第148話 女子高生(おっさん)とメールと若者言葉


 おっさんが忌避されがちな要因の一つに『若者言葉を無理して使用する』というものがある。しかもそれは一昔前どころか既に死語認定されてからの乱発というのだから……それらで距離を詰められるなんて思われている若者にとっては……なるほど、うざいと思われるのも納得のいく話だ。


 しかし、おっさんの立場から言わせてもらえるならば……トレンドは秒で変わりすぎだし、若い世代と関わりが皆無なので調べようもない。嘘つきしかいないネットでしか情報は得られない。

 しかも若者はそれ以前の問題としておっさんと仲良くなりたくないので敬遠される──それでも若者と繋がりたいおっさんは変な若者言葉を多用して近づいてくる──こうして死の悪循環が完成するわけだ。


 それが如実に、顕著に表れるのが……繋がれるツールとなっているスマホによるL●NE──おっさんのいるこの時代ではメールである。


 今回はそんなメールにて、女子高生型中年に起きた珍事をご紹介しよう──



〈学校 教室〉


「──アシュナってさー、使う言葉がなんか独特だよねー」


 休み時間、突然そんな事を言ったのは『トレンド敏感女子』ことヒナヒナだった。


「そ……そうかな?」

「うん、『陽キャ』とか『エモい』とか……あんま聞いたことないよ」


 それはそうだろう、何故ならそれらは全てこの時代には産まれてもいない言葉だからだ。たまに時代を間違えて口にしてしまうおっさんが悪いのだが……さすがにヒナヒナには気づかれてしまっていた。


「別に悪いから言ってるんじゃないよ? アシュナはそーゆーの発信していく側だと思うし……それに意味はわからないけどなんか私も使いたくなっちゃう語呂の良さがあるからさ。ね、私にも教えて? 二人でどんどん流行らせていこーよ」


 そう迫ってくるヒナヒナは、Yシャツから健康的なライトグリーン色の下着をちらりと覗かせた。

 本来ならば、『変な言葉使ってマジキモい』と言われる側のおっさんであるのに、さすが初音ムクッのモデルともなった美少女(おれ)。インフルエンサーと勘違いされるばかりかライトグリーン下着系可愛い女子にご指導してくれと頼まれるとは……断る理由などあるはずもなく、おっさん達は流行談義に花を咲かせた。


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〈夜 自室〉


 久しぶりにゆっくりとヒナヒナと話せたのもあってか、今日はライトグリーンを見るだけでよく眠れそうではあったが……ヒナヒナとの談話は未だメールでも続いていた。

 おっさんはあまり絵文字を使用しない主義ではあるが(単に面倒だから)、『素っ気ない』とヒナヒナに涙ぐまれた事があったので彼女とのメールではそれなりに使うようにしていた。


『じゃあ~そろそろ寝るね、遅くまで付き合ってくれてありがとう。また明日ねおやすみ~』


 と、ヒナヒナからようやく終わりを切り出してくれたところでふと思い出す。そういえば前世の一昔前に流行った言葉でまだ教えていないのがあった、と。

 言うまでもなくこの時代からだいぶ先に女子高生の間で流行したやつだ。


 俺は教授する意味で、その言葉だけをうって返信する。

 そして、就寝を邪魔されるのは嫌なのでサイレントモードにして携帯を閉じ、眠りについた。


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 ふと、まどろみから眼を覚ますと何か騒がしい。カーテンの隙間から赤色灯の光が点滅するように暗闇の部屋に射し込んでいた。


 救急車だった。そして、何事かと思い玄関に降りると……そこには泣きじゃくるヒナヒナと救急隊員と両親の姿があった。


「えっ……何事っ!?」

「アシュナぁぁ~っ返事が『りょ』だけで途切れてるからなにかあったのかと思ってその後なんかいかけても出ないし倒れちゃったんじゃないかと思ってぇぇ~っぅぇぇぇんっ!!」

「………」


 その後、ヒナヒナと救急隊員と両親に平謝りした。

 やっぱり無理して若者言葉使うのはやめようと思った。

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