神社に行くと神様は42歳だった

羽弦トリス

第1話綺麗な指先

僕の名前は吉田純也17歳だ。大田口高校普通科文系のさえない男子である。

しかも、部活は将棋部である。将棋部には男女合わせて14人いる。

『ゴキゲン中飛車』には、『丸山ワクチン』だよな?なぞ、将棋部の奴らはマニアックな話しをするのだが、これは将棋を愛でる人間には普通の話しなのである。

『ゴキゲン中飛車』は、数年前の戦法で現在は我が高校では、それを指すものはいない。

僕は、この寝癖のまま教室に入る人間やメガネをしきりに中指で上に上げる連中の仲間なのだ。

だが、僕には気になる子が1人いる。

学年は同じだが、理系の福満洋一が最近気になる。

福満は必ず髪はセットされていて、近付くと甘い良い匂いが漂う。

女子部員はみんな、福満を羨望の眼差しで見つめてる。

今日は久しぶり、チェスクロックを利用し高校生名人戦の予選に向けての、練習試合をした。


一回戦の相手は1年の藤川だった。

相振り飛車だったが、終盤に強い僕は最後17手詰めで勝利した。

それから、二回戦はその福満洋一だった。

福満の試合は女子が見守り、一手一手に女子は目を輝かせている。

寝癖でメガネの僕は四面楚歌。

女子がワザワザ、記録係とチェスクロックを担当した。

「先手は振り駒の結果、福満アマ三段に決まりました。持ち時間は各40分。チェスクロックの針が落ちた場合か詰みで負けになります。それではお願いします」


福満はスッと綺麗な指先で飛車先を突いた。

「先手、福満アマ三段2六歩」

僕は福満の指先が好きだ。だが、今は敵だ!集中することにした。

「後手、吉田アマ三段8四歩」

相掛かり模様だ。

僕はペットボトルのお茶を飲み、福満の顔を見ていた。女子もそうだろう。

『考えてる福満はかっこいい。ここで僕が勝ったら、総スカン食らうのではなかろうか?否、負ける福満の顔を見てみたい』

角交換して、直ぐに福満は5六歩と突いてしまった。

僕はすかさず、3九角と打ち込んだ。

「あっ!」

福満はそうささやいた。福満の顔が紅くなる。否、耳まで。

女子は僕を睨み付ける。完全なアウェイだ。

勝負は決まってしまった。角交換して5六歩は絶対に突いてはいけない。

完全な福満のポカだった。

「まで、98手を持ちまして吉田アマ三段の勝ちです」


「あ~あ、何で5六歩突いたんだろ?さては、吉田マジックだな」

と、福満はニヤリと笑みを浮かべ、

「吉田君と指すと、大事なところでポカしちゃうんだな」

と、投了した盤上を眺めていた。

「僕はたまたま勝っただけだよ!福満君」

「オレはこれから、中盤戦を強くしたいな~」

と、呟いていた。

勝ってしまったが、負けた顔をいくらポーカーフェイスの福満でも耳まで紅くなっている所をみると相当悔しいんだな。と、僕は思った。そして、そんな福満洋一が好きだった。



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