7−7

城主はスタスタとそのまま躊躇いも無くクリストファーに近づくと、やおらグイッと右手をつかんで立ち上がらせた


と……!


ふいっと滑らかな動きで身をかがめ、ボロボロの着衣をまとう彼の疲れ切った身体の可動域や骨折や怪我のチェックをする


「……ふぅん大丈夫のようですね」


右手のグローブをスルリと脱ぎ、大きなポケットの中のーーー

何か輝く短い銀色の物体を、白く長い細い指で取り出す

 

キュッと形の良い唇に咥え


「ピイイイッッ〜〜……」



ーーー鋭く吹く

大きく……細く……長くーー……


『笛だ!』


ジロジロ怪訝そうな視線を感じたのか?彼女はさも当たり前のように答えた


「このあたりは特に磁場や次元が不安定なので

……シンプルであり確実な方法を採用しています」


ピイイイー…… 

ピイイイー…… 


ピイイイー………

 

すると木々の合間から


〜遠く様々な別々の方向らしき所から次々と、清涼な空気を振るわせ同じ様な反応が帰ってきた


1つ、2つ……

少女はあえて指を折って正確に確認を取っている様だ




「城主!」


その時だった


突如、殆ど同じ格好の、今度は見上げるほど長身の男がガサリと深い藪をかき分け現れた



『!!

ーーーーこの男もどこから現れたのだ?』

 

まるで足音〜

イイヤ誓っていいが気配すら全くしなかった



「では今から帰還します」



最後にもう一度、鋭い笛の音……

短音長音の複雑なミックスで合図を彼女は送る


 

「クリストファー王太子様……

大変申し訳ございませんが場所が極秘の為、少々の我慢を」



ーーーはっと気がつくと

彼の後ろにさっき出現した男がいつの間にやら幽鬼のように立っており


ガッチリ万力の様に凄い力でもって、易々と逃げられぬ様に腕と両肩をつかんでいた


バタバタ必死に藻掻いたが蟷螂の斧、全て無駄な努力だった



さっきもだが今度も〜

ぬっとーーー2m近く上背のあるこの大男の気配に何故なのか?

すぐ後ろにつかれるまで全く気がつかなかった


『どういう事?』


心の底からワナワナと震える


どんなに振り解こうとしても捕まってぴくりとも身動きが取れない


城主がゆらり更に接近した

異様に整った貌が近い


 

笛を取り出したポケットとは別の場所から

カチャカチャと……振り

透明の吸い込み用樹脂マスクがついたスプレー缶を武器みたく取り出す



迷いも無く……震えながら目を見開く王太子の口にピタリと押しつけると

一気にノズルを深く押す

瞬間シュ~っと甘い香りのガスが噴射されーーー




その後の森での記憶は無い






 

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