第29話 帰宅
【リティシア】
私が目を覚ますと、疲れていたせいか時刻はもうお昼であった。この時間まで起こされずに使用人に放置されたのかと一瞬思ったが、恐らくルナが配慮してくれたのだろう。
しっかり寝たはずなのに何故かとても眠い。
でもそんな事言っていられないわ。私は生きるか死ぬかなんだからどう考えても眠いとかそんなこと言ってる暇はないもの…。
いつどんな時も今後の事を考えて動く事を忘れないようにしなければ。
次の目標は魔法ね。だけど魔法について詳しく書かれている本を仮に見つけたとしても私が習得できるかは分からない。
人に教わるという方法もあるが、リティシアは主人公には負けるもののアレクシスには負けず劣らずの強大な魔力の持ち主。
そんな女が急に魔法を教えてくれと持ちかけてきたら魔力の弱い自分に喧嘩を売っているのかと怒られてしまいそうだ。
かといって魔法が使えない事がバレてしまえば確実にリティシアではないと気づかれる。どうしようかしら…。
「お嬢様。起きていらっしゃいますか?」
部屋の外からノックと声がかかり、その呼び方と声色から正体がルナである事がよく分かる。
「えぇ、起きてるわ。どうぞ」
扉を開け、部屋に入るとルナは神妙な面持ちでこちらを見つめてくる。もしかしたら私の顔ではなく、寝癖で四方八方に跳ねた髪を見ているのかもしれない。
最初は緊張してそんなによく眠れず、そこまで寝癖はつかなかったのだが…最近は随分と慣れてしまった。その結果、元々の癖毛も相まってくるくると跳ねるようになってしまったのだ。
これを毎朝どうにかするのはルナの仕事だ。
…ごめんね、ルナ。これからはもう少し意識して寝るわ。
「お嬢様をその髪で会わせては私が殺されてしまいますね」
「…?誰に?」
「お嬢様は私に結んでほしいとよく仰られますが、髪を下ろしている姿が一番お似合いになられますよね。」
「だから何の話?」
「失礼しますお嬢様。今からお嬢様を完璧に仕立て上げてみせます。時間がありませんので、速度を上げた短縮バージョンでいきます。」
ルナは櫛を手に取るとそれを短剣のように構える。櫛を武器に戦闘でもする気なのかもしれない。
宣言通り彼女は素早く私の髪を整えると髪飾りまでつけ始めるので、「パーティは昨日終わったのよ」と跳ね除けようとする。
しかし彼女は全く譲ろうとせず、結局無駄に着飾って部屋の外に出る羽目になってしまった。自分の家で着るような服じゃないわよこれ…。
「お嬢様、急いでください。お嬢様が行かなければ始まりませんので」
「…?さっきから話が読めな…え!?どうして皆並んでるの?」
連れられるがままに玄関に来てみれば、使用人達は全員頭を垂れ、人二人分ほどの通路を開けて綺麗に整列していた。
ルナは驚きもせずに「私は並ばなければなりませんが、お嬢様はここへどうぞ」と述べ、私を通路のど真ん中に配置するとさっさと整列してしまう。
いや絶対に邪魔じゃない!?どうしてここに配置したのよ!?
私が呆然とその場に立ち尽くすと、二人の使用人が大きな扉に手をかける。
ゆっくりと開かれた扉のその先にいたのは、私にはまるで見覚えのない人物であった。
…燃えるような赤い髪の美女に、淡いピンク色の瞳を持つ青年。
…この二人はまさか。
そういえば、帰ってくるってルナが言ってたわよね…?
二人は使用人達には目もくれず真っ先に私へと近寄ってくる。そして両手を広げたものだから、私は思わず反射的に目を瞑る。
「あぁ、私の可愛いリティ〜!」
二人同時に抱きしめられた私は半分窒息しかけながら疑惑を確信に変える為になんとか呟く。
「お母様、お父様……?」
「そうよ、貴女のお母様とお父様よ〜!一人で寂しくなかった?本当は貴女を置いて行きたくなんかなかったんだけどどうしても外せない用事でね〜!」
「外せない用事…?お母様とお父様はバカンスに行かれたのでは?」
確かにルナは私にそう伝えたはずだ。
それともバカンスが外せない用事だったのだろうか。もしそうだとしたらバカンスに行かなければならない用事とは何なのかとても気になる。
「あぁ、使用人達にはそう伝えたわ。でも本当は偉い人達との会議だったのよ…しかも10日以上かけなければ行けない場所で、なかなか帰って来られなかったの。それでね、そんなむさ苦しいところに貴女を連れて行ったらきっと退屈させちゃうと思って…」
「だが愛しい娘を置いていってしまったことには変わりはない。私達を許しておくれ、リティ…」
置いていった事に対して怒るつもりなんてなかったけど…もし怒りを感じていたとしても答えは一つね。
…こんな人達に怒れるわけないわ。
「勿論怒っていませんよ、お母様、お父様」
羨ましいわね、リティシア。ちゃんと気づいてる?貴女はこんなにも愛されて育ったのよ。
「それでね、早速なんだけど。リティは私に似合う人なんて一人もいないから交代交代で良いって言っていたじゃない?」
「…えーっと…何の話でしょうか」
「貴女の専属の護衛騎士のことよ!」
私はまるで想像もしていなかったその言葉に大きく目を見開いた。
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