第9話 女子高生(おっさん)といる生徒会長


「ちょっと待ちなさい! 1年C組波澄アシュナさん」


 登校時、校門をくぐると呼び止められた。

 お相手はこの高校の生徒会長にして財閥のお嬢様【皇(すめらぎ)めらぎ】だ。

 偏差値も普通で名門でもなんでもないのになにを血迷ったのか入学してきたいいトコのお嬢様。

 生まれついてらしい鮮やかな栗毛色で真っ直ぐなストレートの髪、化粧をしていなくても艶のある卵肌、大きく凛とした眼、長い睫毛、抜群なスタイル。


「いつになったら貴女の振る舞いは治りますの? いい加減、女性としての意識を以てくださいませ」

 

 それでいて実際にお嬢様言葉を使うと言うのだから驚きだ。


 男だった時は接点なぞ一つもないままに話すこともなく卒業していった彼女は、何故か女になった俺にはよく絡んでくる。

 たぶん原因は制服とか諸々だろう。

 男だった故に女子高生の制服はどうも苦手でボタンを外したり、中身おっさんが女の子らしい歩き方をするのが気持ち悪くてがに股になったりしているのを再三注意されていた。


「うわ……またアシュナさん絡まれてるよー可哀想……」

「うるさすぎだよね生徒会長、先公かよ。規律にうるさくしたいんなら名門校にでもいけば良かったのに」

「自分より美人だから僻(ひが)んでるんじゃない?」

「ね、それになんなのあの話し方。漫画の読みすぎかっての」


 通り過ぎる女子生徒達のひそひそ話が耳にはいる。

 生徒会長はどこ吹く風な様子だったが、若干耳が紅くなっていて一瞬哀しげな表情を見せる。


 俺が嘲笑の的にされるのは慣れているから構わないが、喧(やかま)しくても正しくさせようとしている彼女が笑われるのはなんか違う気がして女子生徒に大声で言った。


「庇おうとしてくれてありがとう、でも悪いのは私だから。確かに話し方が変なのは一理あるけどね、それは本人の眼を見て言ってあげて」


 眼を見て話せない自分を棚上げしながら、にこやかに皆に聞こえるように言ったらバツが悪そうな感じでそそくさと女子生徒達は逃げていった。

 肝心の生徒会長は真っ赤になりながら涙目で俺の事を睨んでいた。


 誰も傷つけずに場を治めようとしたのに全てを敵に回すスタイル。相変わらず人との接し方が下手だな、とその時は少し後悔したが……真相は違っていた。

                   〈続く〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る