第47話 草タイプの魔物
「自然な明かりと草が生えてるだけでも気分は違うな」
「緊張感は忘れないでよ」
「気をつけよう」
しばらく新鮮なダンジョンの風景に軽口を聞いていた真澄だが、ふと違和感を覚えて立ち止まる。
「……魔物で合ってるか?」
前方の草陰が濃く映り揺れて見えた。
「正解。クサウサギは身体全部が緑色だから、ああやって草の中にいると見つけづらいでしょ」
「見過ごしたら体当たりを食らってたわけか……」
真澄は急に嫌な汗をかいて剣の柄を握った。
「このダンジョンで射出機構を使うのは禁止よ。名郷なら普通に相手をできるし慣れるためにね」
「了解」
――思わず塩浦を師匠呼びしそうになるな。
剣を抜いて両手で構える。他に魔物がいないか周囲を確認して一歩一歩、地面を踏みしめる。先制攻撃を加えるか迷っていると草陰が動いてクサウサギが飛び出てきた。緑の草が何重にも編み込まれてウサギになった姿で、魔物と認識するには少々可愛げのあるフォルムだった。
まだ距離はあるが、クサウサギは真澄を補足したように向きを変える。
――スカルドッグより小さいのか……。
体当たりの速度がどの程度かは初めてなのでわからない。一度確認のため避けたいが位置取り的に後ろの二人へ向かってしまう。そこで距離を保ちながら横に軸をずらし様子を見ることにした。
クサウサギは地面を跳ねて真っすぐに真澄を追う。そのまま近づくと急な動作で跳ねる高さが上がって体当たりに変化した。
「っと!」
突然の攻撃にも真澄は反応して横に避ける。
――ちゃんと見えてるし身体も軽く動く。
剣を構えての身動きに慣れてある程度の筋肉を得たことにより、取ろうと考えた行動に身体が追い付いていた。
体当たりを避けられたクサウサギは地面に着地後、方向転換をして再び体当たりを仕掛ける。
「ふっ!」
真澄は一度で攻撃を見切ってカウンター気味に剣を上から振り下ろした。
――硬いゴムみたいな感触だな……。
剣を握る手に痺れがないのを確認し、地面にバウンドするところへ追撃する。二撃目は手応えが若干柔らかくなっていた。
クサウサギは地面に転がって動かなくなる。同時に草がバラバラにほどけると中から木の実のようなものが出てきた。
「倒せたが……なんだこれ?」
「ダンジョンでたまに落ちてる木の実よ。そこに魔力が宿って魔物になると言われているわね」
「クルミに似てるが食べれるのか?」
「食べられるはずよ。魔物飯って一部で呼ばれているぐらいだし。新しい食料へ期待する話もあったんだけど、魔物を倒せる数にも限りはあって自然と消えたらしいわよ」
――魔物飯とはまた思い切ったことを試したもんだな。
多少の驚きはあっても不快さはまったくなく、興味から木の実をポケットに入れて持ち帰ることにした。
その後も出てくるクサウサギを安定して倒し、二階層に続く階段を発見する。
「地図は描けましたか?」
「分かれ道があまりなくて楽だったけどカーブが難しいね」
真澄が手元を覗くと方眼紙には草が生えたエリアなど、細かく地図が描かれていた。
「いやこれ、すごく精密な地図じゃないですか……」
「ひめちゃんって器用なのね……」
「……二階層にどんな魔物が出るか聞かなくていいのかな」
菊姫は二人の反応に頬をかいて話題を変える。
「そうでした。塩浦先生、お願いします」
「師匠って呼んでもいいのよ?」
――師匠はファイネだけだから。
「二階層はクサウサギの他に人面草が出て来るわね。花の部分が人の顔になってるやつよ」
「根っこが身体になった魔物だっけ」
真澄は人面草という名前にカードを思い出す。
「花につながる太い根があって途中で枝分かれする二本が手、最後に枝分かれするもう二本が足の役割になるのかしら。攻撃方法はムチみたいにしなる手ね。初めは対応しにくいと思うわよ」
「ムチは嫌な攻撃だな」
簡単な確認を済ませて三人は二階層に下りる。
「クサウサギがあまりにも上手くいったから緊張感が薄れてるかも」
「今のはフラグになる発言ね」
「もっと厳しく指摘してくれていいんだが」
「名郷ってエムの人なのかしら」
「そんなつもりは……」
前のめりに否定しようとした真澄だが改めて考えると強く言えない。ファイネの訓練による影響なのは本人も十分にわかっていた。
「ほら、早速出たわよ」
草が茂る場所に生えた木の陰から紫色の花がゆっくりスライドする。花の中心は白く、三つの黒い穴が目と口に見えた。
「思ったより大きいな……」
人の腰ほどもある人面草は空気を震わせるような鳴き声を出す。足部分の根をうねらせて近づいてきた。
――様子を見るにも動きが特殊で難しい……。
手の部分は地面に垂れ下がるほど長い。真澄がちらりと後ろを見ると菊姫と塩浦は離れた位置にいたので、攻撃範囲の広さが窺えた。
その時、人面草の地面に垂れていた根が波打って勢いよく飛んできた。縦にしなる攻撃を横に避けるが宙で向きを変え追ってくる。
「っ!」
まさか攻撃の方向がノータイムで変わると思ってなかった真澄は剣で受け止める。しかし、人面草の根はグルグルと剣に巻きついて絡まった。
「このっ!」
強く剣を引くがビクともしない。原因を探ると人面草の足部分が地面に入り根を張っていた。
剣に巻きついているのは一本の根。手こずる間にもう一本の根が襲いくる。このまま距離を詰めて一撃を加えるか迷った真澄だが、剣を手放し後ろに下がる道を選んだ。
「この場合は正解でしょうね」
そして、塩浦が後ろから飛び出す。人面草の攻撃をかいくぐってソゾロ零式の射出機構を起動させた。
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