第46話 Cランク相当のダンジョン
「もうBランクのカードになって……」
真澄と塩浦が学校から帰宅し、仕事終わりの菊姫を迎えてそれぞれがスマホを確認していた。
「ダンジョンズエクエスは仕事の速さが売りなのよ」
「でも昨日の昼に送って夜にやり取りしたんですよね?」
「今日の昼もしたよ」
「仕事中に?」
「暇だったから」
――他人事だが心配になる店だな。
「劔火愁のネームバリューだけでAランクになると思ってたのに。甘くはなかったわね」
「木刀はイメージで金属に勝てないからなぁ」
「今回は向こうも力が入ってたよ。親に聞いたら劔火愁の名前を使わせてくれって度々連絡が着てたみたい」
「あー、個人の名前というかブランドですもんね。許可は必要なのか」
「面倒で断ってたけど好きにしろって言われたよ」
「ひめちゃんが関係者じゃなかったらそもそも採用されてなかったのね……」
「菊姫さんに全ベットして良かったです」
「足を向けて寝れないね」
その後はカードの出来について話し合い、予定したダンジョンへ向かう準備を済ませた。
「車で行こうか」
「助かります」
近いと言っても車で十分ほどはかかる場所。荷物を積み込んで運転席に菊姫が乗り込み、助手席は真澄、塩浦は後部座席に収まった。
「見た目よりは広いのね」
「内装もシンプルというか旧車感がありますね」
「色々手を加えてたみたいだから乗り心地は良いよ」
車を走らせ世間話程度に言葉を交わしていると、塩浦が思い出したように手を叩く。
「そうだ、一階層の魔物ぐらい教えておかなくちゃ」
「出るのはクサウサギだったか?」
「擬態系の植物モンスターね」
「植物がそこら辺を走りわけがないし、魔力で動いてるみたいなことなんだろうな」
「攻撃方法は体当たりよ」
「草に体当たりされてもって考えは甘いのか」
「あざになるし当たりどころが悪ければ骨も折れるわね」
――もはや草のような何かだな。
「防具で備えるのはどうなんだ?」
「ダンジョンに挑む前提として攻撃を受けないことが大切なの。一発でも食らうならダンジョンの難易度を間違ってるわね」
「なるほどなぁ……」
「もちろん防具を着こむ探索者もいるわよ。わたしは動きを阻害されるのが嫌なの」
「ゲームのイメージが先行するけど現実は重さがネックか」
武器を持つだけで精いっぱいの真澄もスタイルは必然的に塩浦へ寄ることになった。
「そろそろだよ」
スマホのナビが周辺についたことを知らせる。そこは小さな山のふもとで人里を少し離れた場所だった。
アスファルトから未舗装の道に入ると車が五台ほど入れる広場があって、菊姫はそこに車をとめた。
「駐車場ってわけじゃないのかな」
「警察を呼んだら捕まります?」
「面倒事にはなるね」
田舎の奔放さを当てに、三人は車を降りてダンジョンの入り口を探す。
「いくつか画像があるのよ」
塩浦がスマホと周囲の風景を見比べる。
「たぶんこの広場に立って撮られたものだから……こっちかしら?」
草むらを入り進んだ先に石柱が二つ現れて、その間に地下へ続く階段があった。
「こんな場所のダンジョンを見つけるってどんな変人なんだか」
「ダンジョンが出現する時は周辺に微弱な揺れがあるとか変な雲が出るとか、オカルトは色々あるわね」
「庭のダンジョンも見つかる可能性が……?」
「心配なんて今さらよ。誰か来たって私有地なんだし追い返せばいいでしょ」
――筋骨隆々の探索者が来たらビビり散らしてあることないこと話す自信はある。
「先頭は名郷が行ってみる?」
「そうだな……挑戦の意味でもやろう」
「地図ってあるのかな」
「残念だけど正確な地図はないの。利用者が多いダンジョンに比べてマイナーな場所はおざなりになっちゃうのよ」
「なら、今日は練習を含めて私が地図を作ってみよう」
「それは心強いわね!」
「ぜひともお願いします」
「やり方はさっぱりだから、お試し程度に考えてよ」
まず真澄が階段を下りて菊姫と塩浦が続いた。
「これはまた雰囲気が……」
ダンジョンは洞窟風だが木漏れ日のように光が差して照明具なしに様子を窺える。ただ、天井はどこまでも真っ暗でダンジョンの特異性が現れていた。
「地面は土だし草が至る所に生えてるな」
「ダンジョンが違えば環境も大小様々な部分で変わるわよ」
――いざ目の当たりにするとやっぱり驚きはする。
「あ、気持ちゆっくり進める?」
「もちろんです。それって方眼紙ですよね?」
「だね」
菊姫は方眼紙を挟んだクリップボードとペンを用意し、地図を作る準備に余念がなかった。
「歩幅を合わす練習をしてたんだよ」
「仕事中にですか?」
「まあね。大体の距離と何か目印になるポイントを書き込めば大丈夫かな」
段取りを確認し、三人は新しいダンジョンの攻略に挑むのだった。
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