09話.[ボール借りるね]
「久田君は駄目だっ、裏切り者だっ」
これはまた唐突だった。
彼女は来るなり僕の家に置いてあるボールを持って出ていく。
こうなったら追うしかなくなるので追うと、今日も「てりゃー!」と壁やボールに八つ当たりをしているところだった。
「えっと、駄目だってなんで?」
「……可愛い後輩の女の子といたから」
「誤解なんじゃない?」
わざわざ仲良くしたいと言ってきた久田君が同時進行なんてしないと思うが。
まあ、全く知らないからあれすらも偽物という可能性もあるか。
出会ってからはほとんど毎日一緒に過ごしていた彼女の方が知っているわけだし、黙っていた方がいいのかもしれない。
「しかも名前で呼んでいたんだよっ? 私なんてまだ名字呼びなのにっ」
「昔から一緒にいる仲だったら恋仲じゃなくても名前で呼ぶよ、僕らだって一切そういうことはなかったのに名前呼びなんだからさ」
僕には名前で呼べと求められたんだから久田君にもそうすればいい。
相手がはっきりしてくれないと動きにくい人だっているんだ。
慎重にやっているのは彼女と深く仲良くなりたいからに決まっている。
それで物足りないということなら待つだけではなくこれまでみたいにアピールした方がいい。
「なんにもないからこそだよ、純と話すのとはまた違うんだから」
頑張ってとかそういうことは言わないと縛っているから黙っているしかない。
これまでの失敗が役に立つどころか足を引っ張っているということなら大変な子だなとしか言えない。
でも、そういう難しさがあるからこそ上手くいったときは最高の気分が味わえるだろうし、結局のところ他人の意見ではなく自分がどう行動するかなんだよね。
「ボール借りるね」
なんにも言えないからかわりに発散には付き合おう。
比べてどうこう言われてもそれですっきりするなら構わない。
もう帰るということにしても文句を言わずに送るつもりでいる。
なんでもかんでも話せばいいというわけではないから。
「ごめん! また同じ失敗をしちゃった……」
「あ、それ? 答えが出たとかではなくて?」
「……なんか叫んでたらあれに関してはすっきりしちゃった、そのかわりに純に対して申し訳ない気持ちが大きくなっちゃって……」
「別に普通のことを言っただけだからね」
意識している相手とそうじゃない相手とでは差が出て当然だ。
冗談だって言いづらいだろうからそこも違う点だと言える。
「はぁ、純は優しいね……」
「柚月もそうだし、遊、音羽ちゃん、拓君の三人だって同じ対応をするよ」
全く気になっていないから気にしないでと言っておいた。
が、残念ながらいい顔になってくれることはやはりなかった。
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