適当に補い合って

シヨゥ

第1話

「適当でいいんです」

 社長はそう言う。

「ただ投げやりな適当はダメです」

 適当にも種類があるらしい。

「これぐらいが適当だろうと思えるぐらいがいいんです。これ以上はやりすぎだと思うぐらいの適当さ。それが大事なんです」

「それって完成度で言うとどれぐらいですか? 90パーセントですか? それとも80パーセントですか?」

 スピーチの途中だというのに質問が飛ぶ。

「それは人それぞれです」

 社長は怒ることなくそれに答えた。

「理想が高い人は80パーセントでも納得しないでしょう。僕は60パーセントもできれば合格かなと思っています」

「社長がそんな中途半端でいいんですか?」

「いいんですよ。だってここには助けてくれる仲間がいるでしょう?」

 そう問いかけるとみんながみんなを見回す。

「互いに補い合ってやっと100パーセント。それでいいんです。助けてもらったら助け返す。そんな助け合いの繰り返し。そうやって僕らはここまで生きてきたんだから。それでいいんです」

 その言葉に拍手が起こる。

「適当に取り組みましょう。それがいい塩梅ってもんです」

 そう締めくくると社長は壇上を後にした。拍手は鳴り止まない。引退するには早すぎる。そう誰もが思うスピーチだった。

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適当に補い合って シヨゥ @Shiyoxu

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