定期券落とした
双六トウジ
第1話
定期券を落とした。
五千円を入れたばかりの、Suica兼定期券を落とした。
…………。
それが分かった瞬間、賢い私の脳みそは瞬時に回転し、少し前の行動を振り返った。
駅でチャージしたあと、どうした?
いつもだったらスマホカバーに入れるはずのそれを私は……、どうした?
二つ折のスマホカバーを開くと、そこにはあるはずのものがない。
え、私、カードをチャージ機から抜いてなくない?
…………。
私は駅前のカフェで、Suicaでお金を払おうとしたその時に気づいたのだ。それが無いことに。
代わりに現金で払ったコーヒー片手に、来た道を早足で戻る。
無い。無い。無い。
さっき行ったばかりのチャージ機にも、無い。
駅員さんに聞いてみた。
「届いてないですね」
近くの警察署にも行ってみた。
「すいません、無いです」
――私は確信した。盗られたな、と。
…………。
自分の愚かさ。人間の醜さ。
それらに失望の中、私はとぼとぼと家路についた。
五千円チャージしたばかりだったのに……!
自分へのクリスマスプレゼントに腕時計を買ったばかりで、手持ちの金がないというのに……!
私の二つの
しかし家の玄関を開けたその途端私の賢い頭脳は閃いた。
「ネタに出来そうじゃね?」
故に、この話は諸君らへの
***
次の日私は早起きし、もう一度駅員の元へ向かい再発行してもらうことにした。
再発行すると、元々のSuicaは定期券もチャージしたお金も使えなくなる。
盗人め、少々時間は経ったが金は使わせぬぞ。
しかし定期券が再びこの手に戻ってくるのは翌日以降になる。受け取りはSuicaだからJRのみどりの窓口だ。
すなわち昨日の晩私がすべきだったことは、無くしたと確認した後に再発行の手続きをすることだったのだ。諸君らもぜひ覚えていてもらいたい。
その際、再発行してもらうための紙を渡された。これはけして失くしてはいけない。それと、少々お金が必要になる。これも気を付けてくれ。
そして翌日、みどりの窓口で金と紙を渡し、代わりに新しいSuicaを手に入れた。
驚いたことに、五千円はそのままだった。これは嬉しい誤算だ。
その嬉しさのあまり私は職場まで走った。何故なら私は浅はかな人間だからだ。
しかしこれが良くなかった。
その勢いのまま、転んだのだ。
いやいや、これはまだいい。転んでも再び立ち上がれれば、人生ってのは。
本当に良くないのは、左腕にしていた新しい腕時計のベルトがポキッと外れたことだった。
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