魔人兄の実地試験 続
狩人ゴーレムから逃げきったクロは、第4階層の北端の通路にて無事だったアナグラニセテヅルモヅルを見つけ、一息ついていた。
(魔力感知の対策……用意しておくべきだな)
逃走の最中、クロはそんなことを考えていた。感知機能を視覚に頼る生物は確かに数多いが、それ以外の感知能力を持つ生物も決して少なくはない。この迷宮にも、獲物がトラップにかかった際の振動を感知して襲ってくるオニイトハキや、原理こそ不明だが付近の動体を正確に捉えて触手を伸ばすアナグラニセテヅルモヅルがいる。そういった特殊感知への対策も、あって損はない。
しかし、繊細な魔力操作の結果、絶妙なバランスで成り立っている今の
(新たに専用の装備品を作るのが良いのだろうが……現状だと魔力感知対策するのに好相性の素材がない。保留にせざるを得ないか)
クロはそこで思考を打ち切り、目の前でのたくっている触手状生物に近付いていく。両腕を軽く開き、見るからに無防備な姿勢だった。当然アナグラニセテヅルモヅルがそんな手頃な動体を見逃すはずもなく、粘液が光る無数の触手が空を走る。
「さあ、俺を捕まえてみろ」
対するクロは一切の防御行動を取ることもなく触手の射程圏で立ち止まり、
次の瞬間、迫って来ていた触手の群れがバチュン!!という破裂音と共に弾き飛ばされた。アナグラニセテヅルモヅルは慌てたように、触手を痙攣させながら引っ込めていく。
「おっと、もったいない」
対するクロは涼しい顔のまま、飛び散った粘液を魔法で回収していた。その身体の表面を、青白い電光が走り回っている。
これが
クロは上機嫌でチェックリストのインクを動かし、アナグラニセテヅルモヅルの欄に丸印をつける。その間も触手は恐る恐るクロに卵を擦り付けようと触手を伸ばすものの、やはり電撃の膜に阻まれて悉く失敗に終わっていた。しばらくして触手状生物は諦めたらしく、触手を脱力させたようにダラリと垂らした。
「ご協力、感謝」
粘液に覆われた触手を労うように撫でたあと、クロは付着した粘液をビンに収めながらその場から立ち去った。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️
「こいつは、無事か」
第4階層の中央辺りに位置する、とある十字路。糸の罠で覆われたその端で、クロは規則的に脈動する巨体を見上げていた。糸罠には狩人ゴーレムが通った痕跡は見られなかった。
次なるチェックはこのオニイトハキの糸罠を使って行うが、それには巣の住人が邪魔だった。糸罠に少し触れただけでも、伝播したその振動を感知して落下して来てしまうためである。悠長にチェックリストを埋める暇を与えては貰えない。
「という訳で、申し訳ないがお前には素材になって貰う」
クロはズボンの両腰のポケットに手を入れると、キハダマヒリンゴの果汁を入れたビンと、白い刃を持つ、一振りの短剣を取り出した。
続けて毒用のコーティング魔法を施した刃をビンの口から差し入れて麻痺毒を塗り、クロは【
間髪を入れずに、クロはポケットから全く同じ短剣を2本取り出すと伸びきったワームの首へ振り下ろした。
そして、本来は防御機構であるはずのそれが、励起する。
「【
蒼白の電光と轟音が炸裂した。
「ようやく、俺もまともな火力を得たか……」
刺さっていた短剣を回収して毒を剥がし、ワームを解体したあと、クロはサイコロ肉や牙とともに全ての短剣をポケットにしまい直す。
この短剣は、以前仕留めたオニイトハキの牙を利用して作られたものだった。実地試験と並行して、ポケットに入れた
「それでは改めて……」
クロは糸罠の中央を見据えると、鋭く息を吐いてそこへ身を投げた。ワームの巨体を支え、魔物の膂力を以てしても容易には振りほどけぬ糸の波がクロの全身を絡め取る。
その、刹那――
クロの身体の
【
「……よしッ!!!!」
仰向けになったまま、クロは拳を天に突き上げて快哉を叫ぶのであった。
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