詩「チューリップ」

有原野分

チューリップ

小学生の頃

やりたくもないお花係に

理由もなく任命され

いや 理由はあった

Kさん

赤いチューリップが夕暮れに咲いた

空を飛ぶように坂をくだる

記憶のなかで

てのひらの土がこぼれないように

路上の草木に目もくれず

青い球根はいまかいまかと春を待つ

Kさん

彼女はいじめっ子だった

階段の下で

日陰草のようにじっと気配を殺し

爆発しそうな心臓を握りしめ

足音

あとは見上げるだけなのに

だからいじめられるのか

あれから五十年

エレベーターのボタンを連打したつもりはな

 かったのだが

もうあの子のひらひらと笑う声は

耳が遠く聞こえない

ふと思い出す

こわもてだった担任の先生に呼び出され

「次の授業は多目的教室になったから今すぐ皆に伝えておくように」

しかし誰にも言えないまま休憩が終わり

「もしこれが爆弾だったらどうするお前はみんなを見殺しにするのか」

Kさんもいた前で叱責された

もし明日

あのときと同じような状況になったら

私はどうするのだろうか

Kさん

階段の下

恐かった先生

チューリップの球根

すべてが爆発する

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詩「チューリップ」 有原野分 @yujiarihara

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