第二十四話 植物型の魔物
先ほどまで魔物の鳴き声と炸裂音に包まれていた戦場は騎士達の撤退によって静かさに包まれていた。
「静かになったが、ピーターが攻撃を飛ばしてないところを見ると、騎士達は撤退したのか」
「顔を出さないでよ。まだガブリエルが監視してるかもしれないんだから」
リリアの治療によって出血が止まったアーデンだが、依然として万全とは程遠い状態だった。納屋の表側、本来の出入り口から鳥の姿のピーターが入ってくる。
しかし、鳥の魔物は依然として上空に浮遊し、周囲の様子を警戒している。
「ヨッ。大分派手にやられてんナ」
「お前、あの中にいるんじゃなかったのか」
「あの中にいて俺が操作してたら、とっくの昔に騎士達にやられてたナ。お前は忘れてるかもしれないけど、最初にお前が見たジーナだって中に本体が入ってるタイプじゃなかっただロ」
「言われてみればそうだった気もする」
「ソーンは”魔物化”と”錬成”って呼び分けてるけどナ。周囲から影を集めるときにどっちにするかは自分で選べるんだヨ。魔物化は自分で操作できるから思い通りに動かせるけど、生身の部分が弱点になル。逆に錬成は作った時点の自身の行動パターンを模倣するから、生存本能がある上にこちらの命令を聞いてくれない可能性があル。でも原型をとどめないくらい破壊されなければすぐに再生させられるんだナ」
「そうなのか…。でもそれって外にいる魔物はお前の自由に消すことは出来ないってことか」
「ソーンなら作った魔物の解体ができるけど、俺は無理ダ」
「ねえ、何か話してるならそろそろ私にも通訳してほしいんだけど」
蚊帳の外だったリリアが不平を漏らす。アーデンは会話内容をリリアに伝えると、リリアは冷や汗をかきながら外の魔物を見た。
「じゃああれ、誰もコントロールできてないってこと!?流石にそれは容認できないわよ」
「まあ、あいつの魔物は建物や民間人に手は出さないし、最悪ソーンが起きたら消してもらえばいいだろ。騎士団が下がったってことは即席の面子にあれを攻略するだけのリソースがなかったってことだ。それよりも今は商会に戻ってエルンとソーンの様子を確認したほうがいい」
アーデンが外の様子を確認していると、こちらに走ってくるエルンの姿が見えた。エルンは魔物を視界にとらえると大声で呼びかける。
「ピーター!降りてきてー!あなたに話があるんですー!」
鳥の魔物は浮遊をやめて地面に降りてくる。3メートルの巨体がエルンの前に鎮座した。リリアが心配そうに顔をのぞかせるとそれに気づいたエルンが二人にむかって手を振る。
「あっ!よかった皆さん無事だったんですね。騎士達はもう撤退しました。ピーター君はもう魔物化を解除しても大丈夫ですよ」
しかし、鳥の魔物は首を横に振る。安全を確認して外に出てきたアーデンがピーターを連れてエルンに説明する。
「こいつはピーター本体じゃないんだ。自然界の魔物みたいにピーターをもとに生成された魔物で自由にひっこめられるものじゃない」
「なるほど。ではこのままこの子を連れていきましょう。実は都市の各地でソーンさんとは無関係の魔物が出現していまして、騎士隊の方からそのうちの一体を任されているんです。」
「お前、騎士隊と手を組んだのか」
「ええ、盾持ちの方からそれが出来たら今回の件は不問にすると。マンジュさんの安全まで保障してくれるかはわからないですが、もしも都市の内部に魔物を呼び込むことが出来る存在を捕まえられたとしたら、マンジュさんの立場を大分改善できると思うんです。」
エルンは鳥の魔物に向かって両手を上げる。魔物はこうべを垂れ、エルンの掌に自身の頭を摺り寄せる。
「この子達があいつらと違うってところをみんなに見せてあげないと。貴方もそれに協力してね」
甲高い魔物の鳴き声が広い空に響き渡った。
***
ティージの北東部、ガブリエルは単身で植物型の魔物”ヤウス”との戦闘を行っていた。食虫植物のウツボカズラようなフォルムであり、緑色の体やツルや葉っぱなどはいかにも植物のそれだが、根を張らずに地面を歩く姿やこちらをめがけて袋の影をまき散らしている様子などは間違いなく植物ではない。
ガブリエルはツルや袋を狙って狙撃するが、硬さから有効打にならずに逆に、ヤウスはツルを鞭のようにしならせて反撃をしてくる。
「見た目とは裏腹に硬いな。もっと距離を取って溜めないと有効打にならないか。けど、こいつをここで放っておくわけにもな…」
ヤウスは自身の袋の内部から闇を噴出し、あたりの空間を埋めていく。黒く塗られた地面からは、レーシンで猛威をふるった黒い靄が人型に集まり白い目をした魔物で”アルースラ”が地面から湧きだしている。ガブリエルはヤウスの攻撃を避けつつ、湧き続けるアルースラの駆除をせざるを得なかった。
「周辺にまだ誰かいるか!都市の各所で魔物がわいている。ここにいる市民は中央の教会へ避難しろ!」
ガブリエルは声を張り上げながら戦線を維持する。走り出すアルースラはガブリエルによってすべて撃ち落された。しかし、肝心のヤウスを討つにはあまりに盤面が悪かった。
「押されてるわね。」
ドリルツインテールの少女がティージのジオラマの前に肘をついて座っている。半径二メートルは超えている巨大ジオラマには魔物達の姿や奮戦するガブリエルの姿が小さく映る。真っ白なジオラマの部分部分が黒色に変色しており、魔物達のエリアがどんどんと広がっているのがわかる。
「魔物のいるところへの増援を急がせなさい。ガブリエルがあの距離で戦っていたらもったいないわ。あと、闇を祓えるタイプの能力者を各所に送りなさい。このまま広がっていったらここの騎士だけじゃ手が回らなくなるわ」
「承知しました。では私は北西部の魔物へ向かいます」
ユーリサスは敬礼をすると、セプトラの部屋を出ようとする。
「いいえ、ユーリサス隊長。あなたはここに残って敵の思惑がレーシンと同じなら必ずここを取りに来るわ。あなたはここで私の護衛をして頂戴」
「はっ!」
ユーリサスは再び敬礼をする。周囲を警戒する彼の目は仄かに光を放っていた。
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