先輩と冬
通行人C
第1話
ザクザク。道の端に残った雪を、先輩が楽しそうに踏んでいる。
「はは、何やってんですか」
一月も残り数日という頃、東京では珍しく、結構な雪が積もった。
「いや、こっちだとこんなに雪が積もるの珍しくて」
私にとってはそんなに珍しいことではなかったのだが、なるほど、雪の降らない地域では、この積雪量は珍しいらしい。
二人で並んで歩く、いつもの帰り道。
「あっ」
何かを見つけて垣根に近寄り、何かを手にして戻ってきた。
「氷柱ですか」
手にしていたのは、あまりにも小さくて、氷柱らしからぬ氷柱だった。
「こっちじゃ氷柱なんて滅多に見ないからね」
私の知っている氷柱とは、最低でも5cm、いや、10cmはあるようなものだったのだが、この人は1cmほどの氷柱でもテンションが上がってしまうらしい。
「冷たい」
そう言って、先輩はすぐに放り投げていた。
もうすぐ春休みに入ってしまう。そうすると、もうこの人とはしばらく会えなくなる。そう考えると、無性に切なくなって、
「今度、私の地元に遊びに来ませんか」
と言ってみた。
「いや、行かない。遠いし、寒いよ」
予想通りの回答。
「そりゃあそうですよ」
いつもの分かれ道。ここでお別れ。
「じゃあ、お疲れ様です」
「うん、お疲れ」
次はいつ会えるかな、なんてことをぼんやりと考えながら、私はゆっくりと歩いて帰った。
先輩と冬 通行人C @DandelionZinnia
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