Capacity - 区切り - 第2話 パートナー
七海が唯依の部屋で寝ているのに、と思ったものの、その日の瑛梨は止まらなくて、久々に広いベッドで愛し合った。
瑛梨の体は人が望む欲望を詰め込んだかのような豊満さで、胸の膨らみもほとんどないわたしと本当に同じ血を引いているのだろうかと思うくらいだった。
瑛梨の体を知ればきっと誰もが瑛梨に溺れる。瑛梨はそのことをよく分かっていて人を惹きつけるのが上手い。
まあ、瑛梨が相手をするのは女性だけだけど。
とはいえわたしと瑛梨との関係は、瑛梨と再会してからわたしが言い出したことだった。
そうじゃなければ、瑛梨は従姉妹である私には手は出して来なかっただろう。
「もう、瑛梨も好きに生きていいんじゃない?」
「私はいつだって好きに生きてるわよ」
ベッドの隣にあるスクエアのテーブルの上から琥珀色の液体の入ったグラスを取り、瑛梨は口元に運ぶ。
全裸で隠すこともしない堂々とした様は瑛梨らしい。
「そうだね」
それは瑛梨自身が自分で選んだから後悔しないという生き方を身に付けたから言えることだと知っている。
瑛梨は唯依を産んで、一人で唯依を育てたし、実業家としても成功している。それは瑛梨の努力があったとしても、生来の資質と自分を信じる力を持っていたから成し遂げられたことだろう。
わたしにできたことなんか、唯依との関係に少しだけ入りこめただけだ。
「瑛梨、わたしが出て行くって言ったらどうする?」
わたしと瑛梨との関係は、再会後に唯依を瑛梨と一緒に守るという約束があっての上で成り立っている。
でも、その心配も今日なくなったと言っていいだろう。
体だけであれば関係は続けられるのかもしれない。でも、そんなわたしの望みよりも、ずっと独りで闘い続けた瑛梨に自分の幸せを掴んでもらいたかった。
唯依が産まれてから、瑛梨は自らの幸せを犠牲にして特定のパートナーを作っていない。男性は無理だとしても、瑛梨が真実願う相手に今のわたしの場所を譲るべきだろう。
わたしの提案に溜息を吐いた瑛梨は、ベッドから降りて普段持ち歩いているバッグを開いて、そこから何かを取り出す。
そのままベッドに戻ってきた瑛梨の片手は握られたままで、何を取り出してきたのだろうか興味はある。
出て行くと言っているのに鍵を渡されるではないだろうし。
「手を出しなさい」
右手を出すと左手だと怒られる。
右手を引っ込めて左手を出すと、瑛梨の手がわたしの手首を掴んだ。
じっと見ていると、わたしの節くれた指に瑛梨がシルバーのリングを通す。
左手の薬指は、何を意味するかなんて小学生だって分かるだろう。
「どうして?」
「ゆかりが迷っているから」
「でも、瑛梨。わたしにはこんなものをもらう資格ない」
「私が与えるって決めたの。それ以外に理由が必要?」
「瑛梨には幸せになって欲しい。無理にわたしにつきあう必要ない。わたしは瑛梨に欲しいものたくさんもらったから、今度は瑛梨に大事な人を見つけて欲しい」
「それがゆかりだって言ってるんだけど、私」
瑛梨が顔を近づけて来て、両手で顔の両側をぎゅっと押さえられる。
目の前の瑛梨に視線を合わせると、瑛梨は余裕のある笑みを見せた後、顔を近づけてきて唇を奪われる。
瑛梨とのキスは何度もした。それでも触れ合うだけでわたしは嬉しいと感じてしまう。
「私が唯依のことを含めて全部曝け出せるのなんか、ゆかりしかいないでしょう。ただ従姉妹だから知ってるじゃないの、ゆかりは私を支えてくれた。だから、私のパートナーはゆかりしかいないの」
「瑛梨……」
「言葉にしないと分からないのね、ゆかりも」
「……わかるわけないでしょう」
「結構頑張ったつもりだけど、まだ夜の生活が足りなかったかしら」
「そういうことじゃないでしょう。これ、どうしたの?」
「2年くらい前かしら。唯依が出て行ったし、そろそろ渡そうかなって思って用意したら、あの子いきなり出戻ってきたでしょう。折角の計画が台無しよ」
七海と暮らすよりも前にも唯依は同棲すると家を出たことがある。恐らくその時のことだろう。
「わたしはどうせつけられないのに」
「ゆかりは真面目だから仕事中は外すでしょうね。それはそれでいいわよ。これはゆかりを誰にも渡さないって証なだけだから」
「そんな価値わたしにはないよ」
「手放したくないと私が思ったのはゆかりだけよ」
「瑛梨……」
「それにいくら唯依が七海ちゃんと落ち着きそうだって言ってもね、これからもあの子は何をしでかすかわからないんだから、ゆかりもちゃんと見てくてないと駄目よ。親として」
「そうだね」
かつて、七海と別れるという選択をしてまで、一緒にいたいと願った瑛梨。
瑛梨を知れば知るほどわたしは瑛梨に夢中になった。
彼女に触れるだけで歓びが増した。
だからこそ、突然失うことを恐れてわたしは離れようと弱気になったけれど、瑛梨はわたしが思っていた以上にわたしを求めてくれていた。
それならば、わたしはもう迷う必要などないだろう。
瑛梨の隣にいればいい。
「瑛梨、一つだけ条件出していい?」
「何? 毎日セックスしたいって言われたら、年も年だし、さすがに応えきれる自信ないけど、前向きに頑張るわよ」
「それは今まで通りでいいから。ただ、火遊びするな、とは言わないけど、後ででもいいからそういうのは教えて欲しい」
自分が独占できる人だとはわたしは思っていない。それでも、隠さずに話して欲しかった。
わたしに話せるということは、わたしに対しての想いもあるということの証だから。
「それって、どこまでの関係なら?」
「体の関係ができたら、でいいよ」
「ゆかり、ゆかりとつき合ってから、わたしはゆかり以外に体を見せたことはないわよ。飲みに行くはよくあるけど、せいぜい軽くキスするとか、触って欲しそうだったら触ってあげるくらいしかしてないから」
「どうして?」
「女の子は好きだけど、パートナーがいる自覚くらい私にもあるわよ」
流石にその答えにわたしは驚く。
瑛梨がそこまでわたしを恋人として特別扱いしてくれていたことを知らなかった。
「ゆかりは全然わかってないみたいだから、もっとしっかり覚えさせないと駄目ね、体に」
営業スマイルの瑛梨に、どうやらわたしはフラグを立ててしまったようだと後悔しながらも、近づいてきた瑛梨をわたしは拒否しなかった。
わたしだけの人、やっとそう言える自信がついた。
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