144話 第四回戦
その、夜。
『はああああああああああああい!
それでは!
”金の盾”!
”エッヂ&マジック”(順不同敬称略)!
合同懇親会! 二日目を開始しまああああああああああああああああす!』
昨日と同じ、景気の良い声の女司会が叫ぶ。
ちなみに今回の場合、――殺音、狂太郎、飢夫の三人は最初から入場している。
すでに用が済んでいるためだろう、早めに案内されたのだ。
もちろん試合場の反対側には、沙羅、兵子、そして今回の対戦相手でもある遠峰万葉とローシュが座っている(※26)。
がやがやと人が賑わう中で、
「ねえ、狂太郎」
「なんだ」
「ちょっと聞いたんだけどさ。ひょっとしてきみ、殺音と二人きりのタイミングで、――なにかやらかしたかい」
「やってない。なにも」
狂太郎は怒り眉をひそめて、応える。
「でも、みんな噂してるよ。――きみのこと、絶倫の王だとか、どうとか……」
「黙ってろ」
むっつり唇を尖らせ、頬杖をかく。
ちなみに”救世主”たちの席に、本日も食事は出ていない。どうやら、まだ仕事が残っている可能性がある、ということらしい。
『それではっ! さっそく、本日到着したニュー・フェイスの紹介をさせていただきましょう!』
女司会が、慣れた調子で叫ぶ。
『現在ッ! ヨシワラで話題沸騰!
センソー寺のダンジョン、初攻略者となったのは、このひとッ!
あ、あ、あ、あ! ……トツゼン叫んだワケじゃあありません!
なんと驚き、こちら本名です! 命名神様は何をしていたのでしょうかッ!
ご入場いただきましょうッ!
空前絶後の絶倫モンスター! とある世界の”主人公”役ッ!
”ああああ”さんです!』
同僚の入場シーンとしては初めて、観客がワッと湧いた。
”エッヂ&マジック”の不人気ぶりよりも、彼女の名声はすでにヨシワラ中に轟いているらしい。
襖がぱかんと開くと、白いドレスに浅黒い肌の少女が、モデル立ちで佇んでいる。
そして、スキップするような足取りで狂太郎たちの元へ現れた。
「あれが噂の、――”ああああ”ちゃんなん? ずいぶん、話とちゃうけど」
殺音が不思議そうな顔をしている。
飢夫も目を丸くしていた。
「どうも、いろいろと人生経験を積んだらしい」
狂太郎が嘆息混じりに言うと、
「やあやあおつかれ! 飢夫っちも! ごぶさた!」
「ええーっと……うん。ごぶさた」
飢夫もまた、この唐突なキャラ変には少々、面食らっている様子だ。
のちにゆっくり考察したところによると、――この性格変更はどうも、……彼女がもつ能力の一種ではないか、とのこと。
そもそも『かいもり』の主人公には、定まったキャラクター性というものが存在しない。だからこそ、基準となる人格が不安定なのかもしれなかった。
『はいはい! みなさん! それではっ! 昨日のおさらいを行います!
本日行うのは、四回戦!
ただし現在、”エッヂ&マジック”2勝! ”金の盾”1勝の状況です!
すでに王手がかかっている、この状況!
果たして”金の盾”は、十年連続勝利を勝ち取ることができるのかッ!』
その後、すでに昨日聞いたばかりの解説を、再度繰り返して、
第四回戦は、”エッヂ&マジック”にルールの決定権が、(もしそれで決着がつかなかった場合)第五回戦は”金の盾”側にルールの決定権がある、とのこと。
「マンガとかだとこれ、絶対負け試合になるやつだよね。こういうパターンで主将が残されるパターン、あったっけ?」
「どうだっけな。スポーツ系だと、決勝まで行かずに終わるパターンはあるけど」
そう、二人で話していると、クスクスという少女の笑い声が隣から聞こえて、
「オタクくんたち、変わらないなぁ」
と、”ああああ”が微笑んでいる。
「安心して。第五回戦はないよ。私、ぜったい勝つからね」
「大した自信じゃないか」
少女は、にっこりと笑みを作って、
「そりゃもう♪ お師匠様に、成長したところを見せて上げなきゃいけないから♪」
その意気や、よし。師匠になった覚えはまったくないが。
対する相手は、遠峰万葉と言ったか。
遠目に、兵子や沙羅と何やら相談しているのが見えるが、ここからではその内容までは聞こえない。
そこで審判が近づいてきて、
「それでは、次の勝負の演目を決めて貰いたい」
「はい! もう決まってます!」
「ほう。話が早いね。ただ、あらかじめ言っておくが……」
「わかってますって! こっちに有利すぎるルールはダメ、なんでしょ?」
「うむ」
そこで彼女は、審判の耳元に唇を近づけ、何かしらぼそぼそと囁く。
すると彼は、少し苦しげな表情を作って、
「えーっと……それは……ちょっと、難しいんじゃないだろうか……聞いたことがない遊びだし……」
「お・ね・が・い!」
”ああああ”が頼み込むと、――審判の男は、たちまち顔色を変えた。
まるで、赤んぼうの頃から目をかけてきた姪っ子を相手にしているかのようなえびす顔で、
「まあ。……ここの運営はどうも、なんでもありっぽいしね。……私がなんとか、交渉してみよう」
と言って、運営側の座席へ、すたすたと進んでいく。
――あいつ、《みりょく》を使ったな。
感覚で、わかる。たぶん、飢夫も殺音も、……この場にいた”救世主”は全員だ。とはいえ口出しはしない。その程度のことがルール違反にはなることはないだろうし、もしそうだとしたら運営側の手落ちである。
その後、たっぷり十数分は間が空いて。
遂に、――という感じで、今回のルールが発表される。
『ええと、……長らく……お待たせしました!
ちょっぴり今回、異例ではありますが、――第四回戦のメンバーは、運営の方で選定させていただきますっ。
なお、選ばれるメンバーは、この会場にいる方の中から、4人。つまり、総勢6名のゲーム参加者が登場するということです』
どよ、どよ、と、場が騒然となる。
無理もない。
それで果たして、フェアなゲームができるのか。
『……とは、いえ! ただゲームに参加しろと言われても、みんなヤル気にはならない、と思います! なので今回、参加者に選ばれた方は! ゲーム中で獲得可能な1得点につき、……こちら!』
そう言って彼女が取り出したのは、数枚綴になっているチケット型の紙切れだ。
『運営より、ヨシワラの中でなら現金同様に使える商品券を進呈しましょう! なんとこの商品券、一枚につき金貨一枚分になりますっ! 明日のお大尽はあなただ!』
おおおおおおおおお! と、観客席から歓声が上がる。
思ったよりテンションが上がっているのは、”エッヂ&マジック”の面々だ。
みな、給料に不満があるせいだろうか。目を爛々と輝かせ、一部の行儀の悪い天使などは、ヨダレを垂らしている始末。
「俺だぁ! 俺を選んでくれぇ!」
”ヨダレを垂らしている天使”の一人であるナインくんが叫ぶ。
同時に、彼の担当である”救世主”は全員、渋い顔でうつむく羽目になった。
「それにしても、――一点につき、我々の金でいうところの十万円、か。総合すると結構な額になりそうだけど、どういうゲームなんだろうね?」
「わからん」
狂太郎がぼんやりと女司会を眺めていると、……みんなの興奮の波がいったん落ち着いたタイミングを見計らってから、――彼女は、このように叫ぶ。
「では! カサンドラさまの承認も得たところでッ! 発表いたしましょう!
気になる、第四試合の勝負はぁああああああ……」
と、たっぷり過ぎるほど溜めて。
ドロドロドロドロ……というドラムロール。
「……マーダーミステリー・ゲーム!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(※26)
なお、金剛丸ヤマトは仕事のため、さっさと帰宅してしまったらしい。
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