第7話 三英傑との出逢い


 ジャラジャラ、ジャラジャラ、ジャラジャラ……



 洞窟の奥には古く朽ちかけた祠があり、その前に三人の男たちがいた。


 一人は獅子を思わせる黄金色の長髪の大男。

 一人は氷のように怜悧な印象を与える細身の老人。

 そして、百人人間がいれば五人くらいはこんな姿をしている、といった風な平凡な容姿の青年。


 暗闇の洞窟を照らすように放たれている光は彼ら自身から出るものと、彼らの周りにある机や手元の指先ほどの大きさの四角い石から出るものがある。

 おそらく、僕の眼でなければ見えないものなのだろう。


 彼らは石をそれそれの手元に十個ほど整然と並べて、それを机の真ん中に置いたり、逆に真ん中に積まれた山から引いたりといった作業を繰り返している。

 そして、平凡な容姿の男が声をあげる。


『よーーーーし!

 コレでアガリっ!

【エターナル・ブリザード】!

 18000ポイントオール!』

『げえっ! マジかよ……

 うわぁ、裏バフ合わせて10hitじゃねえか』

『ワシの目を何千回欺けば気が済むんじゃ……

 もう賢者の称号ヌシに譲りたいわ』

『へっへっ、これで二人ともオーバーキル!

 俺が13974勝。

 ナラじいが2321勝、そしてベントラの旦那が978勝だな』

『ったく、何が最弱だ! この大嘘つきめ!』

『そんなに褒めるなよ〜照れるじゃん』



 何か……盛り上がっている?

 岩陰に隠れながらセシリアに小声で尋ねる。


「セシリア? アレは何をやってるの?」

『あれは……卓上遊戯の一種ね。

 でも、どうやって掴んで……

 幽霊は物に触ったり干渉することはできないはずなのに』


 とセシリアが首を傾げた瞬間、


『それはな、この牌もまた、霊体のようなものだからじゃよ。

 お嬢ちゃん』


 老人がこちらを見ずにセシリアの問いに応えた。

 すると、残りの二人がこちらを見た。


『あれれー、えらく美人な女幽霊ちゃんがやってきたじゃない。

 どう? キミも混じる?』


 平凡そうな容姿の男がセシリアに露骨な色目を使う。

 なんだろう、すごくモヤっとする。


『フン。来客などいつ振りだろうな。

 最近は死者も生者もここには寄り付かん。

 たいしたもてなしはせんが、身の上話くらいは聴いてやるぞ』


 と、ぶっきらぼうに言う大男。

 すると、老人がため息を吐いた。


『ヌシら覚えとらんのか?

 このお嬢ちゃんは19年と238日前にも来ておったろう。

 予想通り、あまり長生きできなかったようじゃな』

『お、覚えていてくださったんですか?

 光栄ですっ!』


 セシリアは物凄い勢いで頭を下げた。

 こんなに腰が低いセシリアを見るのは初めてだ。

 もっとも、僕と牧場のロンくらいしか会っていないけれど。


 と、セシリアをじーっと見ていると、平凡な容姿の男が近づいてきて僕の顔を覗き込んできた。

 彼は怪訝な顔をして、一言。



『おまえ、見えてるだろう』


 セシリアに呼びかける時とは明らかに違う警戒した声だった。


「あ、はい。

 どうやらそういう眼をしているみたいなので」

『ふーーん…………

 ナラ爺! 知ってる?

 こういう霊が視える生者って!』


 ナラと呼ばれた老人は重そうな腰を上げてこちらに近寄ってくる。


『知らんな。

 此処を訪れる連中の中で、後に英雄に名を連ねる者もおったが、奴等もワシらの事は見えておらんだ。

 それに————』


 ナラさんは僕に先ほどまでいじり回していた石を投げてよこした。

 その石には【炎】と描かれている。


『ワシの創った牌にも触れることができる。

 霊体に干渉すらできるのだろう。

 つまり、その逆も然り。

 これはこれは面白い実験体がやってきたもんだ。

 解剖して調べていれば数年単位で時間を潰せるな』


 涼しげな表情をグニャリと歪めてナラさんは愉しそうに笑った。

 それが怖くて思わず後退りしてしまったが、セシリアが僕の前に壁のように立ちはだかって、彼らに物申す。


『お言葉ですが、この者はあなた達の生贄にするために連れてきたのではありません。

 この者にあなた方三英傑の持つ技を伝授していただきたいのです。

 冒険者の祖ベントラ様、賢者の中の賢者ナラ様、最じゃ…………英雄ザコルさま』


 一瞬、言葉に迷ったセシリアを笑う平凡な容姿の青年。


『別に言い直さなくてもいいよ。

 そうでーす。

 俺が最弱無敗のトリックスター、英雄ザコルさまだ。

 またの名をハーレム王とか、神様の悪ふざけとか、人間のクズ、来世は虫ケラとして転生してほしいとか……とまあ、異名の多さでは俺がナンバーワン!』


 後半はただの悪口ではないだろうか?

 人は見た目によらないというが彼が本当に英雄に名を連ねるような事をしてのけたとは思えない。

 ただ、彼が大声で楽しげに騒ぐお陰で緊張した空気が緩んだ。

 そこにベントラさんが近づいてくる。

 近くで見るとなおのこと大きい。

 背丈は2メートル以上あるし、肩幅も僕が横になったくらいの長さがある。


『ナラ。勘弁してやれ。

 生者と話せて嬉しいかもしれんが、あんたの冗談は分かりにくい』

『ふん、子供を揶揄うのは年寄りの生き甲斐じゃ』

『俺の方が古い時代の人間なんだがな……

 おい女。冒険者だろうと酌くらいできるだろう。

 久々にやるぞ! 酒宴だ!』


 とベントラさんは大きな声で呼びかけた。

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