二種類に大別されるファンタジー

和泉鷹央

ファンタジーの分類法


 もうずっと昔から、ファンタジーとは何を示すのかということを論ずる人たちは、多く存在しました。

 彼らにとっては神話がファンタジーであったり、異世界転移がファンタジーであったり、幻想文学がファンタジーであったり。

 まあこれといってはっきりとした概論というのはなかったわけです。

 しかしこれとは別に、1970年代のアメリカにおけるファンタジー研究学というのは、意外とまともな形で進んできたのではないのかなと思ったりします。

 このまとめは、その辺りの時代に数多く出版された専門書の簡単なまとめのようなものだと思ってください。

 それぞれの横に代表作と思える有名作品をクレジットしていますが著作権があれば削除しますのでご容赦ください。



1 ファンタジーとは何か


 これはとても簡単な話です。

 合理的でないと考えたらいいと思います。

 もっと簡単に言うと私たちは今生きている世界の物理法則と、それ以外の物理法則によって成り立つ世界。

 この二つに共通していることは、二つの物理現象がぶつかり合うことによって生じる物語を語ること。

 ただその一点に集約されると思います。

 つまり非合理的な現象に関わることにより生み出された物語がファンタジーと呼んでもいいのではないかと私は考えます。


2 二種類に大別されるファンタジー


 ライトノベルとかファンタジーを書こうとしたら一番最初に突き当たるのが『ハイ・ファンタジー』、『ロー・ファンタジー』この壁だと思います。

 実際にどう区分けをしていいかというそういう話ですね。

 Wikipedia などにはそれぞれをファンタジーのサブジャンルと位置づけているようですがこれには疑問を呈します。

 サブジャンルというよりも、ファンタジーを構成している二大要素と考えた方がいいでしょう。

 二種類の対立概念と呼ぶべきかもしれません。

 この二つの要素を区分けする一番大きな根底にあるもの。 

 それが舞台設定です。



3 ファンタジーの舞台設定


〇High Fantasy(ハイ・ファンタジー)

〇Low Fantasy(ロー・ファンタジー)


 この二種類の単語の頭にある、HIGH(外側)、LOW(内側)。

 内側と外側を区分けしているものは舞台設定です。

 すなわち、このような物理法則と別の世界の物理法則。

 それぞれ異なる物理法則同士がぶつかり合ったその場所、その舞台を区分けしていると考えたらいいと思います。

 

 もう少し具体的に語るとしたら物理法則によりそれぞれが別れるという考えに則って、このエッセイは執筆されています。

 種類としてはロー・ファンタジーの方が内容が少ないのでまずこちらを先に解説することにします。


〇Low Fantasy(ロー・ファンタジー)


 ロー・ファンタジーとは私たちの住む現実の世界を舞台設定に配置しています。

 この世の物理法則を主体として、そこに異世界の物理法則が侵入してきた際に生じる様々な『問題』を描くことが物語のテーマとなります。

 また、この侵入してきた異世界の物理法則についてはどんな科学や合理的な証明によっても、解明されることはありません。

 読者にとっては読み終わった後もきちんとした答えを用意していない不可解なものとして残される傾向があります。

 代表作品として『とある魔術の禁書目録』、『魔法科高校の劣等生』、『龍とお茶を』、『魔法使いの花嫁』などが挙げられるのではないかと考えています。



〇High Fantasy(ハイ・ファンタジー)


 ハイ・ファンタジーロー・ファンタジー同様に通常ではありえない物理法則によって生み出された物語を描くジャンルです。

 ですが、舞台設定を我々の住む現実世界ではなく、異世界に設定することによりロー・ファンタジーでは現実世界に侵入した世界の法則が、ハイ・ファンタジーでは異世界独自の法則。

 魔法であったり超自然的な何かであったりそういったものによって支配される自然法則が当たり前の世界を描くジャンルだと考えればいいと思います。


 ここで気を付けなければいけない点は、ロー・ファンタジーで描かれるような超自然が引き起こす様々な問題は描かれないということです。

 つまり、ハイ・ファンタジーの世界においては、ロー・ファンタジーでテーマとされた超自然現象により生み出された様々な問題は、私たちの現実世界においての物理法則が織り成す当たり前の常識と同様の扱いを受けるということです。

 異世界においてはドラゴンは空を飛んでいたり魔王が存在したり魔法使が怪しげな呪文を放って炎を天空に撒き散らしたとしても……それは当たり前の常識として描かなければいけないということです。


 私たちの世界にも飛行機は普通に空を飛びます。

 いろんな世界の王様も大統領も、首相も存在します。

 飛び抜けた魔法の力を持ってして魔族を従えるようなそんな恐ろしい存在である魔王はさすがに現実世界にはいませんが、ずば抜けた政治力と指導力と卓越した頭脳により革命を起こし独裁政権を樹立することもできる才能の塊は存在するわけです。

 あまり歓迎したい才能ではありませんが。


 またマッチをすればろうそくに火をつけることが出来ますし、ライターのボタンを押せばタバコに火をつけることも可能です。花火を打ち上げれば、真夏の夜を彩ることもできます。

 あちらの世界とこちらの世界の物理法則というのは、めんどくさいように感じますがこのように対比してみれば意外とわかりやすいと思います。

 さてそれではちょっとだけめんどくさいハイ・ファンタジーのサブジャンルとその区分理由を見ていきましょう。


 ハイ・ファンタジーはロー・ファンタジーと違い三つほどの区分とさらに細かいサブジャンル存在します。

 

一 現実世界とかけ離れた異世界。

 ここには大きく分けて四つのカテゴリーが存在します。

 それぞれに見ていきましょう。


〇 現実世界と風俗家年代、地質学的な類似点はあるものの、閉ざされた独自の宇宙を持つ世界を描くジャンル。

 それ独自の宇宙観と物理法則を持つ世界です。

 現実世界との繋がりを明確にすることができない異なる世界です。

 行くことも戻ってくることができない世界です。

 こちらからはそれを覗くことはできてもあちらに対して干渉することができません。

代表作として『指輪物語』、『ゲド戦記』、『最後のユニコーン』、『ランクマー』、『ティアムーン帝国物語』、『七つの魔剣が支配する』、『葬送のフリーレン』、『とんがり帽子のアトリエ』、『メイド・イン・アビス』、『ハクメイとミコチ』などを挙げておきます。


〇 この世のはるか昔の世界。

 このカテゴリーには舞台を神話や伝説の世界に設定する作品が入ります。

 ギリシャ神話やローマ神話を題材にした物語、ケルト神話をもとにした物語、日本神話を元にした物語もそのうちに入ります。

 代表作としては『ブリデイン物語』、『アイルの書』、『マギビノオン』、『空色勾玉』、『西遊記』、『封神演義』などなど。


〇 この世の遥か未来の世界。

 このカテゴリーは科学と魔法が混在するために SF との類似性、親和性が高いと思います。

『シャナラ・クロニクルズ』、『ブレード・ランナー』、など


〇 疑似的な過去の世界。

 このカテゴリーに多いものはアーサ王の物語、疑似中華世界における後宮物語、日本初期や平安時代などを模した物語群、中国の武侠小説などもこれに類します。アラビアンナイトの世界に舞台を設定した物語もいくつか存在しますね。

 日本の作品で有名作を挙げると『陰陽師』、『後宮小説』、『後宮の烏』、『薬屋の独り言』、『プリンセス・プリンシバル』、『鋼鉄のカバネリ』など。



二 現実世界と異世界との境界線を共有する異世界

 二番目の世界よりもより密接に現実世界とつながりを持つ物語群を指します。

 この世と異世界との往来が可能であることが一つの前提です。

 ただし、異世界へと行ったまま戻らない場合もこれに含まれます。

 

〇 入り口、もしくは何かのモノを媒介してあちら側とこちら側の境界線を行き来することができる物語です。

 代表作として『ナルニア国物語』のタンス、『果てしない物語』の本、『ハリーポッター』の機関車など日常にありふれたものを媒介する異世界への到達方法がこれにあたります。『シャドーハウス』など。



〇 もう一つはこの世の物理法則とは異なる事象により生み出された結果、到達した場合や疑似的な科学によってその世界に到達できた場合の物語。

 代表作として、『ウロボロス』の二輪馬車、宇宙船などの疑似科学よって辿り着いた先がまるで別の物理法則によって支配される世界にあった場合も、これに含まれます。

 また、異世界転生・転移・召喚系の作品群もこの分類に当てはまります。

代表作として、『SAO』、『転生したらスライムだった件』、『オーバーロード』、『盾の勇者の成り上がり』、『無職転生』、『リアデイルの大地にて』、『最果てのパラディン』、『本好きの下剋上』、『十二国記』、『幼女戦記』など。



三 現実世界に存在する異世界


 このカテゴリーでは、異世界に到達するために道具や魔法、入り口を必要としない世界です。

 異世界は現実世界の『特定』の地域や場所に存在するとされる物語です。

 仮に現実世界に異世界の存在である『ダンジョン』が発生したとしましょう。

 ダンジョンの内部で描かれる物語は、ハイ・ファンタジーです。

 ただし、ダンジョンを主軸とせず、その周囲で起こる物語。

 例えば、ダンジョンを攻略するための企業の運営、ダンジョンを監視するためにその側に設営された組織に、日常品などを運ぶ運送業などに携わる話であれば、ロー・ファンタジーとなります。


 以上の、おおまかに分類してみました。

 これはあくまで1920年~80年代を主軸として捉えた分類法だとご理解ください。

 現在ではなろう系による異世界転移・転生・召喚を軸に据えた物語群が大量にあり、また異世界を舞台にしたという内容でのハイ・ファンタジーも多く存在します。

 さらには、現実世界にダンジョンができたならそれはロー・ファンタジーだ、という舞台設定と物語の軸をどこにおくかによって変化する区分けの問題も氾濫しています。

 これはあくまで、和泉流に仕分けしたものだとご理解ください。

 ここまで読み進めて頂きまして、ありがとうございました。


参考文献 幻想文学各号、ナイトランド・クォータリー各号。

 

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