女子大生

(これは、「女子大生の日」にアメブロに投稿したものです)




掌編小説・『女子大生』~サキュバス魔美異第二章~


         1 魔美異は女子大生


 サッキュバスの魔美異(まみい)は、魔女なのに魔法が使えず、人間を誑(たぶら)かしてエキスを吸い取るという基本能力があるだけで、どちらかというと、下級の魔物扱いされていた。


 ある時に、無神経なひよっこの勇者に、「このザコ敵が~!」と罵倒されて悔しい思いをしたので、一念発起して魔法大学に聴講生として編入して、黒魔法のイロハを勉強することにした。父親の魔羅王があらゆるコネや賄賂やら人脈やらを利用して盛大に手をまわした結果、コギリーザ魔法大学という名門大学に、魔美異は入学できることになった。


 そして!今日はその晴れがましい入学式の日なのだった。


 魔界の血の池色の空にはいつものように暗いピンクの太陽と、奇怪に折れ曲がったいびつな黒い月が上っていて、あざ笑うかのように邪悪な世界を照らしている。

 

 白いリボンを付けた胸をワクワクさせながら、コギリーザ魔法大学のある「蝙蝠(こうもり)の丘」へと続く九十九折りのスロープを登り登りしつつ、羊皮紙の魔術全書を携えた魔美異はほくそ笑んだ。


「うふふ。今日から私は女子大生…いい成績を取って、魔法の手ほどきをしてもらって、秘蹟を授けてもらって、クラスチェンジとかキャリアアップ?とかしてゆくゆくは”大魔女”に…」


…ちょっと「大魔女」までは無理っぽいかもしれないが、兎に角、向学心のあるのはいいことで、仲間や家族も応援していた。


「まああんたでも、勉強すれば火の玉くらいは飛ばせるようになるかもね」

「ほうきに乗れるようになったら後ろに載せてくれよな」

「透明になれる魔法もあるんだろ?魔王の城に忍び込んで宝物を盗んでやれよ」

「シバを召喚できるようになったらおれに会わせてくれよ」

「回復魔法を覚えたら賢者みたいになってかっこいいだろなーガンバレよ」


 それぞれ勝手なことを言っていたが、そういう無責任な励ましでも、いよいよ女子大生になれるといってワクワクしている魔美異の耳には、快く響いた。


「まあ卒業して魔法学士になったらもうあんたたちとは違う階級になってあんまり対等にはお話できないかもしれないけど、ごめんあそばせ」


 そう言ってオホホホ、と軽佻に笑ったりするところが相変わらず魔美異らしかったが…


            2 ユリアナは親友

 

 入学して、白魔導士のユリアナという女の子とまず親しくなった。

 白魔導は殆ど極めたので、黒魔術をたくさん習得して、大賢者の父親の跡を継ぎたいという、エリートっぽい女の子だった。


「ハーイ、こんにちは」

「こんにちは」

「あんたさー女のあたしから見てもすっごく可愛いわね。血筋が違うって感じ。男の子はみんなあんたばっかりチラチラ見てるわよ」

「え?そうですか?気が付きませんでした。何しろ今まではホグワーツ修道院というところにいて、周囲は女性ばっかりだったんで…」

「(おぼこか)へーそれじゃ男の子を知らない?」

「ええ…しょ、処女です。」ユリアナは赤面した。

「(うふふ。面白くなってきた)じゃあね、これからアタシがいろいろ教えてあげるわね。頼りにしてね」ニコッと魔美異が微笑むと、ユリアナも嬉しそうに、頼もしそうに微笑み返すのだった…


 先に述べたように、魔美異の通う大学は、コギリーザ魔法大学といって、1500年の歴史を誇る名門大学だった。薔薇十字のエンブレムが校章で、漆黒の法衣、という絹や純金、銀の繊維を編み込んだ高級なローブが制服になっていた。

 この制服は無料で配布されて、この制服を着たいがために入学を目指す生徒も多かったのだ。

 学費は高かったが教師も教材も極めつけのエリート、超高級品で、財産家の子弟で、毛並みのいい生徒ばかりが大多数を占めていることでも有名だったのだ。多分友達なんかはできにくいだろうなーと、悲観していた魔美異は、さっそくに超かわいくて優秀なユリアナと、親密になれて有頂天だった…


「それでね、ユリアナはもう私に白魔法をひとつ教えてくれたのよ。“ホログラム”っていってね、小さくて綺麗な幻影の天使を呼び出して、その天使にキラキラキラ~って祝福をもらうわけ。そうするとすごく運がよくなって、ラッキーなこととか次々起きるのよ!戦いのときだと強い相手から逃げ出したりするのに便利で…」


 夕食の席でもぺらぺらとずっとユリアナのことを喋っているので、父親のグレーターインキュバスの「魔羅王」は、血のように赤いワインを呑みながら子羊の丸焼きを食べていたが、「そのユリアナって娘をいっぺんうちに連れてくればどうだい?歓待してあげるけどね。お前がそんなに誰かに夢中になっているのを見たのはパパも初めてだよ」 と、興味深そうに尋ねた。

「いいの!? ユリアナきっと喜ぶわ! パパ大好き~」と、魔美異は目を輝かせて、魔羅王に抱き着いてキスをした。



           3 百合の夜


 …三日後にユリアナが、ペットの“キューティー”というフェアリーを連れて魔羅王家を訪ねてきた。


 純白のワンピースと、ケープ、ブーツを纏っているユリアナは、玄関先で軽く会釈をして、皆に挨拶をした。


「初めまして。ユリアナです。あっ、この妖精の子?この子はねえ…私というマドンナの光背ね。うふふ。よろしく」


 その言葉通りに、キューティーはプリズムみたいに様々に光り輝いて、ユリアナの周りを変幻自在、という感じに飛び回り、ユリアナの高貴な美貌をさらに引き立てるのだった。


「すごーい。こんな妖精さん、初めて見たわ。それはそうと…いらっしゃい、ユリアナ!くつろいでね。テイクイットイージー💓」

「ありがとう、魔美異」


 親友二人は抱擁しあって、学校で覚えたばかりの二人魔法、“ドッキング”を唱えて、互いの親密度を高めて遊んだりした。


 魔美異たち一家は総出でユリアナを歓迎して、夜遅くまで皆で様々に歓談をして、ワインで少し酩酊した魔美異たちは、覚えたての色々な魔法を披露して、座を盛り上げたりした。


 やっと宴果てて、魔美異とユリアナがベッドに落ち着いたのは夜中の2時過ぎだった。


「楽しかったね」

「ええ。わたし一人っ子でしょ。家が厳しかったし、去年までは修道院にいたから、あんまり家庭ってものを知らない感じなの。温かい家庭ってこんなにいいものなのね。」


…何となく二人は黙って、しばらく眠れないままに天井を見つめていた。


 キューティーは相変わらず軽やかに飛び回って繊細な虹色の光彩を振りまいている。透明の翅も、カゲロウのそれのように儚げで、綺麗だった。


「ねえ、ユリアナ…」

「なあに?」

「レズビアンって知ってる?」


 ユリアナはドキッとして、魔美異の方を見た。

 魔美異は妖しく微笑みながらユリアナの碧色の瞳をのぞき込んでいる…


 「修道院でもレズの…百合の戯れ、とかはあるんでしょ? 刑務所の独房じゃないんだものね、ウフッ。恋愛関係の綺麗なお姉さま、とかいたんでしょ?」


魔美異はいたずらっぽい口調で、しかしハスキーな低い声で尋ねた。


「そ、それは…はっきり言うとたくさんあったわ。ラブレターもたくさんもらったし…むしろ花盛りって感じだったの。白魔法に必要なのは愛なのよ。だから私が白魔法の極意、心を教えてあげるから…なんていう先輩もいたし…」

「花盛り?結構すごいところねえ。じゃあもういろんなレズのテクニックとかすっかり熟知しているってわけ?あんたも?」


 魔美異はちょっと驚いて尋ねた。 するとユリアナは何か思い出し笑いをしていたが、「そうよ。キスだってなかなかのものよ。試してみる?」と、真剣な口調でささやいて、少し目の縁を赤くして、じっと魔美異をみつめた。


「うん。お願い。」魔美異は仰向けになって胸で手を組んで、目を閉じた。


 ユリアナはそっと魔美異の小悪魔っぽい顔に覆いかぶさっていって、花のような唇を重ねると、舌で唇をくすぐるように舐めた。


「MMM…」と魔美異はため息を漏らした。

ユリアナは舌を差し入れていって、歯茎を丁寧に舐めてから、舌同士を絡め合った。(美味しい唾だわ。それに甘い香り)と、魔美異はぼんやり思ったが、敏感な粘膜のこすれ合う快感はあまりにすばらしくて、だんだん酔わされたように身体の力が抜けていくのだった。


 二人はもう無我夢中で、いつしかパジャマを押し上げて、乳首もまさぐりあっていた。二つの息遣いが妖しく重なって、絡まり合い、経験豊富な美貌の悪魔も、たじたじになるほどの、文字通り“舌を巻く”ようなユリアナのキスのテクニックに魔美異はもう全身を燃えあげさせられていた…


… …


         4 卒業式…そして   


 大学でも、さまざまに面白いことがあった。


 或る日、敵を魅了する、「チャーム」という魔法を習得するために、魔美異たちはイモリの黒焼きとか、マンドラゴラだの、満月の夜の墓場に跳梁するグールの血液だのを、錬金術に使う大釜で煮ていたが、うっかり大釜に、銀とプラチナと瑠璃で作った魔美異のピアスを落としてしまった。と、大釜はごぼごぼと湧き立って、

敵の能力や魔法や特殊な技などを全て自分のものにして、さらにその敵を召喚獣にできるという「エンタイアリー」という究極魔法を習得できるエキスができてしまった!


 教官もびっくりしていたが、こういうことは錬金術ではよくあることだそうで、

その場に居合わせた幸運な生徒たちは、全員このかなりマニアックな魔法を習得したのだ。


… …


 そうして楽しい学生生活は3年間続き、魔美異たちも卒業の運びとなった。

 魔美異もユリアナも勤勉に学業に励んだので、実力派の冒険者パーティで、黒魔法を使ってザコ敵を一掃するというようなメイジパートを担当できるくらいの黒魔術使いになれた。


 ユリアナは、大学院に進んでさらに黒魔法を究めるという志望を持っているらしかったが、魔美異は「魔法もあなどれない実力派のサッキュバス」になれただけで

満足していたので、これで大学とはおさらばすることになった。


「卒業証書 魔美異どの。

貴殿はコギリーザ魔法大学の黒魔術教習課程をすべて修了しました。その努力と能力を称え、貴殿には「ウォーロック」という称号を賦与することを認めます。今後も精進努力を重ねてください」


 そういう立派な卒業証書を授与されて、“ウォーロック”魔美異も嬉しかった。


 だが、憂鬱でもあった。


 卒業のために必要な単位を集めるために、15人の男性教官と寝たが、先月から生理が止まっているのである。


 堕胎するのは嫌なので産むつもりだが、生まれた子の名前は「非認知」にするつもりである。


<終>


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