010.女子高生(おっさん)のBADEND2


──暗闇。

──終わりなく、希望を無くしたものの象徴。

──もがいても、抗っても、決して抜け出せない。

──光の届かない空間、情報の伝達もできない虚空。


 ああ、結局は、またここに戻るのか。

 思い返せば俺はずっと暗闇に囚われて生きてきた。

 光無く、道も無く、希望無く、意味も無い。


 それがほんのちょっと救われた気がしてたのに。

 これからだったのに。

 美少女になって……光しかない道を歩めるはずだったのに。


 全てが闇に覆われた空間で、ふと、そんなどうしようもない思考に至る。

 全てがゆっくりで、無限に等しい、時など意味を成さない空間で、ふと、そんな懐かしい思考に至る。


(一体なんなんだろう……俺は死んだのだろうか……どうでもいっか……)


 無限の闇。

 何故思考する力が残っているのか、なにもかも理解不能だけどそんな事すらどうでもよくなってきた。

 どれだけの時間がたったのだろう──一瞬のような気もするし、もう何万年もこうしてる気もする。


 周りの皆はどうなったのだろう。

 全員が同じように、この出口の無い暗闇を彷徨(さまよ)っているのだろうか。

 何の情報も得られない──光が少しも無いのだから当然だ。


 唯一いる自分の分身だけが、歪みによって薄ら笑いを浮かべているように見えた。


 あー、失敗した。

 たぶんあれだ、これは間違いなくBADENDルートだ。

 それしか理解できない状況で、おっさんの思考能力も段々と弱まっていく。


 確か某漫画では体が動かない状況で何千年の時が流れても数字を数えたりして精神を保ち、見事に乗り越えたみたいなのがあったけど……おっさんには絶対無理な狂気の所業だ。

 そんな事をする理由もない──状況は全く飲み込めないけど、は間違いなく世界の終わり……ここから復活する希望はどこにもない真の絶望というのはわかる。


 だったら、潔く終焉を迎えるか。

 たぶん、俺が終わりを心の底から願えば……もう終われるような気がする──そんな能力を、俺は有しているのだから。


【終わりにしよう】




 そう、願い──俺の分身は更に歪み、悪魔のような笑みを放った。



【─────────間に合った】



 しかし、暗黒微笑から放たれた言葉は表情に反したそんな台詞だった。


【──やぁ、俺】


 言葉を出せない俺に、目の前の美少女は語りかける。


【いや、マジでギリだった。危ない危ない……あ、話せないんだっけ? じゃあ時間ないから一方的に話すぞ。理解しろよ俺】


 なにその……シリアスな状況にそぐわないそのライトな感じ。

 シリアスとギャグの配分は本当に難しいけど、今の現状でやっちゃいけないと思う。読者がどんなテンションで読んだらいいか理解し辛いから。

 そんな心の突っ込みを意に介さず、美少女は続ける。


【今、お前の世界はブラックホールに呑み込まれた。これはお前がどんな人生を辿ろうと必ずやってくる運命らしい。異世界ファンタジーの住民達によれば……もって数時間らしい。その間に神様によればお前は既にその力を持っている、あとは使い方を思い出すだけだ】



 美少女はわけのわからない事を矢継ぎ早に捲(まく)し立ててきた。

 一体なんの話? ブラックホールだの異世界ファンタジーだの神様だの……いよいよもって死が近づいている証拠だろうか。


【時間ないから俺からは話せない。というか事情は俺も知らない……魔王ちゃん達といちゃいちゃして暮らしてるところに突然神様に『力を貸せ』って脅迫されたからやってるだけ──あとは、わかるな?】


 わかるか。

 なんだこいつ、ガワは美少女なのにおっさんみたいな喋り方しやがって。

 まるで俺みたいだ───いや、これ、もしかして俺……なのか?


【魔王ちゃん達最強メンバーの異世界能力をフル駆動してももこうやって数秒語りかけるのがもう限界らしいから………あとはなんとかしろよ。じゃあな、別世界の俺】


 別世界………?

 あれか、シュ◯ゲとかyu-◯oとかそういうやつ?


 それきり──というか、会話はそこで終了した。

 会話だけじゃない……みるみるうちに闇のあちこちから光が漏れだし、


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〈アシュナ様ーっ!!! ido様ーっ!!!〉

〈ヒナー! ヒメー! ヒマリーっ!!〉

〈レツヤさーんっ! センさーんっ! ユッキィー!!〉


 取り戻された光景は、無数の目映い光を視界に届けた。

 暗幕で閉じられた体育館内──プロミュージシャンのライブかのようにサイリウムを持った観客達が今か今かと演奏を待ち望んで幻想的な光景を創り出してくれている。


「ほら、アシュナちゃん」


 先ほどの混乱はまるで幻だったと言わんばかりに、皆もidoさんも演奏準備を整えていた。


(さっきのは………夢? いや、妙にリアルだった気がする……きっと現実。なら……これはたぶん猶予時間だ)


 美少女中年は言っていた──『運命を回避せよ、そのための鍵を俺は既に持っている』

 必要なのは使だけ。


 たぶんこれが本当の最終局面(ラスト)──これでその方法を取り戻せなければ、世界は真っ暗闇の中。


「───聞いて下さい」


 静かなアルペジオと共に、演奏はスタートする。

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