生ける絵
九八
生ける絵
玄関を開けたら目の前にコウモリの死骸が落ちていた。仕事に行こうとしてすぐに見つけてしまったのだ。
「うわー、最悪だ。」
コウモリの死骸なんて何処に捨てればいいんだ。この後すぐ仕事もあるから今は無理だし。
「とりあえず脇に避けておこう。」
考えるのは帰ってきてからで良いか。今は仕事に行かなきゃいけないし。
◇
満員電車に乗って職場に到着した俺は早速仕事に取り掛かる。
しばらく仕事をしていると俺を呼ぶ声が聞こえた。
「先輩、次に使う資料の事なんですけど、ってどうしたんですか。なんかやけに疲れていますけど。」
「あぁ、お前か。今朝玄関の前にコウモリの死骸が落ちててゲンナリしてるだけだ。」
「そうなんですか。コウモリ……、先輩の家の周りは良くコウモリがいるんですか?」
「俺の家の周り、と言うより気付いて無いだけで案外どこでも飛んでるぞ。」
「へー、そうなんですねビックリです。」
俺も初めて知った時は驚いたよ。
「って、そんなことより仕事だ仕事。」
「あぁ、そうでした。この資料なんですけど。」
「よし、今日はこれで終わりっと。」
今日の仕事が終わったのでさっさと帰ることにする。今はまだ気力があるし家に帰って死骸の処理も出来そうだ。
「お疲れさまでした」
俺はオフィスに残っている人達に声をかけて帰路についた。
◇
コウモリの死骸の処理方法を調べながら家に向かう途中いつもの不気味な絵の前を通り掛かった。
「……ほんとに何なんだろうなこの絵。夜に通りかかるといつもビックリするんだよな。」
それは廃墟になった家の外壁に描かれている黒いナニカに人が手を伸ばしている絵だ。
「ここの家主は何を考えてこんな絵を描いたんだ?」
と、思いながらその廃墟の向かいにあるアパートに入った。
「ふー、こうして家に帰ってくると安心するな。」
安心しすぎたのか急に疲れが襲って来てしまった。
「コウモリの死骸を処理しなきゃいけないけど、正直もう疲れたな。」
家に着くまではやる気が有ったんだが、着いた途端無くなってしまった。
「まぁ、明日か休日にでもやればいいし今日は風呂入って飯食って寝よう。」
こうして俺はお風呂に入ったあと買ってきておいたコンビニ弁当を食べてからベッドに入った。
◇
ピピピッ、ピピピッ
「ん、んー。」
微睡みの中無情な機械の音が響いてきた。
「もう朝か……。」
昨日ベッドに入った途端すぐに眠ってしまったがまだ疲れが取り切れていない気がする。
「最近ずっとだしベッドがあっていないのかも。」
なんて考えながら手早く着替えて朝食の準備をする。
朝食を食べ終え、いざ玄関を開けようとした時ふと、この前のコウモリ、夜の間に猫が持って行ってないだろうか、と考えた。
「本当にそうなら物凄くありがたいんだが。」
そんな淡い期待を抱きながら玄関を開け死骸を確認する。
「そんな都合の良いことないよな……。」
コウモリの死骸は昨日の様に玄関の目の前においてあった。
「やっぱ休日に片付けなきゃ駄目か。」
休日はゆっくりと休みたいが平日は昨日のように寝てしまうから難しいだろう、……ん?
「あれ?何かおかしい気が?昨日の様に?」
おかしい、昨日家を出る時脇に避けておいたはず、……まさか!
急いで昨日死骸を避けておいた場所を見てみると、そこには昨日と変わらず死骸が落ちていた。
「な、なな、何で増えてるんだよー!?」
こうして今日も最悪な始まり方をしたのだった。
生ける絵 九八 @tukisirosiro
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