クリスマス小説

郷野すみれ

サンタクロース

 サンタクロースが存在しないことを知ったのは、小学3年生の時だった。

 あの頃、僕は中学受験をするかしないかで迷っていた。忘れもしない、あの年のクリスマスの朝。ワクワクして起きた僕の枕元に置いてあったのは、文房具とノート、そして中学受験用の問題集だった。


「ねえ、これ……」


 親が起きているリビングに持っていくと、両親は一瞥して言った。

「あら、サンタさんからもらったの? いいじゃない」

「これは、中学受験を受けろとサンタさんも勧めているんだな」


 跡を絶たれた僕は、その後中学受験の勉強をして、無事に第一志望の中高一貫校に入学した。


「クリスマスプレゼント何にしようかな」

「私、現金でもらう!」

「いいなあ。うちの親、お金はダメだ、物にしなさいって言うから」


 小学校に入った頃から「あなたはサンタさんからもらえるのだから、お父さんとお母さんからプレゼントをもらわなくていいでしょ」と言い含められていた僕にとっては贅沢すぎる悩みだ。そして、そのサンタさんも小学3年のクリスマスを機に来なくなったのだが、親からプレゼントをもらえないのはそのまま。


「りく、お前はどうすんの? クリスマスプレゼント。俺はワイヤレスイヤホンを買ってもらうつもり。うちの親、ケチで5千円以内に収めろって言ってくるんだ」

「それは大変だな。どうしよっかな。まだなんも決めてねえ」


 僕は動揺を隠し、朗らかに笑う。バレないといいが、どうせクリスマスに向けて浮かれている奴らだ。気づかないだろう。


 サンタクロースが本当に存在するなら。

 僕は周りのように恵まれた両親もしくは、あの家を出られるだけの力と財力が欲しいです。

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