外の使用人達には誤解されたままで良いと思ってるのよ」


「えっ、どうしてですか!?」


「今更どうにかなるようなものじゃないし…ルナみたいに変わってくれる人の方が少ないと思うの。でも安心して。以前みたいに自由奔放に振る舞うつもりはないから。」


 ルナはまるで納得していない顔をしたが、「分かりました、お嬢様がそう言うなら私からは何も言わないでおきます…」と仕方なさげに呟く。


 ありがとうルナ、ごめんね。


 万が一にも使用人達がアレクシスにリティシアは良い子だとかお世辞を言って…彼の私への好感度をあげられてしまったら困るから。


 どうせ使用人に好かれるのが難しいのなら、嫌われていた方が都合が良いの。

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