再会

 

「タクシーで行こうって言うかと思ったわ」


「まさか。

 僕だって、たまには歩くさ」


 今日は浩太が居るので、玄関から入る。


 あら、見たような靴が、と美弥が土間を見ていると、

「だから、なんで居るんだよ、大輔」

と浩太が呆れたように言った。


 顔を上げると、開いている居間のガラス戸のところから大輔が顔を覗けていた。


「お前、小久保さんか雨宮んとこ行ってたんじゃないの!?

 なんで日帰り!?」


「……なんか帰ってる気がしたわ。

 だって、大輔どんなに遠い出張でも絶対、夜には帰って来るんだもの」


「お前、自腹だろ?

 明日もまた新幹線代か飛行機代使って行くの!? 

 美弥ちゃん、こいつストーカーだよ、君の」

と指差す浩太に、美弥は、ただ苦笑いを返す。


 そのとき、

「あっれ~、浩太くん!?」

と言う声とともに、ひょいと倫子が居間から顔を出した。


 やはり、倫子の靴だったか、と思っていると彼女は、

「わ~、すっごい格好よくなったねー!

 前は可愛いって感じだったけど」

と久しぶりに見た浩太の姿にはしゃぐ。


「やあ、倫子ちゃん、久しぶり。

 懲りずにまだ叶一さんが好きなの?」


「あ~ら、やっぱり中身は浩太くんだ。

 懐かしいわ、その微妙な毒舌」


 なにさ、芸能人みたいな顔しちゃって、と美弥がやったように、その長い髪を引っ張る。


 どうもこの辺りの人間は全体的にデリカシーにかけているようだ、と自分も含め美弥は思った。


 靴を脱いで上がり、

「お帰り、大輔」

と言うと、ただいま、と普通に言う。


 この状況では逆なような気もしたが。

 浩太が言うように無理して帰ってきてくれることが、悪いと思いながらも嬉しかった。


「心配しなくても、叶一さんは今日は遅いんじゃない?」

と横を通りながら、浩太が余計なことを言う。


 そういえば、あの人、どこまで行っちゃったんだろう。


「あれ~、ちっちゃい子が居る」


 浩太の言葉に、こんばんはーともう既に食べ始めていた江梨子は箸を手にしたまま、愛想よく笑う。


 面食いの江梨子らしく、浩太の前ではお行儀がいい。


 浩太もまた意外に子ども好きなようで、江梨子の横に陣取り、その相手をしていた。


「可愛いねえ、えりちゃん。

 昔の美弥ちゃんとは大違い」


「浩太、そいつは結構恐ろしい話をするぞ」

と横目に見ながら大輔が言う。


「そうよ、浩太くん。

 この子たち、ちょっと格好いい人見ると、皆ゲイの人にしちゃうのよ」


 時代は変わったわ、と呟く倫子に、

「いや~、昔から居た気がするけどねー」

とすき焼きの取り皿を持ってきながら美弥は言う。


 ただ、自分たちがその話題の中に入らなかっただけだ。


「ていうかさ。

 僕らみたいな美形を自分の恋愛圏内から外して何が楽しいのか、僕にはわからないけどね」


「お邪魔します~」


 突如、ダブルで声が割り込んできた声に、あっ、叶一だ、叶一だ、と江梨子がはしゃぐ。


「……お、お帰りなさい」


「水野くんも連れて来ちゃった」

「おっ、お邪魔します、すみません~」

と水野はぺこぺこ頭を下げる。


「いや、全然いいんだけど」


 食事は人数が多い方が楽しいのでいいのだが。

 美弥は横を通った母親に向い、呟いた。


「お母さん、そろそろテーブル買い換えようか……」


 完全に座れそうにない人数に、美弥は皿を持ったまま、立ち尽くしていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る