『喋る男』
さくらぎ(仮名)
「自殺は痛そうです。痛くない自殺の方法とかがネットに書いてありますけど、痛くない自殺なんかあるわけないですよね。僕は痛いのが嫌いなんで……すいませんなんか日本語おかしくて」
「最近もね。有名人の飛び降り自殺がありましたけど、ああいうニュースを見て『愚かだなぁ』と思っている自分と、『でも逞しいなぁ、羨ましいなぁ』と感心して妬んでいる自分とが、両方いるんですよ。これは最近自覚したんですけど。ええ」
「だって飛び降りですよ。絶対痛いでしょ。僕だったら絶対無理ですもん。本人はそんなこと考える余裕ないでしょうけど」
「だから僕は自殺ができないんですよ。痛いのが分かってるから。こういう風に考える余裕があるから僕はまだ大丈夫ですね(笑)」
「同じ自殺するのでもね。赤の他人に迷惑をかけたら駄目だと思うんです。それだけはほんとに駄目。線路に飛び込むとかも――あんなのは最低ですよ。さっき『本人はそんなこと考える余裕ない』とか言ったけど、知らねぇよって感じですよ。なに不特定多数の赤の他人巻き込んでんだよって感じですよ。個人的な、独りよがりな事情のために社会を停滞させて良い理由なんかどこにもない。そんなのはフィクションの世界だけでじゅうぶんです。死ぬんなら一人で勝手に、人の目が無い静かで暗い場所で死ねばいいのに。注目されて、可哀想だと思われて死にたいんですかね。それで『人間らしく死ねた』とか考えてるんなら思い上がりも甚だしいですよ。そんなのは一方的な理屈で、知らねぇよって感じですよね。こっちからしたらたまったもんじゃない」
(中略)
「だから結局はね。どんな理由で自殺した奴よりも、いま生きてる奴の方が絶対に偉いんですから。まぁ僕が個人的にそう思ってるだけなんですけどね」
「自殺は無理。じゃあどうやったら、赤の他人に迷惑をかけずに死ねるか。これは一見難しそうで実は意外とシンプルな方法が二つあるんです。敢えて『簡単な』とは言いません」
「まず一つ目は……あぁそうです。地震です。厳密に言えば、災害です。いつ来てもおかしくないと言われている例の大地震、それに伴う大規模な津波、広範囲の地盤沈下、あるいは某山の破局噴火」
「二つ目は、通り魔に殺されること。これも最近、模倣犯が沢山やらかしてますから、災害よりはいくらか現実的というか日常に近いというか。危機感があるほうですよね」
「ただこの二つはどちらも、向こうからやってくるんです。自殺の手段として利用しようとしているこちらからは干渉のしようがない。待たないといけない。これが唯一のデメリットです。今すぐ死にたい人には向いていない」
(中略)
「……喋り疲れたので、今日はこの辺で。すみません。また近いうちに、気が向いたら。ええ。ええ。それじゃあ」
『喋る男』 さくらぎ(仮名) @sakuragi_43
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます