006.女子高生(おっさん)の文化祭準備

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 11月半ば──暑いのも寒いのも苦手なおっさんが『毎日快適に過ごしたい』と願ったら、俺の地元周辺だけ夏と冬が何処かに消え去ってしまい、春と秋が交互に訪れるようになって『一番住みたい都道府県ランキング』で千葉県が殿堂入りした……そんな世界の秋。


 まぁ、この身体に産まれ変わってから気温の変化も何故か感じないし、病気もしたことないし、なんなら風呂入らなくても汚れないまであるけど。


 俺が本格的にこの世界を奇妙に思い始めてから約2ヶ月……既に数日後に迫っている文化祭に向け、我が別荘では最終調整が行われていた。


「──オッケー、休憩にしようか。凄いよ皆、もう完璧だね」


 指揮を取るは超人気バンドの【アオアクア】──彼らは我がガールズバンドのためにつきっきりで演奏指導を行ってくれていた。それどころか楽曲を書き下ろしてくれたり、果てはサポートとして文化祭に出演してくれるらしい。

 どこの界隈も大騒ぎ──まさか片田舎の変哲もない学校がトレンド入りするなどお天道(てんと)様も予想できなかったであろう。


「う~、緊張するー……テレビとかいっぱいくるんでしょ?」

「大丈夫だよヒメちゃん。ミスってもカバーするから」

「せやで、気楽にやりぃな」

「ヒナちゃんとヒマリちゃんもミスを気にしないで楽しんでやった方がいい。失敗も思い出になるから」

「ありがとうございま~す、ユッキィさんここぞとばかりにいいこと言うじゃないですか~」


 陽キャ三女傑も芸能人であるメンバーとすっかり打ち解けて(秒で仲良ってたけど)和気あいあいな雰囲気で全ては滞(とどこお)りなく進んでいる。


「アシュナちゃん。ちょっといいかな? 話があるんだけど……」

「あ、うん」


 俺もエンタメの業界人になってから、色々あってすっかり親密になったボーカルのidoさんとボイストレーニングを終えると何やら内密な話をしたい面持ちだったので俺達は別の部屋へと移動した。


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「耳鳴りはどう?」

「う~ん……たまに鳴るけど痛みとか不快感とかはないんだよね。なんだろう……誰かが呼び掛けてきてるような不思議な感じっていうか……」

「へぇ……幽霊とかかな?」

「いや……マジにとられても反応に困るんだけど……」


 中身は冴えない中年の戯言にも、idoさんは真面目に耳を傾けながら……時折、冗談を言い合いながらケラケラと笑う。

 いくら前世で憧れた人といえど……おっさん、中身は男なので男性にときめくことはあり得ないがその意志が多少揺らぐほどに完璧な美しさ──マジでこの人……異世界から転生してきたエルフなんじゃなかろうか。


「それでidoさん、話って?」

「実は……テレビ局と校長先生から依頼があって僕達も一曲演奏して欲しいってことになったんだけど……」

「マジですかっ!? めっちゃ贅沢な文化祭になりますね! なに演(や)るんですかっ!?」

「……『虹』を演奏するつもり……なんだけど……」


 アオアクアを代表する一曲でもある、バンド名でもある『虹』。リリースされたのはだいぶ前だけどライブでは必ずフィナーレを飾る切ない愛の唄。


 しかし、idoさんは何か含んだ言い方をする──一体どうしたのだろうか。


「実は……シングルリリースからちょうど20周年の節目に全く別の歌詞にしようって思っててね。曲はそのままに歌詞を全く変えたリバイバル……それをアシュナちゃんに考えてもらって……一緒に歌って欲しいんだ」

「どぅえ?! おっさっ………私がっ!? ていうかまた変えるの!?」

「えっ? また……って?」

「え……? あれ……?」


 idoさんの提案に、再び意志に反した言葉が口をついて出た。

 最近は特にそうだ……夢の記憶と現実が曖昧になっておかしな事を口走ることが多くなってきた……いよいよ精神鑑定でもしてもらった方がいいかもしれない。


 かつて異世界を旅して、歌詞を完成させたなどというありもしない出来事が脳裏を過(よぎ)るなんて……

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