02【遭遇】
何でもかんでも凍らせてしまう絶対零度の世界、と言ったと思うが実は一つだけそんな絶対零度に閉ざされた旧首都に近付ける者が存在する。
……魔法少女である。
魔力装甲と呼ばれるものを持つ魔法少女は絶対零度の世界に入っても装甲によって防がれるため、旧首都内でも行動する事が出来るのだ。
ただし、だからと言って自由に動き回れるわけではなく旧首都内に居る間はそんな魔力装甲もじりじりと削られていくみたいで、ずっとは居られないみたい。
アンノウンの対応が優先だが、東京の調査も魔法省は行っているみたいで定期的に、複数名の魔法少女を派遣しているそう。最初は凍り付いてしまった人々を連れ出せないか考えていたみたいだが、それは無理だったようだ。
何でも凍り付いてしまったものを動かす事が出来なかったらしい。簡単に持ち上げられそうなボールとかそう言ったものを試しに持っていこうとしたが、びくともしなかったとの事。
まるで時が止まっているかのようだったって、最初に調査に向かった魔法少女たちが言っていたみたいだ。
「んぐ」
焼いた食パンにマーガリンを付けて食べる。
「……今日もあっちこっちでアンノウンが出てるな」
ニュースでも度々に取り上げられるアンノウン。出現当初は、そんな余裕もなかったが、今ではこんな感じに災害と同じように番組で放送される。
まあ、何処でどのくらいの数が出現したのかとかが分かると、少しは気が休まるってものか。とは言え、不定期かつ突発的に現れるから本当に何処で遭遇するかなんて分からないが。
一応今では出現の予兆があると、サイレンがその地域全体に鳴り響くのでそれを合図に避難するのが基本になっているが。
「何なんだろうな、アンノウンって」
今でも分かってない方が多いから分からないのも当然だが……ただ一応見た目としては動物や虫のような感じ。人型のようなものは居ないみたいだ。
ただ確かに基本の形は動物とかかもしれないが、大きさもバラバラである。蟻の見た目をしているのに怪獣並の大きさだったりとかね。
後は虫や動物がほとんどとは言え、時折、ファンタジーな世界からやってきたかのような見た目のアンノウンも居る。一番分かりやすい例としては、5年前の首都凍結の際に出現したレベル6……ドラゴンのような見た目をしていたやつだろうか。
「はあ」
朝ご飯を済まし、自分の部屋へと戻る。
PCをスリーブモードから復活させ、インターネットを開きアンノウンや魔法少女といったキーワードを入力し検索ボタンをクリックする。
「やっぱりいっぱい出てくるなあ」
最早、話題の尽きないアンノウンと魔法少女。考察スレやら雑談スレ、ニューススレとかにもアンノウンと魔法少女のキーワードが入っている。ニュースにもアンノウンや魔法少女についての事が多く書かれている。
地域ごとに所属する魔法少女について語られているスレもある。
まあ、魔法少女については魔法省のサイトでも公開されているからなあ……もちろん、変身後の姿と名前で、である。
魔法少女に覚醒しても魔法省に所属しなければならないという決まりはなく、本人の意思を尊重されるので辞退する人も当然いる。
そりゃそうだ。魔法少女はアンノウンと日々戦っている訳で、常に命と隣り合わせなのだ。国や魔法省の手厚く強力なサポートがあったとしても、戦うのは魔法少女自身だ。
一応、5年前の首都凍結及びレベル6出現以降の魔法少女の死傷者は日本では確認されてない。交通事故とか、病気とか……そう言った者で亡くなってしまった人は少なからず居るけども。
まあ、レベル3以下のアンノウンがほとんどであるし、時々レベル4が出てくる程度に今は収まっているからではあるだろうけど。
魔法少女にもその魔法少女の強さ等の目安が設けられている。
あくまで目安ではあるが、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラス、Eクラスと合計6つ存在し、左に行くにつれて強いというか上になる。
因みにこの魔法少女のクラスについては世界共通である。ただその組織……日本で言う魔法省のような組織については、国ごとに名前は異なったりしているけどね。
余談だが、魔法省と防衛省は互いに協力関係にある。国を守るというのは同じだしな。魔法少女は魔法省が、自衛隊については防衛省が、という感じだ。
「……サイレンか?」
PCで色々と調べていると、聞き覚えのあるサイレンの音が響く。この地域に対してのサイレンで間違いないな。そうと分かれば俺はPCを落とし、最低限の物を入れてあるリュックを背負い、家を後にする。
サイレンが鳴ったという事は、この地域に対してアンノウンが出現する予兆があるという事だ。たまにサイレンが鳴ってもアンノウンが出て来ない時もあるが、大体は出現する。
どういう原理でそれらを予想しているのか気になる所ではあるが、魔法省の技術なんだろうなあ。
何かの解説で、アンノウンが出現する時は空間が歪むからそれを捕捉してサイレンを鳴らすと言っていたような。後はアンノウン自体が持つ瘴気のようなものを感知するとかなんとか。
良く分からん。
既にサイレンを聞きつけて、自衛隊や警察がこの地域に駆け付けている様子。でもって、住民たちも慌てず静かに避難を開始していた、
これを見るとすっかりアンノウンの出現には慣れてしまっているようだよなあ。初出現の時からしばらくはみんな慌てたりパニックになったりとかしていたが。
警報が設置されたのもしばらくした後だったし、その時は本当にいつ出現するか分からない状態だった。
「……そう言えば魔法省のトップって”始まりの魔法少女”の一人だったっけな」
始まりの魔法少女。
アンノウンが出現した当時にほぼ同時に出現した魔法少女の事だ。日本に登場した始まりの魔法少女は3人であり、3人が3人かなり強力な力を持っていたそうな。
始まりの魔法少女は3人居たが、そのうちの1人は死亡してしまっており残り2人は今の魔法省の中で活動していて、片方が現魔法省のトップだったりする。確か名前は……
始まりの魔法少女は当然ながら、今の魔法少女よりも経験豊富だろう。それならば、アンノウンの出現を予測できるシステムとか作れてもおかしくないかな?
「……マジかよ」
知っている道を使って避難所に向かっていたが、その途中で大変まずい状況に陥る。
「アンノウン……」
俺が通ろうとした道に立ち塞がる存在が居た。
アンノウンである。それはゾウに似た形をしており、その大きさも大人のゾウくらいはありそうだ。そんなアンノウンが俺の方をぎろりと睨んでくる。
……睨みから感じるその恐怖。目を離したらやられる!
「運悪いな……」
向こうは既に俺に気付いているので、近くの小道とかに逃げても意味はないだろう。目を離したら……恐らく死ぬ。いや、目を離さなくても何れは死ぬかもしれない。
何の力の持たない一般人がアンノウンに襲われればどうなるか、容易に想像がつく。これがまだ自衛隊の人とかだったらまだ良かったが、俺は一般人だ。
「!?」
冷や汗をかきながらゾウの見た目をしたアンノウンを見る。次の瞬間、その長い鼻を俺の目の前に叩きつけてくる。叩きつけられた場所は大きく凹み、アスファルトも砕ける。
「どうする……」
魔法少女が駆け付けてくれれば良いが……今のところ、気配がない。
「くそ」
諦めたくはないが……しかし俺みたいな一般人に何が出来るというのだ。アンノウンは、また鼻をぶんぶんと回し始める。これは次が来る。
今度は的確に狙っていているようなそんな感じがする。避けられるか?
「……!」
振り下ろされた瞬間、俺は咄嗟に目を瞑ってしまった。一番やってはいけない事だったが、もう瞑ってしまったものは仕方がない。来るであろう衝撃に身体を強張らせるのだった。
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