第3話 序章③

その『知恵者』は朗々とこう語った


「そうですねぇ……

どうせでしたら付加価値をつける為にシンプルで、『ジャパンらしい名称』にしましょう

我々もこの国の一部……


生きとし生ける物の、引いてはこの…自然の一部ですからね?

大地の前に敬虔であるべきだと思われませんか?

諸国に余裕を見せる為、美しきロマンが幾ばくかあった方が宜しいでしょう


でないとこの血税の巨費を投じた施設建設自体、むざむざ大国に屈した様に見え寝覚めがよくありません


『ごまめの歯ぎしり』とはいえ、我々にも自尊心がございます

下手に出すぎるのも先方とて扱いに困るでしょう

そしてもしも……

計画段階に名付けていた、無味乾燥な番号制を監理側にまで要求致しましたら

『人権問題』で〜

そう言った事柄に敏感な専門家、銀河をまたにかける国際的な人権団体ーー……

諸外国に示しが付かず藪蛇の如く突かれるやも知れません

 

いいですか?

〜この世の何処にも存在しない『世界』なのですよ?

少しでも目立つ挑発行為は避けた方が無難です


我が国には同じ言葉でも幸いな事に

『音』と『訓』の両方の別々な読み方があります 

 

他の同じ字体の歴史的有名建造物は大体は『音読み』

でしたら『訓読み』で差別化を図れば、とある”既得権益を持たれた先方”も


明らかな詭弁、でっち上げだと判っていても、名誉と体面が保たれ納得される筈です


何せ〜『彼ら』は

〜由緒正しいかつてこの国を営々と命を賭けて守った一族の末裔達です


再び堂々と晴れ舞台が

祖国を悪しき者から守護する機会が巡って来たのです


これ程のバックアップは我々にとっても精神的な心の励みになります


それにですね?訓読みでしたら、従来の地名を入れる必要性からも自由になります

建造された座標軸…場所の特定は防がねばなりません

  

管理者名も性別年齢経歴、初代から数えて何人目か?等


秘密裏に動かした国内人事を悟られぬ様、必ずジェンダー的含みが一切ないものが良いでしょう

 

残念ながら”肩書きの印象”は、いささか惚けた感があり決して強そうではありません


が〜

か弱そうに見せて実は猛き者というのは意外性と強い物語性があり

力量の事実をその身をもって知れば皆驚き慌て、ひれ伏す事でございましょう

 

多少変ですが どうせ<隠語>です

暖簾に腕通し

ノラリクラリ言い訳すれば宜しいのです

それが『大人の知恵』という物


かまいはしませんよね……?」


 

知恵者は悠然と微笑むと

チラリ〜沈黙する要人をグルリと見回した


「如何でしょうか?」

駄目押しの”止めの一言”


関係者皆、「これはもっともだ」と深く感服した

一応筋は通っている


第一これを越える発想で、したたかな論理を覆す意見を自分達の誰も出せる気がしなかった


どうせ公には出来ない種類の建造物だ

いいじゃないかこれにしよう


何だって良いのだ


「異議無し!!」

「素晴らしい!!」


満場一致で拍手を持って可決した


「決まりだ」


内閣総理大臣の鶴の一言


密やかに設けられた極秘会議の閉会合図だった


 

こんな裏事情で施設名称を「城(しろ)」とした


施設トップの全ての権限を持つ所長の肩書きを「城主(しろぬし)」と名命した

 

こうして亜空間に超大国にゴリ押しされた特殊収容所施設・本丸『城』は何とか出来上がった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る