怒りからの解放

シヨゥ

第1話

 子供の頃から怒ってばかりだった友人。そんな友人が怒ることがなくなって不思議に思って質問してみたんだ。

「怒りっていうのは自分の中にしか存在しないんだ」

 そう彼は言っていた。

「相手の行動が自分にとって美しくないと思う時、怒りは生まれるんだ。不快だと思う時でもいい。理解できないと思う時でもいい。不可解だと思うときでも。そう判断した途端に怒りは芽吹くんだ」

 怒りを見つめ続けた結果、彼は怒りを分析するに至った。

「だから僕は判断するのをやめたんだ。そういう考えもあるよね。そう考えるようにしたんだ」

 彼なりの解決法がこれだ。

「それでも怒りそうな時がある。そんな時はそんな自分を怒ることにしたんだ。何やっているんだバカ野郎。そう自分を罵る。もちろん声には出さないよ。それでも治まらないときはグッと拳を握り込む。そうすると爪の食い込む痛みに我に返ることができるんだ」

 自傷行為に及んでまで怒りと戦った彼。

「怒りを根絶する。それが僕の夢なんだ。人生怒って損してばかりだったからね」

 そう夢を語っていた彼。

「方法はもう見えているんだ」

 そんな疲れ切った顔で語られた彼の最期の言葉。今にしてみればあの時点で決意を固めていたのだろう。

『怒りを根絶するため、僕は死にます』

 遺書にはそう書いてあった。

 自分がいなくなれば自分の怒りはなくなる。そう結論づけたのだろう。

 なんて馬鹿な結論。そう思うが本人にとってはそれが唯一辿り着けた答えだったのだろう。

 彼が空に登っていく。怒りに囚われず自由に飛び立てただろうか。そうであれば少しは救われる。そう思うのだ。

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怒りからの解放 シヨゥ @Shiyoxu

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