第11話 大舞踏会。

 ――――王宮の大広間。


 一年に二度ある王城で開催される大舞踏会。

 王宮の中にある一際豪華な大広間で催される夜会は、王家主催とあって階級関係無しに全貴族が参加を推奨されている。

 強制ではないが、参加していないと翌年に肩身が狭くなってしまうので、何を置いても優先的に参加しているそうだ。

 王族が主催者だし、王命ではなくても王命のように感じているのだろう。


 頭上で煌々と照らされる巨大シャンデリアが五つ、ホールの天上を縦に並んでいる。


 壁にも等間隔で照明が並ぶ。

 大広間内はまるで昼のように明るい。

 壁に並ぶ照明は、大きさこそ小型ではあるが水晶をカットし光の透過度を上げている為、光量があって明るい。

 壁の花になりたくとも、隠れていられない明るさである。



 今夜の大舞踏会も婚約者である王太子にエスコートされて入場した。

 ファーストダンスを踊り、その後は別行動だ。


 婚約者以外の女性と楽しく時間を過ごす喜びを覚えた王太子は、今夜も大勢の令嬢達と次々と踊っている。


(楽しそうで何より)


 シオンが入場したのは分かっているのだけれど、姿が見えない。

 今日の夜会では一度くらいは踊ろうと話してたのに。


 今日のフィーリアの装いはホルターネックでマーメイドラインの白いドレスだ。

 金の糸で左胸に胸元を覆うような大きなバラが刺繍してある。

 ウエストラインには蔦が波状に巻き付くような刺繍がしてあり、長い裾にもミニバラと蔦が細かく刺繍が入れてあった。

 それぞれが金糸であり通常の糸よりも艶があり光を反射し輝く。

 剥き出しの背中は大胆だが、肌が完全に見えないように薄い金のシースルーの布が貼り付けてあった。

 腕は肘までの金色のグローブで、露出を抑えてある。


 ホルターネックのドレスはネックレスを身に着けない。

 その代わりに腕に大きなダイヤモンドが埋め込まれたバングル型の腕輪を付けており、フィーリアが腕を動かす度にシャンデリアの光を受けて銀色の炎のように煌めき大層人目をひいた。

 富の象徴のような大きさのダイヤモンドは、フィーリアが尊重されていると示しているようである。


 腰まである長い銀髪を緩く巻き、ボリューム感を重視して空気を含ませ軽く編んだ髪はサイドに流し耳下で纏める。その纏めた部分を留めてある髪飾りは小粒タイプを藤の花のようなデザインで髪をいくつもの石が滑り落ちそれぞれが光を放つ。

 勿論全てダイヤモンドである。


 まるで月の光だ集めた女神のような姿のフィーリアに、あちらこちらから感嘆の吐息が漏れる。今夜のフィーリアに男女問わず見惚れるのだった。



 皇太子妃教育で培った表情を保ち口元には薄っすらと笑みを浮かべる。

 今宵は少し暑い夜。

 熱気に当てられたフィーリアは、場所移動しようかと思ってた所へシオンが挨拶にやってきた。


「暑い夜ですね、フィーリア嬢。

 今夜はいつにも増してお美しい。

 その装いをこれほどに美しく着こなせるのは貴女くらいでしょう。

 今宵この夜会で一番美しい薔薇にダンスを申し込んでも?」


 夜会や茶会での麗しい公爵令息モードのシオンは、胸元に手を添え浅く会釈をする。貴族の男性の基本的な挨拶の礼だ。

 深く会釈をするのは最上位である為、シオンの身分だと陛下や妃殿下、殿下たちくらいである。


 シオンは挨拶の際に伏せた目を上げて、フィーリアの瞳と目を合わせた。

 一瞬いたずらっ子のようなニッとした笑みを浮かべ瞬時に消す。


 優雅に差し出された手袋に包まれたシオンの手。

 そこへ、リティシアは同じように手袋に包まれた手を乗せる。


「ええ、喜んで」


 先程までの音楽が止まり、ダンスを終えた者、そのまま踊る者それぞれの中に、シオンにエスコートされながら中央へと足を運んだ。


 また次の音楽が奏で始められた。

 王族が主催とあって、王宮の楽師達が素晴らしい腕前を披露している。


 少しスローテンポの曲が流れ、シオンと踊りたかったダンスではなさそうでガッカリするフィーリア。


「ちょっと激しいダンスが良かったね、スカっとするようなヤツ。」

 シオンがフィーリアをリードしながら、小声で囁く。


「うん、私もそう思ってた。シオンとなら激しいダンスも上手く踊れるから楽しいのに。」

「次、激しいのだったら踊る?」

 フフッと笑い声をあげてシオンが提案してくる。


「踊りたい……けど、流石に同じ人と二度踊るのはダメかも。私は婚約者が居るものね。一度踊ったら居なくなられましたけど。」


「ああ、殿下も二度同じ方と踊ってたならいけそうか。」


「殿下は殿下だから許されるのよ。私はあくまでただの婚約相手よ。同じ事をしたら面倒な事になるのよね、多分。」


 シオンも理解したのか、ああ…と面倒そうに唸った。


「じゃあこっそりとさ、人目の無い庭で踊る?」

 シオンが悪戯に誘うような口調で提案してくる。


「それもっとマズイヤツ……」

 人目に付かない所で年頃の男女の逢瀬的なヤツになるではないか。

 人目が無いとはいえバレない保証もない。


「仕方ないか……、では、このスローで面白味のないダンスの素晴らしい所を見つけて、楽しむ努力をしてみるか。」

「前向きな所はいい所よ。」

「後ろ向きは時間の損失と捉える。」

「そうね。」


 真面目くさった顔で見詰め合い、思わずプッと小さく互いに吹き出してしまった。

 二人で真面目ぶるのは性に合わない。


 ダンスの間、小声でくだらない話を小声で囁き合う。

 どちらが相手を笑わせられるかを勝負する。

 シオンがターンの合間に周囲に見られない隙を見て変顔をするので、フィーリアの完敗だった。

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