第11話 デート

一緒に暮らし始めて、喧嘩はしょっちゅうするものの私と唯依は何とか関係が続いていた。


その日は二人そろっての休みということもあって二人で出かけて、唯依の服選びにつきあいながら、ゆったりとした休日を過ごしていた。

年齢が近いと、一緒に並んでいてもどう見られるのかなんて考えなくてもよくて、相手に合わせて背伸びしなくてもいいのは楽だった。


そこへ、またかと思う横やりが入ってくる。


唯依はお世辞でもなく可愛いので、女性二人で歩いていると狙ってくる男性が後を絶たない。


テラス席で向かい合ってコーヒーを飲みながら休憩していた所に、通りがかりに声を掛けられるなんて普通のことだった。


「ごめんなさい、わたしは恋人がいるので興味ないです」


営業用のスマイルと共に、私の向かいで唯依は断りを出す。それはもう慣れた素振りに見えて、私は溜息を吐いた。


「真面目に断っているのに、溜息は酷くない?」


「おもてになるなって」


「一番届いて欲しい人には届いてないから」


「可愛いのは知ってるよ」


「興味ないでしょ」


うーんと、私はうなり声を上げる。唯依が可愛いのは知っているし、可愛いなとも思っている。

でも、それを求めているかと言われれば、それほどじゃないのは事実だった。確かに唯依の一部ではあるんだけど、少なくともそれが唯依といる理由でもなかった。


「会った時からそうだったから。興味がゼロなわけじゃないよ。ただ、それを理由に口説こうとか思わないだけ」


唯依も分かっていることだし、隠す気もなくてそのままを口にすると、頬を膨らませて拗ねたのはわかった。


「でも、いくらでも男にもてるのに、男とつき合う気は起きなかったんだ」


「わたしの初めての相手は、あの人の恋人だったの」


やぶ蛇だったかもしれないと、自分の失言に私は気づく。唯依の言うあの人は母親である瑛梨さんをいつも指していて、瑛梨さんは同棲している恋人が居ながらも、恋多き女性で、その相手が全て女性であるとも聞いていた。


私も誘われたことがあって、興味を惹かれつつも断った過去もある。


「襲われたの? 襲ったの?」


「どっちだと思う?」


「どっちも考えたくないからノーコメント」          


「えーっ、傷ついた過去があるかもしれないのに、興味を持ってよ」


それで唯依が襲ったのだとはっきりわかった。唯依の過去なんか聞かなければ良かったと、親子関係の捻れっぷりに溜息を吐く。


「唯依は今の可愛い唯依が合ってると思うから、それでいいんじゃない?」


「…………」


あれ? 拗ねた。言葉を選び間違ったかな、と最近では唯依の反応は読み取れるようになったつもりだった。ただ、読めたとしても、拗ねてる理由はわからない。


「帰ろうか」


「帰らない」


「そう。じゃあ、先に帰っておくから、気が済んだら帰ってきて」


コーヒーが入っていた紙コップを手にして、私は席を立つ。文句を言われても、私は一々唯依の機嫌を取るようなことはしない。

というか、どうすれば唯依の機嫌が良くなるかも分からなかったし、そこまで唯依を甘やかす気もなかった。


店を出て駅に向かって歩き始めると、すぐに右隣にくっついてくる存在がいる。


「拗ねてたんじゃなかったの?」


「だからって放って行くって酷くない? 変な人に引っかかっちゃうかもしれないんだから」


「人通りも多いし、唯依なら自分で撃退できるでしょう」


「自棄になってついていっちゃうかもしれないわよ」


「自分をおもちゃのように扱うの止めなさい」


「だって、七海が興味ないって言うし……」


「唯依を可愛さだけで私は見てないってだけだから。それが嫌なら、可愛がってくれる人を探せばいいでしょう」


「…………七海がいい」


唯依に腕に巻き付かれて、小声で呟いた存在に、流石にちょっと冷たくあしらいすぎだったと反省をする。


「唯依が可愛いから惹かれたは私にはないけど、可愛くない唯依は唯依じゃないと思ってるから、今の可愛い唯依でいいよ」


そんな感じで手を繋いで帰ったこともあってか、帰るなり唯依にベッドに引っ張って行かれしまう。


唯依は基本的に性欲を我慢することもしないので、よくあることだと私も慣れてしまっていた。

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