第3話



 3人が喫茶店『天安あまやす』に入ってから1時間が経った。


 そのかんバーの前で立ち止まった者はいなかった(店の常連で八百屋 よろずを営む店長の男が、通りがけにチラリと見たぐらい)。


 そのうちに空の機嫌が悪くなり、小雨が降り出してきた。


 ウズメがいい加減、座り疲れて背伸びをした。


「もーいつになったら、ここを出られのぉ?」


「ママ、面倒くさいから鍵ぶっ壊す業者呼んじゃおうよ。修理代高いけど、ウズメの給与から引いときゃいいんだから」


「なんで私なの! そんなこと言うと、扉開けるたびに通行税払わせるからねー!」


 またしてもウズメとトキの喧嘩の火種が燃え上がりそうになった時だった。


 ドン! ドン! ドン!


 突然、喫茶店の中にガラスを叩く激しい振動が響いた。


「きゃ!!」


 3人とも驚いて椅子から飛び上がった。外を見ると、窓からの眺めを覆い隠す筋肉質な大男が立っていた。


 ゲイバーに務める黒服のひとり、スサオだ。荒い鼻息のせいで窓ガラスが曇ってくる。


「スサオちゃん!」


「なんか目が血走ってないか?」


「そんな所で突っ立ってないで、こっちこっち!」


 皆の手招きでスサオがずかずかと店に入ってきた。開口一番、スサオはママの椅子の背をガツンと叩いた。


「テラがいなくなった! どこに隠した!」


 スサオは口から炎が出そうなぐらい、息荒く興奮していた。


「はあ? こいつ何いってんだ?」


「落ち着いてよぉ、スサオちゃん。何があったの?」


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