第12話 定例会
同棲を始めた唯依は、月に一回くらいは顔を見せなさいと母親である瑛梨さんから言われていて、何故か毎回私もそれに巻き込まれていた。
唯依の実家に行くこともあれば、自分では絶対行かないだろう高そうな店での夕食会のこともあった。唯依の母親とそのパートナーであるゆかりと、唯依と私、その四人で会うことには私も多少は慣れてきた。
「あれ? ゆかり、今日はどうしたの?」
私のかつての恋人ということもあって、私はそれなりにゆかりの普段の姿も知っているつもりだった。
バーでは薄く化粧をしていて、男装の麗人風だけど、普段はほとんど化粧もしなくて素のままが多いゆかりが、その日はしっかり化粧もしていたし、着ている服もいつもの女性的な体のラインが出ない服ではなくて、スタイルの良さを引き立たせる服だった。
「さすが七海ちゃんは鋭いわね。ちょっとおしゃれさせてみたんだけど、似合うでしょ?」
瑛梨さんの仕業らしいとわかり、それならばゆかりが黙っていることも頷けた。
「瑛梨さんってこういう系が好みなんですか?」
「ちょっと、七海、何でこの人の好みなんか聞くのよ!」
腕に絡みついてきた存在に、ぐいっと胸元に引き寄せられて、思わずバランスを崩しかける。
「深い意味ないけど、単にゆかりのこんな格好珍しいなって興味があったからで」
「だから、ゆかりになんか興味持たなくていいでしょ」
相変わらずの唯我独尊的な発言だったけど、それは唯依らしいと言えた。
「相変わらずみっともないわね、この子の嫉妬」
親が子に掛ける言葉ではないな、と苦笑を返しておく。案の定、頬を膨らませながら唯依は怒りを示していたけど、食ってかからないだけましだった。
「七海ちゃんもそろそろ大人の魅力をもっと出すような服装してもいいんじゃない? 誘ってくれたらいつでもつき合うわよ」
誘いに乗れば、きっと高そうな店に連れて行かれて、何着か服を買って貰えそうではあったけど、さすがにそんなことをすれば唯依が拗ねて手がつけられなくなると簡単に想像がつく。
でも、多分瑛梨さんは最近私が唯依に合わせて着る服を少し変えたことに気づいている。
今までの私は年上としかつき合うことがなかったので、年上に好まれるような服装や、並んでも違和感のないようなやや落ち着いた服装をするようにしていた。
でも、そうなると唯依と並ぶと一人だけ大人びて、というか老けて見えてしまいそうで、年相応のプライベートも楽しんでます感のある少しアクティブな格好をするようになった。
唯依は自分のおしゃれには気を遣うくせに、そういうところは鈍いから気づいてなさそうだけど。
「ありがとうございます。大人な服を買ってもらっても、私には着ていく場所もないですから」
「じゃあ、そんな気分になったら声を掛けて」
ワタシが脱がせるから、暗にそんな言葉が秘められていて、相変わらずの策士っぷりが覗える。
唯依は外見は瑛梨さんにそっくりなものの、直情型で色事の駆け引きができるかというと多分無理だろう。
「七海に服くらい、わたしだってプレゼントできるんだから」
「唯依、そこ張り合わなくていいから。唯依は自分のおしゃれにお金を掛ければいいよ」
「だって……」
「唯依が瑛梨さんみたいに稼いで、お金が余っているならともかく、唯依が無理する必要ないから」
「分かった」
不承不承頷く唯依と大人なつきあいは永遠に無理そうな気さえしていた。
「悔しい」
「人に載っかかっておいてそれはないんじゃない? するの? しないの?」
「するに決まってるでしょう」
二人で帰りついたものの、こんな日は唯依を体で収めてやらないと落ち着かないのは分かっていて、唯依に体を開く。
「唯依、いちいち瑛梨さんに張り合わなくていいんじゃない?」
「…………だって、七海がまんざらじゃないって顔するじゃない」
「ちょっと会話を楽しんでるところはあるけど、私は唯依が私の好みに合わせる必要はないって思ってるよ」
「じゃあ、わたし以外を見ないで」
「こういうことするの今は唯依ってだけでも納得できない? 最近は唯依にしか触れさせてないよ」
「わたしのだから」
独占欲を剥き出しのまま唯依からのキスが重なって、私の体を貪って行く。
唯依はずっと私の好みじゃないことを気にしているけど、私が唯依とのセックスにかなりはまっていることを唯依は知らないだろう。
夢中で私の肌に吸い付く様が可愛くて、それでいて唯依に徹底的に高められて、解放へと誘われる。一度で満足することはまずなくて、一晩の内に何度もいかされるのなんてしょっちゅうで、足りないと感じることがないくらい唯依に求められた。
なかなかに爛れた同棲生活だったけど、それを唯依以外が与えてくれるかと言えば、そうでないことは分かっていた。
「気が済んだ?」
「浮気しない?」
「したことないけど」
「だって、七海はあの人に興味あるんでしょう?」
「素敵な人だとは思ってるけど、別にそれで何かを考えてるわけでもないよ」
「本当に?」
「私は唯依の恋人でしょう?」
「絶対、誘いに乗らないで」
はいはい、と呆れた声を上げる私の唇に唯依の唇が重なる。
甘えるように吸って、離して、また吸うを繰り返している内に再び熱が籠もって来てしまう。こんなセックス唯依としかできないだろうと思いながらも、わざわざ口にすることを私はしなかった。
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