286話 ヒーロー
――どうも、こんにちは。
はい、どうも。
――本日は、ご協力ありがとうございます。
気にしないで。呼び出したのはこっちだし。
――今回お聞きしたいのは、先日起こった”悪魔島”の一件について、いくつか不明な点が見受けられるということで。その辺の仔細を伺いにやってまいりました。
オーケイ。わかってる。
あたしも聞いたよ。死者、五千人だってね。この辺で起こったモンスター災害としては、未曾有の数だ。ある意味、あの病気が流行ったのが小さな島の中だけだったのは、運が良かったのかもしれないね。
――それでは、……失礼ですが、お名前とお立場から、簡単にご説明いただきたい。
ああ。わかった。
あたしの名前は、✕✕✕✕。ディ・シティのチーフサモナーで、……”カガク”系のモンスター使い。特にお気に入りは、”ラプター”かな。
知ってる? ”ラプター”。
――ええと……?
ラプターはいいよ。宙空戦最強のモンスターだ。移動速度も速い。
あたしが使ってる子の名は、F-22。あたしは単純に、”エフ”って呼んでたけどね。
”エフ”と一緒なら、あたしは神話級のモンスターにだって勝つことができる。つまりあたしたち、無二の親友であり、相棒でもあったってわけ。
――なるほど。了解しました。それであなたたちは当日、どのように行動を?
いつも通りだよ。
朝起きて、《ブック》抱えて、食堂に向かってね。
昨日はほとんど寝てなくってさ。昨夜は睡眠剤を飲んで寝たから、頭が割れるように痛かった。
といっても、仕事があるからね。
珈琲飲みながら、携帯端末で今日の仕事をチェックしてると、――突然、ジムの案内嬢の子からビデオ・チャットがあったの。
『”悪魔島”で、正体不明のモンスターが暴れています!』
っつって。
普通の声色じゃなかった。どうもすでに、すでにとんでもない数の死者が出てるらしい。あたしは驚いて、すぐさまねぐらを飛び出したよ。今日の仕事は、ぜーんぶキャンセルしてね。
――移動は、その、……、
うん。もちろん、エフの力を借りたわ。
あの子は時々、スピードを出しすぎることがあるから怖いんだけど、その日は気にもしなかった
でも、それがまずかったのね。
突然、がつん! って、機首がさがったの。
そしてあたしたち、くるくるときりもみ飛行。墜落していることに気づいたってわけ。
”悪魔島”上空で、突然目の前に見えない壁が現れてさ。
それにぶつかったみたいな感じだったわ。
――何らかの、魔法攻撃を受けたんですか?
うん。
《風系魔法》、だと思う。たぶんね。
たぶんっていうのは、あたしもエフも、なんで墜落したのかいまだに良くわかってないから。
エフは……可哀想に、”悪魔島”の針葉樹に身体のあちこちをぶつけちゃって、しばらく使い物にならなくなってしまった。
あたしはその時、後頭部をがつんと打ってしまって……。
――それから、気を失ってしまった、と。
そう。
それから何時間、そこでそうしていたかはわからない。
あたし、気がつけば、分厚い枯れ葉のベッドに投げ出されていたわ。
エフは両翼を盾にして、あたしのことを護ってくれたみたい。あたしは、すぐさま《ブック》を開いて、彼を本の中に戻したの。
エフは重傷だった。両翼がぼっきりと折れてしまっていたし、何より機首の損傷が酷い。まるで、踏み潰されたアルミ缶みたいになってた。彼、そんな状態であたしのことを庇ってくれたのね。
あたしは、本の中のエフに感謝の言葉を言ったけど、彼が応えることはなかった。
見るも無惨な、瀕死の重傷ってやつ。回復に時間が掛かることははっきりしてたわ。
あたしはまず、全身にまとわりついていた腐った枯れ葉を払った後、状況を確認した。
召喚したのは、”ロボット”のロミオと、同じく”ロボット”のジュリエット。どちらも、あたしが持つ最高の戦力よ。レベルはどちらも、20。並大抵の敵には負けないわ。
もし、いまの攻撃が何者かによる悪意ある行動なら、あたしはすぐに、そいつをやっつけなくちゃいけない。
モンスターのスキルを人間に使った”サモナー”は、その場で殺されても文句を言えない決まりだからね。その点、”カガク”系は便利な連中で、情報を映像として、しっかり記録しておくことができる。
あたしは、仲間たちに状況記録をお願いしたあと、落ち着いてバックパックの中身を確認した。
こうした緊急時に必要なアイテムは、常に十分な在庫がある。
あたしはまず、無用な争いを避けるためにモンスター避けのお香を焚いたわ。
お香は首にかけられるタイプのもので、これをネックレスみたいにぶら下げてると、未契約のモンスターとの接敵を避けることができるのよ。
あたしはその後、急いで”悪魔島”に存在する、小さな集落の一つを目指したわ。ねえあなた、”悪魔島”についてはどれほどご存じ?
――詳しくは、何も。
そっか。
”悪魔島”ってのはね、そのこわーい名前に反して、けっこうたくさんの人が住んでるの。モンスターとの協調と調和? 的な生き方を選んだ人たちの集まりで、……《ブック》の使用を拒絶した、科学文明に頼らない生活をよしとする連中。まあぶっちゃけ、カルト宗教的な人たちが住む島だと思っていい。”悪魔島”ってのはぶっちゃけ、ディ・シティのみんなが使う俗称ね。本当の名前は……確か……、
――固有名詞はどうでもいいです。”悪魔島”で統一しましょう。
ん。わかった。
それでその、”悪魔島”を歩くあたしたちの目の前に現れたのが、……あの、恐るべき怪物だったの。
――それがその、新種のモンスター、ですか?
そうね。……そう。
”ゾンビ”。
でも、思うにあれは、あたしたちが知ってるモンスターとは、少し違うものなんじゃないかな。
――どう違ったんですか?
凶悪さ、よ。
モンスターって基本、そこそこ話が通じるものじゃない?
でも、”ゾンビ”は違う。あいつら、どいつもこいつも『うー』とか『あー』とかしか言わないし、知能に関してもはっきりいって、虫レベルじゃないかな。少なくともあたしはそう感じたわ。
……それに何より、あいつらがヤバかったのは、噛みついた人間を、同じ”ゾンビ”に変えてしまうってこと!
そういうスキルなのかなんなのか知らないけど、とにかくあたしたちが着いたときすでに、”悪魔島”の住人たちのほとんどは……あの、”ゾンビ”どもに噛まれて、連中の仲間に成り果てていた。
”悪魔島”をしばらく歩いて、最初にあたしが目の当たりにした異常な光景、何かわかる?
――……。さあ?
棍棒みたいに太い腕の大男が、四匹の老婆の”ゾンビ”にまとわりつかれて、身体のあちこちを噛みつかれている姿よ。
凄惨な光景だったわ。大男は、あたしに助けを求めようと両手を伸ばしていた。
でもあたしには、もう彼が助からないことがわかっていたの。
だって、”ゾンビ”たちがいま、――彼の内臓を引きずり出して、むしゃむしゃと口に運んでいるところだったから。
やつらの口元にはドス黒い血がべったりとついていて、まるで、紅を差しているみたいだった。四匹はその時、目の前の血と肉に夢中で、こちらにはまったく気づいていない感じだったわ。
正直言うと……あたしはその時、すっかり気が動転してしまって。
チーフ”サモナー”としての責務を投げ出して、逃げだそうと思った。
――無理もないことです。
でも、それを思いとどまらせてくれたのは、他ならぬロミオとジュリエットだったわ。
二機のモンスターは、あたしを叱咤して、命令を求めた。
あたしはそれに応えて、”ゾンビ”どもを攻撃するように叫んだの。
《ビーム》攻撃よ。
だけど、ダメだったわ。ロミオとジュリエットのビームガンは確かに”ゾンビ”の心臓を貫いた。
急所に当たった! そんな感じがしたけど、連中、まるで応えた雰囲気がなかったの。
なんていうのかな。ぜんぜんルールの違う世界からきた生き物みたいにね。
――それで、あなたはどうした?
やっぱり、逃げるべきか迷った。だけど、そういう訳にはいかない。
仲間のモンスターが、チーフとしての義務を思い出させてくれたから。
だからあたし、続けざまに攻撃を繰り返したの。
でもやっぱり”ゾンビ”たち、ダメージを受けている感じがしなくって。
そんなときだったの。”彼”が現れて、あたしたちを救ってくれたのは。
――彼、とは?
さあ? あの人、なんでか最後まで、名乗ってくれなかったから。
ただ彼、”ゾンビ”の前に立ち塞がるや否や、あたしにこう言ってくれたのよ。
「そこじゃない。頭を狙え。そうすれば一撃で死ぬ」
って。テレビの中に登場する、スーパーヒーローみたいに。
――”
うん。
あの人まるで、奴らを倒すのに手慣れてる感じだったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます