殺しのライセンスを持つ女
tk(たけ)
第1話
(1)
その日、私は瀬戸内海のとある島でバカンスを楽しんでいた。
綺麗な景色とともに、デジタルデトックスを出来るのが、ここの売りで、外部とは一切繋がらない。
海の見える浜辺から専用コテージに戻ると、一通のメッセージカードが届いていた。
誰にもここの場所は伝えていないのに、もう見つかったか…
『姪っ子に子供が産まれた』
カードには、そう書かれていた。
私は服を着ると、フロントのある建物へ向かった。
そして電話を一本かけると、留守電にメッセージを残し、コンシェルジュに東京への移動を手配して貰った。
ふう… あと一晩だけか、残りの時間を楽しもう。
部屋に戻り、相応しい装いにドレスアップすると、ディナーを楽しみに向かった。
その後、バーに立ち寄り、お気に入りのカクテルを楽しむと、同じように一人でたたずんでいた女性に、声をかけた。
彼女の大きく開いた背中から見える肌は、綺麗に手入れをされていて、早く触れてみたかったが、まずは微笑みをたたえて話しかけ、どれだけリラックスしているかを確かめた。
その美女の部屋で、ひと通りのテクニックを駆使して、彼女のバカンスに素敵な思い出を残すと、夜明け前に自分の部屋に戻り、身支度を済ませて、迎えのボートに乗った。
そういえば、彼女の名前を聞かなかったな。
なかなかいい身体だった。連絡先を聞かなかったのは勿体無かったかもしれない……
バカンスでの思わぬ収穫を思い返していると、ボートが目的地に着いた。
そこから新幹線に乗り、後は終点まで眠って過ごした。
ホームに下りると、昔の顔馴染みが迎えに来ていた。彼が最近何をしているのか覚えていないが、ひとまず彼の車に乗った。
車が地下駐車場から外へ出ると、彼が車を左に寄せて止まった。
即座に私の頭に警戒アラームが鳴り響いた。
シートベルトを外し、彼の視線の先を追うと、外から男達が扉を開けて、乗り込もうとしていた。
左右の扉が開こうとしたいるが、先に開いたほうの男に、不意打ちのパンチを食らわすと、その男が崩れ落ちた隙に、外へ逃れた。
「今度の仕事を受けたら死ぬぞ!!」
昔馴染みの捨て台詞を聞きながら、私は人混みに紛れて逃げた。
そして、一旦カフェによると、職場と連絡を取った。
『情報が漏れている 待ち伏せを受けた 連絡を待つ』
数分を待たずして、返信が届いた。
『正面より来たれ』
仕方なく歩道を歩き、大きく開放的なエントランスを入る。そして、一般人で賑わうショッピング街の横にある、関係者限りのゲートを通ると、エレベーターで上層階へ昇った。
目的地の受付フロアへ入ると、一般企業と同じように待ち合いスペースがあり、呼び出し用の電話機が置いてある。
私が待ち合いのソファーへ腰掛けると、奥の部屋から部長が迎えに出て来た。
「どうやら君の動向を、注視している奴らがいるようだ」
「そうみたいですね。情報が漏洩しているのでは無いですか」
「なぜ、そう思うんだね」
私はさっき聞いた捨て台詞を伝えた。
「うーん、まあ、君が担当することは予想可能だし、確証を持って言ったとは、限らんさ」
「我々の行動を邪魔したい奴がいるんですね」
「オペレーションルームに行こう」
一般企業然とした受付から、部長のパスを使い扉を一つ入ると、次の扉は虹彩と声紋で、認証する扉だった。
その扉は次にある扉と連動していて、一人ずつしか通れないように、制御されていた。
そのような厳重なセキュリティを通り、作戦室に入ると、中は静まり返っていた。
どうやら現在進行中の作戦は無さそうだ。
ただ、多数設置されたモニターの一つが、どこかの島を映し出していた。
私はサーバーからコーヒーを一杯注ぐと、部長の隣の椅子に座った。
「休暇中の私を捕まえてまで、担当させる作戦があるようには、見えませんね」
「まあ、子供が産まれたと書いたとおり、重要で、なおかつ、姪っ子と書いたくらい、つまり中程度の緊急性だということだ。だから、むしろ相手の反応の早さに、驚いているぐらいだ」
「いったい何が起こったんですか」
部長、つまり情報部の部長は、情報部員である私に、状況の説明を始めた。
その話の要点をまとめるとこうなる。
国防に、大きく寄与する研究を進めていた、教授が誘拐された。所在は突き止めたので、奪還、もしくは危険を排除する。
その任務を私が担う。
支援は技術部の開発した秘密装備のみである。
「危険を排除ですか… 」
「そうだな。その人の頭に入っている情報は、漏洩すると、同盟国まで巻き込む危機になる」
つまり、奪還出来ない場合、頭に入っている情報を取り出せなくしろ、という事だ。
私は合法的に殺しのライセンス(許可証)を持つ、数少ない情報部員だった。
「いつ出発しますか」
「愚問だな。支度が整い次第、速やかにだ」
部長は秘書を呼び出すと、開発課の課長を呼ぶように伝えた。
開発課では様々な物を製作している。その中でもサバイバルツールを専門に担当しているのが、課長だ。
「失礼します」
オペレーションルームに課長が入って来た。
「おっ、久しぶりだな」
「そうですね」
「まだいるとはな」
「おかげさまで」
「今度のやつは凄いぞ」
「毎回、そう聞いています」
「そう嫌味を言うな」
「そうですね、まだ生きてますからね」
課長はやれやれという表情になりながらも、説明してくれた。
「まず最重視したのが携行性だ」
「なるほど、大切ですね」
「これ、パールネックレス。一粒三分の酸素カプセルだ」
「千切ったら飛び散ってしまうのでは?」
「カプセルがワイヤーから千切れる。それを口にふくむと一粒三分だ」
「すごそうですね」
「次はこれだ。イヤリング。ネジを押し込むと五秒後に爆発する」
「威力は?」
「全方向に手榴弾程度だ。例えば瓶に入れて爆発させれば殺傷力は上がる」
「なるほど」
「残りは二つ。まずこれはブレスレット。実は真っ直ぐに伸びてナイフになる。切れ味よく、折れにくい素材で作ってある」
「実用的ですね。元に戻りますか?」
「残念ながら、ナイフからブレスレットには戻らない」
「そうですよね」
「さあ、これが最後だ。アンクレット。ライトと位置情報の発信装置だ」
「ライトですか?」
「通常のLED懐中電灯としても使用出来るが、ボタン操作で閃光弾と同様に、強烈な光を浴びせて、突発的な目の眩みを起こさせる。さらに十回は使える」
「凄いですね、銃の代わりですね」
「まあ相手との距離は十メートルが限界だがね」
「課長、説明ありがとう。ここからは計画の説明に入る」
「分かりました。では失礼します」
知る必要の無いことは、お互いのために知らないほうがいい。知らないことは喋れないから。皆が分かっていることだった。
部長と私は、潜入計画から脱出計画まで話をした。それが終わると支度をし、潜入するための偽装を作ってもらった。
数日後、私は招待客として、正面の入口から正々堂々と、潜入に成功した。
作って貰った偽装(隠れ蓑)には、奴らの研究開発に強く興味があり、支援云々と申し出る内容で面会を申し込んでおり、それに基づく招待であった。
案内された応接室でしばらく待つと、小柄な男性が入って来た。そしてその後ろに女性が一人。
ちょうど椅子から立ち上がり、男性のほうへ歩み寄っている時に、女性が目に入った。
まさかここで再会するとは思わず、意表をつかれたその一瞬、足が止まりかけた。
何とか止めずには済んだが、ここの主には何かを気付かれたようだ。
私は挨拶をすると、この素晴らしい島の事を褒め、ぜひ協力したいという熱意を伝えた。
小柄な男性は具体的な支援額などと、見返りを聞いてきた。
金額は相場と思われる額を伝え、商品化した際に売上の五パーセントを毎年欲しいことを伝えた。
すると、支援額は不十分で、見返りは三パーセントだろうと口にし、それは研究の本当の価値を知らないからだと言った。
「ぜひ、研究を見学させていただけませんか」
「申し訳ないが、見て分かるものではない。重要で価値があるのは人材だ」
「人材ですか、一応、資料は拝見してきましたが…」
「載せていないが、世界的な権威が、数名加わっている」
「最先端の何かを狙っているという事ですか?」
「もちろんだ。君の会社だって、何かを嗅ぎつけて来たんだろう」
「そうですね、新しいエネルギーを研究中と聞いてきました。そのエネルギーを活用出来る範囲は広く、特に制御する事が難しかったのを、こちらでは急速に進展させたそうですね」
「まあ、そんなところだな。代替出来る物は多く、これを利用すれば大きく優位に立てる」
「すでにスポンサーも多数いるんですよね」
「欲しい所は多数あるからな。投資してくれるさ」
「成果の一部を拝見出来ませんか」
「なるほど、粘るな。では明後日実施する、実験に立ち会わせてやろう。その代わり支援額は、それまでに確定させておけよ」
「分かりました。結果次第で速やかに契約いたします」
「では、それまではこの島を満喫したまえ」
そう言うとこの島の主は部屋を出て行った。
私は研究員の一人だと言う彼女に従い、別室へ案内された。
そこでパソコンと通信環境を借りて、状況報告と契約書のファイルを送信した。
「ではお部屋にご案内します。残念ながらここでは一切のプライバシーはありません。絶えず監視し記録していることをご承知おき下さい」
「シャワーやトイレもですか」
「それぞれに相応しい角度に調整されていますが、音声など、記録します」
「なるほど、ずいぶん厳しい」
「今は実験前なので余計に厳重です」
部屋に通してもらい、少し話をしようと思い、顔を見たが、笑顔でごゆっくりどうぞと言い、出て行ってしまった。
あの娘は間違いなく、リゾートの島で一夜を伴にした娘だと思うのだが、どうもよそよそしかった。
部屋は広く、申し分ないのだが、食事まで部屋でとることには、閉口した。
(2)
翌朝、一日中、缶詰め状態は望まないので、ウォーキングなどをさせて欲しいと要望した。
するとトレーニング室の利用を許可され、案内された。
何かしら情報を得たいと思ったが、この部屋も窓から見える景色は、海だけで、施設の形や部屋の配置などは、分からなかった。
シャワーを浴び、部屋へ戻ると、音楽をかけながら窓の外を観察した。
その時、不自然な事に気付き、音楽を消し、再度、窓を見た。
それからしばらくして確信した。
窓からは穏やかに凪いだ海が見えるが、今、かすかに雷鳴が聞こえた。
さっきも聞こえた。つまりこの窓の景色は偽物だ。そうなると、この部屋が地上にあるかも分からない。
現状を打破するには、やはり彼女を頼るしかなさそうだ。
午後になるともう一度、トレーニング室の利用を求め、彼女も誘って欲しいと依頼した。
この誘いをどう思ったのかは分からないが、今度の迎えは彼女が来た。
「お客様のお相手をするのも仕事のひとつです」
そう言った彼女と、トレーニングで汗を流すと、シャワー室へ行った。
そして湯気が立ち込めた頃合いを見計らい、彼女の個室のカーテンを開けると、声を上げそうになる彼女に、唇を重ねて塞ぎ、抱き寄せた。
彼女の身体は、私を抱き締めると、さらに密着させて、すでに期待に[[rb:蕩 > とろ]]けていることを示した。
その期待に精一杯応えると、懸命に息を落ち着かせようとしている彼女に、ささやきかけた。
「この島と建物の見取り図が欲しい。明日の朝、またシャワー室で受け取りたい」
そう言って私は、自分の秘部から小さな円筒形のカプセルを取り出すと、彼女の秘部へ挿れた。
「これでお願い」
「あなた何者?」
「名乗ったとおりよ。信用情報の一つとして必要なの」
私は彼女の個室から自分の個室に戻ると、シャワーを止め、体を拭いた。
その後、夕飯を終え、部屋でくつろいでいると、この島の主である小柄な男が訪ねてきた。
「昼間、シャワー室で何をしていたのですかな」
単刀直入にその質問をしてきたので、少し驚いたが、予め考えていた言葉を返した。
「女性同士なので、コリに効くマッサージを教えていました」
「なるほど、その相手がこれからどうなるのか、ご覧いただこう」
彼の部下がモニターを操作すると、下着姿で椅子に縛り付けられた彼女が映った。
音声は出ないが、大画面に映る彼女の顔は、恐怖で引きつっている。
カメラが横に動くと、電動ドリルを手に持った男の姿が映った。
「なぜか彼女が図面に興味を持ってね。印刷する所を取り押さえた。理由を聞いても話さないから、少しずつ聞いてみようという事なんだが、何か知らないか」
「いえ、あいにく知りません」
そう応えながらも、目は、画面に釘付けだった。
「そうか、何か思い出したら連絡をくれ。私は彼女に話を聞きに行ってくる」
部下の男が、音も聞こえるようにした。
そこからは彼女が必死に訴える声と、電動ドリルを回転させる音が、時折、聞こえる。
主が部屋を出て、部下も出ようとした時、私は部下に飛びかかり、顎と頭を掴むとひねった。
首の骨が折れた男が崩れ落ちた後、ブレスレット型ナイフを持ち、島の主を押さえつけた。
「彼女の所へ連れて行きなさい」
黙って歩く主の首筋にナイフを当てながら、彼女が拘束されている部屋へ入った。
部屋には男三人と彼女がいた。
主を促して、彼女の拘束を解かせると、服と靴を身に着けさせた。
「悪いけど、一緒に行くよ」
男たちを彼女に縛らせると、お目当ての博士の居場所を聞いた。
「なんだ、目的は女博士を連れ去ることか。しかし、あの女は自分の意志で来たからな。ここに居たがるかもしれないぞ」
実験棟のような施設まで歩くと、パイプがたくさんつながれた、複雑な装置の横に、研究室が並んでいた。そのいくつかはまだ明かりが点いていて、その一室に目当ての人物がいた。
「博士、お迎えに来ました」
博士は島の主の顔を見た。
「孫が解放されていないなら、どこにも行かないよ」
博士が強要されているとは知らなかった。
「どこにいる?」
私は島の主に聞いた。
「餅は餅屋でね。任せているから知らないな」
「体に聞かれたいのか」
「日に一度、向こうから連絡がくる。そこで継続を伝えてきた。顔も名前も知らないが、拉致から全てお任せだ」
「いつ来る?」
「昼ごろだな」
「嘘よ! 夜よ! これからよ!」
彼女が教えてくれた。
「なるほど、どこにかかってくる?」
島の主は口を閉じたまま、返事をしない。
「スマホなら上着の内ポケットよ」
触ると硬い感触があり、取り出すと確かにスマホだった。
「電話がきたら、解放するよう伝えろ。殺さずに生きたままだぞ」
「それが確認出来たら、お前も生きたまま、解放してやる」
それからはお互いに押し黙ったまま、時間だけが過ぎていった。
その緊迫した空気を、さらに凍らせるかのように、スマホが鳴った。
「はい… そうだ、私だ」
相手が何か話している。
「もう役割を終えた。生かしたままで解放して欲しい」
「… なに! 無理だと! 身代金!」
私は彼からスマホを奪い、耳にあてた。
「いくら払えばいい?」
「お前は誰だ?」
「ビジネスパートナーだ、いくらだ」
「10万ドルを指定口座へ振り込め」
「返して貰える保証は?」
「俺たちはどっちでもいいぞ。5万ドルなら売れるだろうからな」
「口座を教えてくれ」
復唱し、書き取ってもらった。
「明日には売るぞ。囲っていても無駄だからな」
そう言うと通話が切れた。
私は自分のスマホでメモを写すと、すぐにメッセージを送った。
すると、10分ほどで送金完了の連絡が届いた。
間髪おかずに、島の主のスマホが鳴った。
「これから駅前で開放する」
スマホが切れるや否や、メッセージを送り、未成年者保護の情報を、監視するよう依頼した。
「さあ、脱出しますよ」
このまま、島の主を人質に、来た時と同様、正面から船で出て行こうと計画した。ところが、実験棟から通路を通り、外へ出た途端、敵に取り囲まれてしまった。
即座に島の主を盾にし、その背後に隠れた。
幸いな事に外へ踏み出しているのは、私と主の二人だけだ。
「おい! これが見えないのか! 銃を下ろせ」
すると返事の代わりに、一人が前に出て来ると、その機関銃から、閃光と共に弾丸が飛び出し、島の主は、穴だらけにされてしまった。
私は慌てて、その無残な姿の主を引きずりながら、通路の奥へと下がった。
「こいつはなぜ殺されたんだ」
「その人は影武者で、立場は広報担当でした」
「じゃあ、外にリーダーが居るのか?」
「いえ、この島にはいません。事務棟に上位の者が居ますが、海外からの指揮に従っているだけです。外にいるチームは警備隊だと思います」
「すまないが博士と後ろで隠れていてくれ」
それからスマホをつなぐと、救援要請をした。
敵は通路の隅で体を小さくしながら、一人ずつ、そして少しずつ、間合いを詰めていている。
イヤリングを外すと、一つを強く握り、三まで数えてから放り投げた。
ボゥーン!
敵の数名後ろで爆発した。衝撃と音で見当を失っている。
すぐに近付くと、銃を奪い、片っ端から無力化していった。
これで約六名が通路でうめき声を上げることになった。
残りは入口の扉の左右に別れて、隠れている。
拾った銃のひとつを彼女に渡すと、敵との距離を詰め始めた。
そして、十分に距離を詰め、頭を出して来た敵はいつでも撃てるほどの位置を確保した時だった。
「いいわね、素晴らしかったわ。銃を置いて立ち上がりなさい」
後ろから彼女の声が通路を響いた。
振り返ると私に銃口を向けた彼女がいて、醜く顔を歪ませて、笑っていた。
私は銃を床に置くと、アンクレットをそっと外し、立ち上がった。
今、私は通路の両側から、敵に挟まれている。
でも、まだ完全に彼女が敵だとは信じきれなかった。
「殺さずに生け捕りにするのよ!」
アンクレットの強力な閃光が出るのは、180度程度。
敵をひと塊にする必要がある。しかし、その前に取り囲まれて、捕まってしまうだろう。
どうせいつも危ない橋を渡るんだ…
アンクレットを強く握ると入口側の警備隊に向けた。
すぐに強烈な光が発せられ、全員が顔をそらし、腕で目を覆った。
それでも光の方が先に届き、目が眩み、一時的に見えなくなっている。
私はしゃがむと床の銃を拾おうとした。
その時、銃を何回も発砲する音が響き、思わず床に伏せた。
音が鳴り止み、顔を上げると、敵が全員倒れている。
「博士、行きましょう」
見ると彼女が博士を連れ出すところで、戦闘に備えて私が身構えると、彼女は笑った。
「味方よ。私も連れ出して」
正直、彼女がどちらなのか分からないが、今は脱出したい。
三人で正面から桟橋に行くと、ボートに乗り込み脱出した。
そして最寄りのセーフティハウスへ立ち寄り、警護の対象になり、安全な連絡手段を確保すると、オペレーションルームの部長へ報告を始めた。
「まず、君に、こちらから伝えたい事がある。博士のお孫さんは無事に保護された」
「そうですか、良かった」
「任務は完遂したようだな」
「はい、博士は怪我もなく無事です。ただ、女を一人、連れ出してしまいました。正体不明ですが、脱出を助けてくれました」
「尋問は各担当に任せてくれ」
「はい、彼女の尋問は立ち会わせてください」
「分かった」
「ところで島はどうですか? 開発が止まったのでしょうか」
「大きく停滞するだろうが、しばらくは続くだろう」
「分かりました」
「そこでの立ち会いが終わったら、またバカンスを取っていいぞ。しかし、探すのが面倒だ。居場所は知らせて欲しいな」
「分かりました。ありがとうございます」
三日後、東北地方の山中にある隠れ宿に、私と彼女の姿があった。
そこには素敵な離れや温泉とともに、青く透き通った湖があり、私達はパールを一粒ずつ口にふくむと、深く潜り、互いの体を思う存分に愛し合った。
(Fin.)
殺しのライセンスを持つ女 tk(たけ) @tk_takeharu
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