第6話 探索者のSNS
「ふっ、ふっ!」
スケルトンの姿では変なクセがつく可能性があるため、真澄は人間の姿に戻って剣を振り始める。軽く握るのを意識し自分なりに姿勢を作っていた。
小部屋には剣を振る音とは別に日本の音楽が流れる。発生源は板の上に置かれたスピーカー内臓の音楽プレーヤーで、ファイネがジッと眺めていた。それは暇つぶしと合わせ、人間の姿でも言葉が通じるきっかけになればと真澄が用意した物だった。
――気に入ってくれたのは良かったけど、これは剣を教えてもらっている内に入るんだろうか。
真澄は言われた通り握る位置を変えてみるが、どこもしっくりこず首を捻る。期待していたのはこれが正しいやり方だ、というわかりやすい指導。簡単にはいかないなと考えを改めることになった。
「カタカタカタ!」
「ん?」
いつの間にか横にいたファイネが真澄の腕を上げさせる。剣を振りかぶった体勢で腰を前に押し、後ろから両肩を掴んで姿勢を正す。最後に肘の角度を調整して先を促した。
「カタカタカタ!」
剣を振り下ろすとそこでストップをかけられる。ファイネは踏み込んだ右脚の膝へ触れて余分に曲げさせた。そして、次に自らの足先を出し指の付け根を示した。
「足の指がポイント?」
「カタカタカタ!」
「……なるほど」
一応の納得をした真澄は剣を振る。音楽が流れるなか、細かく姿勢を修正されて十本目の素振りで指摘がなくなった。
指導らしさが出てようやく、と思ったところだったので真澄が横を見る。するとファイネは音楽プレーヤーを見て指を差した。
「カタカタカタ!」
「好きな曲、なのか……?」
曲が変わったタイミングだったので察しながら、真澄は聞き入るファイネを置いて一人で素振りを再開する。
「ふっ、ふっ!」
教えを守って一振り一振り確認して続けていると、五十本目を過ぎたあたりで腕が重くなってきた。
――やっぱり鍛えないとなかなか……。
剣を下ろし休憩を始めたところで握っていた剣をファイネが奪う。
「カタカタカタ!」
「えっと……今日はもう休め?」
「カタカタ!」
「うん、合ってそうだ」
真澄はなんとか行動の意味を読み取り、頭を上下に振るファイネを見て正解だと思うことにした。
――元の姿に戻る方法をダンジョンで探すと言っていたしな。
一緒に行きたくても足手まといのままでは気が引ける。運良くできた頼れる相手。いい関係を築くため邪魔をしたくはなかった。
お互い手を上げて意思の疎通を交わし、真澄は地上へ戻ってきた。電波が入ったスマホは昼を示す。スケルトンから人間の姿に戻るのも含め、それなりの時間をダンジョンで過ごしていた。
昼食はそばを簡単に茹でて食べながら、探索者がダンジョンに潜っているところをスマホで視聴する。
「人外じみた動きだな。魔法を使ってるのか?」
動画では探索者が壁を蹴って三メートルほどを軽くジャンプする。さらに一瞬で魔物との距離を詰める様は常人の運動能力を超えていた。
「でかいヘビと戦ってるし……」
真澄は動画の他にSNSに上がる画像などを端から見ていくが、魔物と仲良くする探索者は一人もいなかった。
――かなりの大発見だったり?
自慢したい気持ちが浮かぶも庭のダンジョンにつながる話。報告義務を怠ったなどと言われてしまえば面倒なことになるのは確実だった。
――表に出たら間違いなく研究対象か。
十年経ってなお謎が多いダンジョン。各国で専門の研究者たちが議論を続けているが一高校生には目の前の出来事が全てで、ファイネに迷惑をかけたくない思いが強かった。
「大っぴらにするのは無理けど……」
複数の探索者が一緒にダンジョンへ潜る動画も多い。しばらく一人の時間が続いている真澄にとっては羨ましく映った。
探索者のSNSには画像の他、パーティ募集の書き込みもある。
「こういうのに募集できるメンタルがあればなぁ」
――ファイネのことは秘密にしてほしいし。
まとまらない考えのまま、真澄は自然と女探索者のSNSを辿っていく。徐々におすすめにはお色気要素の強い投稿が増え、ついにはダンジョン内で水着姿になっている画像へ行きついた。
「ダンジョンで何を考えて……」
と呟きながらも過去の投稿をさかのぼり見ていくが、顔は全て隠されていて残念がるという健全な青少年っぷりを見せた。
「……走りに行くか」
SNSを漁るのに熱中しすぎて昼を随分と過ぎている。腕が疲れているものの脚に力は残るため、真澄は気を取り直し体力作りをすることにした。
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