178話 アザミの日記⑥
基督皇歴1612年 実月 9の日
ってわけで、オーク×100匹(くらい)とのバトル。
私、いつものように”夢と夜の杖”担いで単身突撃⇒『しゃらんら』キメて終了……と言う作戦のつもりだったんですけど、
「猪武者か、きみは」
と、あきれ顔のキョータローさん。
「流石に、そこまで力業でせん滅できるほど、オークたちは弱くないぞ。シミュレーションゲームというものは基本的に、たった一つのユニットの有能さで何もかも解決するようにはできていない。個よりも群。――慎重に戦った方がいい」
でも、キョータローさんの力があれば……。
「悪いが、今回ぼくは直接、戦いに参加しない。きみが”死霊術師”として隣村を救うことが大事なんだ」
なんでも彼、英雄になるのが厭みたい。
英雄は、――この村のみんなであるべきだって。
男の方としては珍しいタイプですこと。
「ぼくは、もしそれで、仲間の誰かが犠牲になるとしても、仕方ないと思ってる。……恨んでくれて構わないよ」
なんて。わざわざそんなこと言ったりして。
良い人だなあ。キョータローさん。
ホントはこの人、私たちを手伝う必要なんて、これっぽっちもないはずですのに。
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基督皇歴1612年 実月 10の日
さて。
結局、私たちが用いた作戦は、――”食屍鬼”たちの夜目を利用した、夜襲でした。
一応、村の自警団も手伝いに来てくれたみたいなんですけどね。
今回の作戦では、残念ながら邪魔になる可能性が高いので、後詰めとして待機してもらいました。
①キョータローさんが敵陣のかがり火を消す。
②辺りが暗闇に包まれたタイミングで、”食屍鬼”たちによる突撃。
③二、三十匹くらい敵を倒したあたりで混乱したオークさん、同士討ちを始める。
④大半のオークさんがそこで自陣を捨てて逃げだそうとする。
⑤孤立したオークさんを各個撃破。
⑥敵戦力を八割方やっつけたあたりで、改めて松明の明かりを灯していく。
⑦そこで不肖、”夢と夜の杖”を携えた私が出陣。
⑧自警団のみんなと一緒に、残ったオークたちをせん滅。
と。
なんか、「こんなにうまくいくこと、あるかしら?」ってくらい簡単に、悪者をやっつけることが出来ました。
ご婦人方の被害もなし。でも、あとちょっと遅かったら危なかったとか、どうとか。
村長さんを始めとして、隣村のみんなから、たくさん感謝されちゃいましたよ。
いやー、照れますわねえ。
やっぱり誰かに喜ばれるのって、サイコーに気持ちがいい!
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基督皇歴1612年 実月 11の日
なお、その後、オークの死骸はしっかり回収させていただきました。
もちろん、再利用するためです。
どの個体も、結構派手に痛めつけられていたけど、何匹かつぎはぎした結果、10体ほどは役に立ちそう。
もちろんオークたちは、鉄の武具でガッチリ装備を固めています。
彼らの名前は、オークA~Jと名付けて、村の警備と魔物退治系の依頼を主にこなしてもらうことにいたしましょう。
どうせ別種族だし。
死んでも胸が、痛まないし。
今回の依頼は、得られるもの多き仕事でしたね!
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基督皇歴1612年 実月 12の日
ありがたいことに、隣村のみんなに、感謝の宴を開いてもらうことに。
私としては、いつものように仕事をしただけ、なんですけれど。てへへ。
でも、一つだけ気がかりがあって。
私、この勝利を”食屍鬼”たちとも分かち合いたかったんです。
それってやっぱり、普通の人たちには辛いこと……なんでしょうか?
そう思ってたらヘルクくん、自分から、「もちろん、サムさんたちも」って。
嬉しかったな。
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基督皇歴1612年 実月 13の日
さてさて。
私たち、様々な依頼こなす傍ら、日々、村を豊かにしています。
最近、『錬金術のススメ』という中級者向けの本をゲットしまして。暇を見つけては内容を把握しております。
この調子で、都会の錬金術師を超える仕事をしてみせますよー。
リリーちゃんの覚えも早いことですし、なにぶん私、結構時間に余裕がありますから。
生活に直結することがはっきりしていると、勉強も捗るってものです。
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基督皇歴1612年 実月 20の日
『錬金術のススメ』読了。
……いや、読了自体は数日前に終わってたんですけども。
納得できるまでメモを取ったり「これは使える!」って内容をメモしたりしてるうちに、結構時間かかっちゃいました。
でもおかげでこれからは
”
”レッド・ポーション”
に加えて、
”武器軟膏”
を特産品に加えることができそう。
もちろんどれも、数ランク品質の高いものです。
この新商品、”武器軟膏”なるものは、私の住んでいる村の近くに自生している”ロバフラ草”なるものを使って作るもので、傷つけた武器に塗りつけることでその怪我を治癒するという、一風変わった”マジック・アイテム”です。
この効果たるやすさまじく、吹き飛んだ人体の一部ですら、時間さえかければ復元する、とのこと。
なんかの疑似科学の一種とかだったら困るので、さっそく私自身の身体で実験してみたところ、見事怪我の治癒に成功。
大喜びでそれをキョータローさんに見せたところ、すごーくビミョーな顔、されました。
なんでも、
「昔一度、それと同じものを使われたことがあるんだよな」
ですって。
キョータローさんも案外、大変な人生、歩んできたんですねー。
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基督皇歴1612年 実月 27の日
先日納品した”
自分の仕事が認められて、もうそれだけで、最高の気分です!
いやはや。私あんがい、物作りの才能があったんですねえ! てへへ。
この調子で私、『鉄を金に変える』っていうウワサの、――”賢者の石”まで作れちゃうんじゃないかしら?
「”賢者の石”? ああそれ、ゴミだよ。近所に金塊が出るスポットがあるって言ったろ。ゲーム後半ではむしろ、鉄資源の方が有用になるからね」
って、キョータローさんに言われちゃいましたけど。
ロマンがない人だなあ。
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基督皇歴1612年 実月 28の日
冬ごもりの時期が近づいています。
一応、しばらく仕事がなくなることを見越して、本を数冊買っておきました。
『賢者の石の作り方』、『なんでも百科事典』、『上級錬金術とは』、『錬金術全書』。
この辺、ちゃんと中身を覚えれば、もうそれだけで一財産作れるレベル。
もちろん、今の私は、個人的な財産には興味ありませんけども。
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基督皇歴1612年 実月 30の日
冬に向けた準備中。
そんな昼下がりに、とある人の訪問がありました。
彼女の名前は、ローズさん。
ぶっちゃけ、あんまり嬉しい人ではありません。
彼女が”冒険者ギルド”で、いの一番に私を裏切った人だと、知っていたためです。
そしてローズさんは、私がそれに気付いていることを、……知らない。
「やあ、久しぶりじゃない」
「聞いたよ。さいきん調子良いんだってね?」
「良かったじゃない。わたし、あなたが幸せに暮らしているのが、すごく嬉しいんだ」
なんて一見、人当たりが良い風に振る舞って。
でも私、知ってるんです。
本当に残酷なことをするのは、――笑顔を作るのがうまい人。
野心を満たすため、他者を犠牲にすることが出来る人。
「悪いんだけどさー。……ちょっとこの屋敷、泊めてくれない?」
「この辺で、魔物狩りの依頼があってさ」
「いいでしょ? あなたとわたしの仲、なんだから」
いろいろ考えて私、彼女の逗留を許すことにしました。
彼女には一応、初歩的な錬金術を教えてくれた恩があります。
”ギルド”にいて、最初に声をかけてくれたのも、彼女ですから。
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