皆勤賞

ささたけ はじめ

たかが連続出席じゃないか

 皆勤賞が嫌いだ。


 年度末の終業式。体育館の壇上で僕は、呪いのように脳内をずっと巡るその思いに囚われていた。

 勘違いしないでほしいのだが、これは僕の個人的な主義主張の問題であり、けっして皆勤賞を受賞した人をけなしているわけではない。皆勤賞というシステムそのものが嫌いなだけである。


 皆勤賞が嫌いだ。


 あんなものは、休まずに連続で出席しただけのことであり、健康の証明以外の何物でもない。まして風邪を押してまで出席した人間を称賛するのは、本末転倒だと思う。社会はもっと、体調不良の時はきちんと休むよう教育するべきだろう。

 あえて言うならば、皆勤賞は「すごい」のであって、別に「えらい」わけではない。だから、わざわざ表彰する必要なんて、これっぽっちもないと思うのだ。


 皆勤賞が嫌いだ。


 毎年一年間、休まなかったというだけで壇上に上げられ、さらし者にされる。目立たず静かに学校生活を送ることを望む僕には、地獄のような苦行イベントでしかない。

 そのうえ、欲しくもない賞状かみきれまで押し付けられる。せめて図書カードでもくれればいいものを――こんなもの、ネットで売ろうったって売れやしないのに。


 皆勤賞が嫌いだ。


 恩着せがましく与えてくる学校側に対して、わざわざ一礼と謝辞まで強要されるのも嫌だ。そこで今年は辞退を申し出てみたが、あっさり断られた。国が授ける国民栄誉賞ですら辞退出来るというのに、どうして地方の高校の皆勤賞ごときを辞退できないのだ。僕はこんなにも嫌がっているというのに。

 とかく学校という場所は、生徒側になんら決定権がない場所だ。だから、学校も嫌いだ。


 皆勤賞が嫌いだ。


 これを口にすると、友人からは「だったらずる休みでもすれば?」と言われる。うちの親も「行きたくない時は行かなくていい」と言ってくれるし、僕も不健康を装うことに罪悪感があるわけでもない。さっきも言った通り、学校という場所は嫌いだし。

 それでも、僕は毎日登校した。


 ああ――。


 皆勤賞が嫌いだ。

 皆勤賞が嫌いだ。

 皆勤賞が嫌いだ。


 そして、今年も皆勤賞をもらってしまった。

 壇上で隣に立つ、彼女に会うために。


 皆勤賞は嫌いだ。

 でも、彼女は好きだ。大好きだ。

 だから僕は登校する。

 来年も彼女に会うために、僕は休まず学校へ来ようと思う。




 また壇上ここで、会えるといいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る