大人な彼をゲットする
枯れた梅の木
第1話
北国の地方都市には今年も雪がふり、地方では優秀とされる
高校の表門へとつづく道路を長靴をはいて登校するのは、欅坂高校の1年生男子、
白い息を吐きながらスマホ片手につもった
「おはよう務くん、今日もしびれるぐらいにデラ寒いよね」
ほのかにホホを赤らめた、ナチュラルウェーブのかかるセミロングが印象的な女子は、
務の同学年で同じクラスの瀬良に話しかけられた務は、なれたように横目であいさつをかえす。
「おはよう瀬良さん、今日も元気だね」
自然な形のあいさつだったが、瀬良はなぜかムッとなり。
「男子で務くんだけは瀬良ちゃんでいいって言ったよね、いつになったらちゃんづけしてくれるのかな、お姉さんはまいどまいどこの距離感が心配になる」
務はイヤァとつぶやいてから苦笑い。
「同じクラスってだけでそこまでずうずうしくなれないよ、いろいろ誤解もされるだろうし」
「えっ、なんで、私たちの関係って誤解されるような関係でしょ」
「表現には気をつけようね瀬良さん、最近はちょっとした事でも炎上する世の中だし」
「私はぜんぜんかまわない、瀬良くんとの仲を炎上するぐらい世の中に見せつけてやりたいの」
まっすぐな瞳で見つめてくる瀬良に、務の顔はひきつってしまう。
瀬良は務の顔色をうかがいながら、右に左にふらふらしてちょっかいをだす。
「おうおう兄ちゃん、引きしまった良いヒップしてるね、こちとら目の保養になってビビビとくらぁ」
「どこでそんな言葉を覚えたかは知らないけど、遠回しにセクハラだよ瀬良さん」
「遠回しはお気に召さない?」
瀬良は指をアゴに当てて数秒考え。
「務くん、お尻触らせて」
「瀬良さん、それはガッツリ犯罪だから、勝手に
「務くんのケチぃいいい」
務はそれを聞いて大きな
高校にしては珍しい薪ストーブで温められた教室では、ホームルーム前の時間を利用して、高校生同士の雑談に花がさき、務も例にもれず瀬良に雑談を仕掛けられていた。
「ねぇねぇ今日はなに見てんの」
スマホ画面を見つめる務の腕を制服の上からさすりながら、瀬良は前の座席で足をくむ。
「うん、答えてあげるから触るのはやめようね瀬良さん」
「どうして、良いじゃん、私って男子のやわ肌に飢えてんの、触ってないと
「瀬良さん、それはカウンセラーに相談するレベルの症状だよ、僕にはどうすることもできないから、とりあえずお触りはやめてほしい」
それでもやめない瀬良を横から眺めていた、ごついタイプのクラスメイトが話しかける。
「古月くん、そんなに男子のやわ肌が恋しいなら、中学校時代からラグビーのぶつかり
ごつい男子が制服をめくり肩を露出すると、タンクトップの下から幅の広い肩と肩甲骨がむきだし、それを目を細めてにらむ瀬良。
「ハァ?なに
瀬良の一撃がそうとうのダメージになり、ごつい男子の頭の中は一瞬まっ白になる。
「あまりにひどい言葉で頭の中がショートしたか、残念ながら古月さんにとって光矢くん以外の男子はみんな、腐りかけの
三人の様子をうかがっていた、もう一人の男子生徒がごつい男子の肩をたたいてなぐさめた。
そのやりとりを聞いた瀬良は嬉しそうに。
「
脇役としての固有名詞をつけられた、人物Aと人物Wがポカンとしていると、務が真剣な目つきで瀬良に忠告する。
「どんな言葉がイジメに発展するかわからないんだよ、言葉を選ぶのは瀬良さんの方じゃないかな」
瀬良が視線を合わせ何か言い返そうとするが、あまりの真剣な表情に強気な女子も弱気になり。
「ごめんなさい務くん、どうか許して」
目をそむけて反省する瀬良に務も言いすぎたかなとフォロー。
「僕こそ余計なこと言ってごめん、ただ瀬良さんがわかってくれて安心した」
これで話が終わると安堵していると、瀬良が机に顔をふせ嗚咽まじりに泣き出した。
「ちがう!務くんはまだ私のことを許してない」
「えっ、どうしてそんなことを」
「だって務くんの目は私の大切なモノを強引にうばった、あの時の鋭い視線と同じだもの」
身に覚えのない突然の告白に言葉を失う務、そこへ部外者の人物Wがわりこんでくる。
「光矢ぁあ貴様ぁああ!その悪い目つきで古月さんのナニを奪ったんだぁああ!!」
「人物Xさん、私はいいの、憧れの務くんに奪われるんだったら、でも、さんざん全てのモノを捧げたのに、ボロ雑巾のように捨てられるかと思うと、涙がでて止まらない」
「おのれぇぇええ!いたいけな乙女の純情をもてあそんでおきながら、ボロ雑巾のように捨てるきかぁああ!そんな奴を天が許してもこの人物Xが絶対に許さんぞぉおおお!!」
固有名詞がいつの間にか、人物Wから人物Xへとすりかえられる中、務は静観するクラスメイトの人物Aに、助けを求めるビームをおくった。
するとそれに気づいた人物Aは。
「高校生にして大人のオーラをまとう、草食系イケメンの代表格みたいな人だと思ってたけど、あんがい雑食系だったんだね」
瀬良は顔を伏せながら人物Aの制服をひっぱり。
「務くんにとって誰が雑食だ、人物Aよ、あんまりなめたクチ聞いてるとこれからあんたのこと、虫の名前で呼ぶけどいい」
「それはちょっと」
「白状しろ光矢ぁああ!お前はいったいどんな羨ましいモノを、古月さんから奪ったんだぁあああ!!」
周辺が騒然とするなか、務だけが一人つぶやいた。
「奪われたのは僕の自尊心だよ」
「ねぇねぇ、朝のことまだ怒ってんの、いいかげん許してよ」
ほぼ休眠状態の自然研究同好会に所属する務は、放課後の図書室で本を読んだり、それをスマホで調べたりしていると、当然のように瀬良が隣に座ってかまってちゃん。
「もう怒ってないから、瀬良さんの指で僕の指をいじるのはやめてほしい」
「なんでやめるの、これって動物のグルーミングと同じだよ、ただのスキンシップ」
「人間同士はね、恋人や夫婦でもないかぎり、男女が相手の同意なく身体に触れちゃいけないんだよ」
「同性ならいいの」
「そう言うこと言ってない、もうそろそろ触るための理由をムリやり作るのは止めようね」
理由を作ることがNGだと認識した瀬良は。
「ムラムラするから抱きつきたい」
「思ったことをダイレクトに口にするのは控えよう、君の未来や親御さんのためにも」
言われてアヒル口で抗議の意をしめす瀬良は、あくびをしてから。
「いつもいつも飽きないね、なに調べてんの」
「いろいろ」
ふぅううんと瀬良は鼻で返事して。
「務くんって将来はなに目指してんの」
「なんども聞かれてなんども答えた気がするけど、できれば派閥や人間関係で邪魔されない、研究職につきたいと思ってる」
「コアラやミミズの研究とか?」
「そうだね、研究している人はいるけど、それは置いといて、学閥なんかで研究が阻害されるぐらいだったら、海外に行くこともありかな」
瀬良は急に机をたたいて。
「やだ!務くんは海外に行かせない、だって遠いし会えなくなるし」
務は
「だっらら一緒に行けばいいよ、異文化に触れることで瀬良さんの人生も豊かになるはずだから」
無意識に発言した務の言葉に、顔どころか体全体が赤くなる瀬良。
「ねぇ気づいてる務くん、それって聞きようによっては愛の告白か、プロポーズの言葉だよね」
自分の不用意な言葉に、いつも慎重でクールな務は耳まで赤くなり。
「いやそうじゃなくて、特別な関係じゃなくても海外には行けるってこと、誤解をさせたならゴメン」
「あわてちゃってウブね、そう言うとこ好き」
からかうような視線の瀬良に、務はネクタイをゆるめてから。
「僕はトークが巧みなホストじゃないんだ、ただの高校男子、異性に対してはウブな方が普通だと思う」
机にヒジをつきながら、イケメンを見つめる瀬良の瞳は興味しんしん。
あいかわらずのストレートな視線に、務は照れ隠しでスマホを閲覧する。
「務くん、子供は何人ほしい、私、がんばってバンバン産んであげる」
「まずは友達以上の関係になって、しかるのち親御さんに婚姻を認めてもらい、それから結婚式の日取りを決めないとね、その意味で僕たちはファーストステップも超えてない、瀬良さん、図書室での妄想はほどほどに」
そんな風に一般の男子高校生より落ち着いた性格の務は、いつも瀬良に遊ばれるのであった。
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