277話 レベルアップ

 と、言うわけで、レベルアップ(Lv5⇒Lv18)。

 のちに《ブック》で詳細なステータスを確認したところ、


『レベル:18

 こうげき:47

 ぼうぎょ:19

 まりょく:66

 みりょく:101

 すばやさ:134

 うん:12

 

 覚えているスキル

 《キュートなキス》

 《体当たり》

 《魅惑のダンス》

 《剣の舞》

 《水系魔法Ⅰ》

 《水系魔法Ⅱ》

 《飢餓耐性(中)》』


 とのこと。

 相変わらず”ぼうぎょ”と”うん”の値が死んでいるのが気になるところだが……。


「まあ、これでその辺のサモナーには負けんだろ」


 これには、狂太郎もにっこり。

 さらに賞金として、これから一週間は旅に困らない程度の資金をもらっていた。


「ヴィーラ。今日は実に、よくやった」


 狂太郎は、街にあるファミレスのような施設で注文したモンスター用のエサ(最上級の花みつらしい)を彼女に与えつつ、革袋の中の金貨を数える。

 少女は宙空をふわふわ漂いながら、『まーね♪』と笑った。

 なお、すでに彼女には、先ほど経験した激戦のダメージはない。ヴィーラの怪我は、《ブック》の中で少し休んだだけで、嘘のように消えてしまっていた。


『しょーじき今回は、相手のサモナーがくそざこ短小野郎だったのが勝因かしらねー(相手が弱かったお陰で勝てただけです)』

「あんまりいい気にならんことだ。今回の試合は、あらゆる点において幸運が味方したんだから」


 とはいえ、いま一番いい気になっているのは、自分自身かも知れない。

 無理もなかった。狂太郎は今日のこの一手で、数週間~一ヶ月ほどの時短ができた計算になる。


――このアドバンテージを利用して、兵子くんに追いつければいいのだが。


 とはいえ、まだ安心はできない。

 ”ゲンソウ”属性であるヴィーラは、”カガク”属性の敵に弱い。そのため、互角以上の戦いができる”ニンゲン”か”カガク”属性のモンスターとの契約が今後の課題となるだろう。


 狂太郎は、《異世界用スマホ》をタップしつつ、これからのことを考えている。


「ここから、今日中にシィ・シティまで移動しておこう。宿を取るのは、その後でいい」


 すると、花みつをちゅうちゅう吸うフェアリーが、『え?』と驚いた。


『あれ? もー、ビィ・シティから動くの? 早漏か?(私まだ、ビィ・シティの観光を済ませていません)』

「悪いが、ノンビリしている時間はない。さっきも言ったと思うが、ぼくは探している人がいるんだ」


 それと、この世界には依然として危険が潜んでいることも忘れてはいけない。


 狂太郎にはいま、三つの目標がある。

 一つ、松原兵子を見つけること。

 二つ、(もし存在するなら)”異世界転移者”を撃退すること。

 三つ、”終末因子”を無力化すること。


『んー。……それなら、まあ。しゃーないけど。――ちなみにその人、あなたとファックする関係?(それなら、仕方ありませんね。ちなみに探しているのは、あなたの恋人ですか?)』

「いや、違う。探してるのは、仕事仲間だ」

『あっそ。どーでもいいけど』


 そこまで話してなかったっけ。

 そう思いつつ、少女が花みつを飲み終えたところを見計らって、


「もう、食事と休憩は十分だな? それなら、急いでここを出るぞ」


 と、あらかじめ宣言する。


 というのも、レストランの外に十人ほど、初心者狩りを目的とした”サモナー”がたむろしているのが見えていたためだ。


――しばらく、バトルをするメリットはないな。


 経験値的にもお財布的にも、この辺りの”サモナー”と勝負する理由はほぼ、ない。

 この作品の”効率的な稼ぎ”は、ほとんど格上の敵相手に苦しい戦いを強いられた時のみに生じる。彼らのように同格の相手と手合わせしたところで、得られるものはほとんどないのだ。


 そして彼は、《ブック》で少女を本の中に戻すやいなや、トイレに行くふりをして《すばやさ》を発動。

 ”サモナー”たちの目を盗み、街を走り去る。



 ビィ・シティ~シィ・シティ間は、”ムーンマウンテン”と呼ばれる山を経由する必要があるという。


 ごつい岩肌むき出しの、殺風景な山を登って、――さっと降りる。


 一昔前であればもう、それだけで音を上げていた狂太郎も、最近はもう、それほど辛くない。

 道中、旅人を相手に小銭稼ぎをしているらしい”サモナー”たちと出くわしたが、当然彼らのことはスルー。

 休憩がてら、ヴィーラの案内で野生のクランベリーを見つけて、その酸っぱさに閉口したりなどして。


 結局、狂太郎がシィ・シティに到着したのは、日が暮れた頃合いであった。


『大人の足で、一週間の道のりなのに。ほんと、――あんたのセックス、いっぺんでいいから観てみたいもんだわ。なんか滅茶苦茶な動きしそう(一週間の道のりを、一日で。とてつもない足ですね、あなた。本当に人間ですか?)』


 狂太郎は当然これを無視して、街の案内図を眺める。

 シィ・シティもまた、ビィ・シティと変わらず、機能性を重視した作りになっているらしい。

 この世界、基本的には、通常のファンタジー系の世界にありがちな平屋はほとんど存在せず、大抵の建物が高層ビルのような作りになっているようだ。


――これほどの文明レベルなのに、ここまでの道中はほとんど開発されていなかった。


 やはりこの世界の住人は、なるべくモンスターの住処に侵入しないようにしているらしい。

 その結果産み出されたのがこの、高層建築物なのだろう。


 狂太郎は、事故対策と思われる透明の屋根に覆われた道路を歩きながら、今夜の宿を求めた。

 衣食住が無料で保障されているこの世界では、誰もが気軽に休む場所を見つけることができる。

 街の一角に、やはり高層建築の宿泊施設があって、狂太郎のような身分の保障がないものであっても泊まることができるのだ(※5)。


 なお、無料の宿泊施設はカプセルホテルと漫画喫茶を合体させたような構造になっていて、娯楽室、サウナ、公衆浴場、食堂、ラウンジなどを自由に利用することができるという。その運営には何らかの形でモンスターが関わっており、彼らの協力によってこの、極めて快適な空間が成立しているようだ。


 こういうところを見ていると自然、『奴隷』という二文字が頭に浮かぶが、どうもこの世界のモンスターは、自ら人間と協力し、労働に従事することに喜びを見いだすタチらしく、それほど不幸そうには見えない。

 狂太郎たちが夕食を摂っている間も、数匹のゴブリンとコボルトが、ちょこまかと忙しそうに食堂で働いているのがわかる。


『…………………………』


 そんな彼らを、ヴィーラは少し複雑そうな眼差しで眺めていた。

 反骨精神の塊のような彼女である。人間に従順な同胞を見るに忍びないのかも知れない。


 さて。

 食事を終えた狂太郎たちは、そこでいったん、娯楽室の方へ向かう。

 もし、兵子がこの街に来たのなら、この施設に泊まるほかにない。

 そうなるときっと彼のことだから、ゲーム・コーナーには立ち寄っただろうと思えたのである。


 防音構造になっている娯楽室の扉を開けると、――その中は、少なくない数の世捨て人と思しき連中の溜まり場になっていた。

 仕事を辞め、交尾相手を求めることも諦めた、……そういう人々の住処だ。


 彼らは皆、日がな一日、娯楽室で提供されているゲームを延々と行っているらしい。


――文明が進んでも、駄目人間はどこにでもいる、と。


 苦笑しつつ。

 たぶん、シェアハウスのみんながここに来たら、喜んでこの場所に永住するだろう。そんな風に思う。


 と、その時。


『ゲンジ陣営・ヨシダさんにより、任天カード”カゲオンナ”が使用されました。ヘイシ陣営はこれより10ターンの間、密談が行えなくなります』


 という、どこかで聞いたアナウンスが聞こえた。


「――おや?」


 狂太郎は、目を丸くして声がした方向に顔を向ける。

 そこでは、数人のおじさんたちがワイワイと、ボードゲームに興じていた。


 近寄って、その内容をチェックする。


 『ヒノモト・センソーダイスキ』。


 かつて、兵子と遊んだゲームであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(※5)

 こんな風に語ると夢のような施設のように聞こえるかも知れないが、宿泊者が何らかの悪事を働いた場合に備えて、建物内は少ししつこいほどに監視カメラが配置されていたり、万一の場合、この記録を治安維持組織に提供してもよい旨を認める必要があったりするらしい。

 プライベートを犠牲にすることで得られる半ニート生活、ということか。

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