181話 アザミの日記⑨
基督皇歴1612年 無月 24の日
錬金術のお勉強、強化週間が始まっています。
日常作業を”食屍鬼”たちに任せて、勉強と研究に専念中。
我ながら、都会に居た頃とは比べものにならない捗りっぷりです。
たぶん、身近な誰かのために役に立つことがはっきりしているから、でしょうね。
今朝だけでもう、『上級錬金術とは』は完全に読み終えました。
なお研究過程で、実に興味深い事実が判明しています。
ここよりはるか南の地に、”迷いの森”と呼ばれる場所が存在するのですが……なんでもその森、――一度入ったら二度と出てこられないんだとか。
ここだけ聞くとまあ、良くある民間伝承の一種かな? って感じですが、なんでもこの森、木々が特殊な花粉を発生させていて、それを吸い込んだ人の思考を一時的にぼんやりさせてしまうんだとか。
この効能の研究が進んでいないのはもちろん、花粉の採取が困難だから。
……で、これ。
私たちなら、うまいこと利用できないかしら?
”食屍鬼”たちの力を借りれば、いくらでも花粉を採取することができるのでは。
長期的には、”迷いの森”の木々を植林して、余計な人が村にやってこないようにもできるかも。
そうしたら、私と”食屍鬼”だけが住む、理想郷を作れるかもしれません。
うーん私、ちょっぴりわくわくしてきた!
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基督皇歴1612年 無月 25の日
年の瀬が近づいてきています。
今年は色んなことがありましたね。
来年もたのしいこと、たくさん見つけられたらいいな!
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基督皇歴1612年 無月 26の日
今朝、隣村のヘルクくんから、伝書鳩。
なんでも、”冒険者ギルド”に依頼が出てるみたい。――それも、明らかに私たちを目標とした、”食屍鬼”の退治依頼です。
依頼者はもちろんあの、ローズさん、とのこと。
……うーん。かなしい。
「そう落ち込むな。生かしても殺しても、どっちにしろ似たようなイベントが起こる仕様だ」
だ、そーですけども。
キョータローさん、違いますよう。
私が後悔してるのは決して、――ローズさんを無残にぶっ殺さなかったことじゃあありません(そんな女に見える? 私)。
結局私、彼女とはわかり合えなかったんだな、って。
子供の頃からずっと私、不思議に思ってました。
なんで人は、いがみ合ったり、憎み合ったりしなくちゃいけないんでしょうねえ。”食屍鬼”たちはみーんな、仲良しこよしなのに。
あるいは”食屍鬼”が仲良しなのは、肉体と魂の繋がりが薄い……からかも。
性欲、食欲、睡眠欲。
そして、――永く、肉体を保ち続けたいという欲望。
肉がもたらす悦びはいつも、血みどろの奪い合いをもたらします。
でも、私思うんです。
それって結局、本当に大切なものから遠ざかってはいないかって。
青臭いことを言うようですが、――人間の幸福って結局、人と人との繋がりの中でしか生まれないんじゃないかって思うんですよね。
我々は、群れる生き物です。
群れに安住を見いだす生き物なのです。
私はこれまで、真の意味で孤独を愛する人に出会ったことがありません。
私自身わりと、孤独が苦ではないタイプですが、――それでも、人との繋がりを完全に断ったことはありませんでした。
結局のところ人は、誰かしらと繋がっていないと、苦しくてしょうがない生き物、なのかも。
……と、そこまで考えて、一つの提案が浮かびます。
――いっそのことみんな”食屍鬼”になっちゃった方が世の中、平和で幸せな世界になるんじゃないかしら?
そんな話をしたら、リリーちゃんに笑われちゃいました。
「あんがい、そういう世界もいいかもね」
って。
じょーだんなのにー。
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基督皇歴1612年 無月 27の日
また近場にキャラバンが来たというので、大きくお買い物。
現在の村の状況、まとめ。
・錬金術班(マジック・アイテムの作成)
アザミ(私)、リリー、トム
他、10名
・戦闘班(魔物狩り系の依頼、拠点の警備)
オークA~E
他、40名
・食料調達班(魚釣り、家畜の世話、料理)
シエナ、フローレンス
他、10名
・素材採集班(錬金素材の収集)
イブリン、オークG~J
他、10名
・その他の雑用(建物の修理、増設。衣類の修繕など)
ライラ、クロエ、レオン、マイケル
他、10名
・居候
キョータロー
・お金
金貨換算で1000枚とちょっと
・武器
”夢と夜の杖”×1
”オークの剣”×10
”オークの斧”×10
”鉄の剣”×5
”鉄の槍”×5
”銀の剣”×100
”銀の槍”×100
”銀の弓”×100
・防具
”守護騎士の盾”×5
”木製の盾”×100
・家畜
鶏 三十匹
牛 五匹
羊 十匹
ゴールデンドラゴン 一匹
クダン 一匹
・本
『賢者の石の作り方』、『なんでも百科事典』、『上級錬金術とは』、『錬金術全書』
※『錬金術入門』、『ウエストウッド・サバイバルガイド』、『錬金術のススメ』はもう中身を丸暗記していたので売却しました。
・食糧品の蓄え
およそ一年分くらい。
・その他、マジックアイテムの在庫
”
”レッド・ポーション”×100
”武器軟膏”×100
”ボンヤリ薬(試作品)”×10
⇒”迷いの森”の花粉を使った粉薬。……ちょっと名前が安直かしら?
先月に比べて、この資産の増え方よ。
村の様子も、春頃と比べれば見違えるよう。
なお、もちろん、人数の増加に従って家の建て増しなどを行っています。
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基督皇歴1612年 無月 28の日
もはや、私が指示すべきことも少なくなっています。
仮に私が、今日突然に死んでしまったとしても、きっとこの村は残り続けるでしょう。――縁起でもない話ですけど。
・今後の課題
遠距離武器の研究。
キョータローさんの発案で、”鉄砲”なるものの設計に着手。
こちら、大砲を小型に改良した感じのもので、実用化したらめっちゃ強いとかどうとか。
キョータローさん曰く、”鉄砲”ですごく大事なのは、弾丸の形状だそうで。
「言っておくがきみ、この情報だけで覇権取れるレベルのやつだからな」
とかいって書いてくれた絵は、あんまり上手じゃなかったけれど。
どうも、弾丸のお尻のところにピンのようなものを「カチン!」と当てて、中の火薬を爆発させるのがキモみたい。慣れると、豆粒みたいな距離の相手を狙撃することもできるんだとか。
……まあ、実用化するのはたぶん、十年後とか二十年後とかでしょうけどねー。
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基督皇歴1612年 無月 29の日
さて。
遂に”彼ら”と対決する時が来ました。
キョータローさん曰く、私たちにとっての「最大の試練」となる敵。
”冒険者ギルド”です。
とはいえ、まだ戦いは前哨戦な感じ。
「食屍鬼ごとき、俺たちがかるく捻ってやるぜ」みたいなことをいってる戦士×4人パーティとの真っ向勝負でした。
もちろん、かるーく、のしてやりましたけどね。
だってこの人たち、身体を治癒する手段が”レッド・ポーション”をごくごく飲む他にないんですもの。
後半、ちょっとおしっこ行きたくなってた人もいましたし、隙だらけにもほどがある、というか。
ちなみに四人は、”ギルド”の近況を話すだけ話させた後、”ボンヤリ薬”を嗅がせて野に放ちました。
なお戦果としては、上等な”革の鎧”と”盾”、”鉄の剣”を数本、それに山ほど持っていた”あかぽ”をゲット。
ってかよく見るとこの”あかぽ”、私が昔作った奴じゃありませんか。
……日頃お世話になってるアイテムの製造元に喧嘩ふっかけるとか……ウウム。
ちなみにキョータローさん曰く、
「”ギルド”とはあと二回、戦う羽目になる」
とのこと。
どうやら年末年始も、忙しく過ごす感じになりそうですねえ。
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